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目の前に虹が昇る【Yukon Canoeing Trip_Day3】


三日目朝食を済ませて、残されたラバージ湖の道を急いだ。これだけ広いと、このままずっと漕ぎ続けるのではないかと、ゴールへの期待感は薄れ始めていた時、湖の隅に確かに支流に繋がる流れがあった。見つけた時には、感動してしまった。

ユーコン川支流に入ってからは、また再び心地良い川の流れに身を任せる。透明度が高く美しくて、水に何度も触れてみた。パドルするのは一旦辞めて、釣り糸を下げてみたり、カヌーの上で寝そべってみたりもした。こんなに余裕を持てるのも当たり前じゃないことはもう十分学ばせてもらったので、いつも以上に開放感と同時に有難いという気持ちで溢れる。


午後になると、その晩のキャンプ地を目指して漕ぐのが私たちのルーティン。
日が暮れる前に、テントも張りたいし、ご飯も済ませておきたいところだ。何よりできるだけ熊には出会いたくないので、その気配を感じない場所を見つける必要がある。
キャンプ地は、地図で「Good camp」と印が付いているところをまず見つけて行ってみる。先客がいたり、雰囲気が鬱蒼としていたりするところは違う気がして、また次の停泊地を目指すようなスタイルだった。

この日に目星を付けていた場所に辿り着いた時、既に先約がいた。横を通り過ぎながら、岸辺に停泊しているカヌーと、その奥には50代くらいの夫婦の姿が見えた。
わたしは、この森の中で人が生活している図が、味わいがあって好きだ。数十年前にも、このユーコン川のそばでネイティブカナディアン(ファーストネーション)の暮らしが営まれていたのは事実で、実際にその時代に生きていなかった私でさえも、その生活像と重ね容易に想像することができる。今彼らは、狩猟採集生活だけでなく、現代の暮らしをミックスした暮らしを営んでいる人たちがほとんどだ。
そのご夫婦は遠くから見ても、カヌーや荷物の扱い方から、カヌー旅での経験があり余裕さえ感じる。生涯の趣味として、幾つになってもカヌーはできるし、20年後や30年後の年齢になってもまた旅に出たいねと夫とそんな話をした。

しばらく漕ぎ続けて、もう一つの地図で「Good camp」と書かれているキャンプ地にたどり着いた。

まるで映画に出てくるような川に浮かぶ、理想的な孤島だった。
視界も良く、広めの空間が森の中には広がり暮らしやすそうだ。おまけに、横に流れる水の透明度が高くて、とにかく最高だ。

今晩は、ここに決まり。

3日ぶりに身体や頭を洗った。川の流れの中に、逆さまにした頭をつけると、髪の毛の間に川の水が通っていくのが気持ち良い。今は真夏だけど、さすがに陽が下がってくるにつれて、川の水は冷たく感じるので、短い時間で行水を終える。
そのまま何日かずっと着ていた服を洗濯をして、木々の間に張ったロープに吊るした。

川で行水と洗濯を。


夫が釣り糸を投げて遊んでいる。小学生の頃から釣りをしていたという彼の手つきは、随分慣れているように見える。私も見よう見真似で釣り糸を投げてみるけど、ぎこちなさが常にあって、時折下の石に引っかかってしまった。しばらく投げてみたけど、残念ながらここに魚の気配はなかった。まだ釣った時の高揚感は、味わないで取っておきたい。

釣り糸を投げてみた


夕食準備中。

山場を終えたので、夕食には豪華に大好物のココナッツカレーと貴重な白ワインを。
と、楽しんでいたのは束の間。
通り雨の雨雲が近づいてきて、大粒の雨に降られた。慌てて大きな針葉樹の下に避難させたけど、雨の勢いの方が強くて、あっという間にずぶ濡れになった。

雨も終盤になった頃、カヌーの中にいくつか雨晒しになっている物があることに気づいて、取りに行った。もう既に手遅れで、随分濡れていた。明日は乾いてないベストを着て、漕ぎ出さなければいけないか、と想像し少し落ち込んでいたとき、夫が、遠くから私を呼び、何かを叫んでいた。


顔を上げると、目の前に大きな虹が、うっすらと浮かび上がってきていた。段々とはっきりと色づいてくるその虹は、水面から、島を囲うように大きく半円を描く。

虹を目の前に


この瞬間が現実なのかも分からなくなるほど、
奇跡のような希有な瞬間に息を呑む。

目に見える自然だけでなく、さらにその奥に宇宙があるとしたら、その一部に触れていてもおかしくない。
とんでもなく大きな安心感に包まれていた。

2023.Aug11


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Lisa | 旅と暮らしのnote
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