自主性を自己責任と勘違い
興味や関心を持たせて、主体的に学習に取り組ませることは、教育活動の目標の1つだ。「教える」から「学ぶ」へ、教育活動のあり方は転換されてきた。教師の仕事は、専ら教えることが中心だが、教育活動のデザインも重要な仕事だ。要するに授業づくりということになる。
自主性を伸ばすこと
主体的に取り組ませること
自ら考え行動するようになること
「自分でやりなさい!」は、放置&丸投げになることがある。
スキルがない生徒が手探りで課題に取り組む。うまくいかない。成果が出ない。おしえてもらっていないことを自己流でやってみただけだ。上手にできない。この状態で成績がつけられたとするなら、その成績は元々のスキルを評価したのであって、取り組みを評価したことにはならない。
普段、教科書の太字語句を覚えさせているだけの授業をしていて、テストでいきなり「100字以内で述べよ」とか、記述問題を出題する。自主的勉強していればできるというのは乱暴だ。
単純作業のような課題であればいいだろうか。反復練習のような、何回も繰り返しやってきなさいという課題を与えて、やってきた回数や量を評価する。
この場合評価されているのは、
やる時間があったかどうか
できる環境にあったか
こなす集中力や忍耐力があったか
であって、自主性ではない。
目標への到達度ではなく、取り組み量を評価すると、取り組みの質を見ないことになる。教育活動評価は、目標への到達度で測るべきだ。単純な回数が意味を持つ場合は限られている。回数や数量で評価する場合、個人差を考慮して、個別の目標設定が必要である。
生徒が自分で考えて行動できるようにするにはどうすればいいか
方法や手段を与える
方法や手段の使い方を体験させる
他の生徒の場合を見せる
自分で考えさせるには、考え方をレッスンして練習する必要がある。いきなり自分で考えられない。例題が必要ということだ。楽しくできる課題を与えたい。
レッスン1 お菓子をたくさん集めよう
チョコレート、綿あめ、プリン、シュークリーム、ようかん、ラムネ、カステラ、柿の種、クッキー
レッスン2 お菓子を2つのグループに分けよう
和菓子と洋菓子
焼き菓子と生菓子
米菓と小麦菓子
冷菓と常温のお菓子
甘いお菓子と塩っぱいお菓子
自分で考えるには、知ることと調べることが不可欠だ。自分で調べるのは、容易ではない。検索しただけで終わってしまう。例題を使って体験させるべきだ。
レッスン3 お菓子を調べよう
(1)実物を手に入れる
実物を手に入れるとわかることは何かな?
味、手触り、大きさ、名称、原材料表示、賞味期限、価格、販売店
(2)製造している人におしえてもらう
わかることは何かな?
作り方、一度にいくつ作るか、作る時間、規模、作る人の思い
実際に調べなくても、調べ方と何がわかるかを考えさせることが大事だ。目的と方法が合っていないと無駄になる。調べ方を自分で選べるようにすることが目的である。
(3)動画投稿サイトを検索してみよう
わかることは何かな?
(4)英語で動画投稿サイトを検索してみよう
(5)新聞記事を検索してみよう
(6)図書館を利用してみよう
もっといろいろな方法がある。書き切れないが、調べるスキルを身につけさせてから、自分で考える課題に取り組ませてほしい。生徒が自分でできるという状態をまず作ってから、自分でやらせる。説明しただけではできるようにならない。考えて行動することを生徒に求めるなら、説明だけでなく、体験や実践があった方がいい。
方法を自分で選べる状態をつくる。手札や持ち駒がない、あるいは1つしかないのに、ゲームをしろ、自由にやれというなら、ゲームの結果はスタート地点で決まってしまう。方法をいくつか教えておくから、使い方の自由が生まれる。
先生がいろいろ考えてみて!と言うが、方法を知らなければ、いろいろはない。たまにユニークな答えを言う生徒がほめられるが、それはたまたまだ。たまたまを全員には求められない。もともと生徒が持っているものを使わせるのではなく、教員がスキルやメソッドを与えてほしい。選択肢を与えるから自由が広がる。無制限の自由でなくてよい。フィールド内の自由でいい。範囲がないと途方に暮れる。はじめての航海で地球の裏側まで行く必要はない。土俵やフィールド、リングの中で十分おもしろいゲームはできる。
何をすればいいのかを考えられる適切な範囲や制約を決めて、選べる選択肢や組み合わせがある状態を教員主導で整えてほしい。生徒の自己責任からスタートすると、成長や学習のチャンスがない。
主体的な学習は、生徒のオリジナリティ、独自性を求める。生徒自身にとっての最適や最善を成果として提出してもらいたい。他の生徒と同じ、定型化した正解を一律に求めるわけではない。
つい教員は模範や好例を示したくなる。模範やお手本を与えると、意図していなくても、模範へと誘導してしまう。体験的に例題を用いてスキルを学ばせるときも、きれいな答えに誘導してしまうことがないように気をつける必要がある。
他の生徒の取り組みを相互に見ることで、自分ならこうするという置き換えの思考を働かせたり、自分では気づけなかったことに気づかせたい。他の生徒の取り組みを見て自分にないものを見つけられれば、視野は広がることになる。
主体的な学習のエンジンは、自分へのメリットを感じるかどうか
自発的ではない学習を自主的な学習にするのは難しい。課題は与えられたものだ。成績はつけられるものだ。しなければいけないから学習することに変わりはない。主体的な学習をさせるためには、スキルアップだけでは足りない。原動力が必要だ。何でもスキルがあれば自ら取り組むわけではない。
おもしろい
ワクワクがある
やりがいがある
好奇心をくすぐる
注目を得られる
原動力は単純だ。教員は工夫しておもしろさを感じられるように導いたり、グループワークや発表会を仕掛ける必要がある。周りの人たちの生の評価と自分で見たり聞いたり体感できる成果物が必要だ。映像記録やレポート、作品が有効だ。最も効果があるのが、他者からの評価である。コメントやリアクション、うなずきなど、生徒や関係者との交流がいい。
知識がテストの点数だけで評価されると、とても個人的で孤独な戦いだ。主体的な学習は、成果を共有する活動、成果を表現して伝える活動があると推進力になる。
生徒の自主性を見たい。主体的に取り組んでほしい。しかし、課題を与える。期限を設ける。教育活動として、生徒にさせているのである。本当の主体性は、教育活動の終了後に現れる。学習の成果があれば、自ら学習を継続したり、応用したりする。あくまで教育活動は、前段階に過ぎない。
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