「人間の性はなぜ奇妙に進化したのか」感想　酒やめ読書日記16日目

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今回読んだ本は「人間の性はなぜ奇妙に進化したのか」。排卵周期を隠す、(主として)一夫一妻制であるなどは実は他の生物と比べるとかなり奇妙で、どうしてそうなったのかということを説明している本である。

○感想
・カマキリのオスは、交尾中にメスに食べられてしまうことが知られている。これはオスがメスに合える確率が一生に一度あるかないかくらいなので、セックス後に無駄に生き延びるより、メスに身体を食べてもらってたくさん卵を生んでもらったほうが遺伝子を残す上でお得だからなのだそうな。
個体の密度が繁殖行動に関係している、という観点はなかったので新鮮だった。後半、人間の周りに繁殖可能な異性がたくさんいるということが人間の奇妙な性を作ったという話が出てくるので、なるほど個体の身体的制約だけじゃなく環境的制約がそうやって効いてくるのか〜となった。
・3章は「なぜ男は授乳しないのか？」。オスは生理学的には乳を出すことができるし、現代の人間の男には乳を出せた方がお得な面がたくさんあるという話(どうお得なのかはここでは全部説明できないので本を読んでください)。
とはいえ、乳汁分泌するよう自然淘汰を受けたのはオスではなくメスであると著者自身も言っているし、テクノロジーで進化のプロセスを縮めることができるというのはかなり無理がある気がする。男が乳を出せるように進化するより人工ミルクをより母乳に近いものにする方が安いし早いと思う。
・「人の性はなぜ奇妙に進化したのか」の原題は"Why Is Sex Fan?"で、日本語版初版での訳も直訳の「なぜセックスは楽しいか」だったそうだ。しかし全体を見た結果、今の日本語訳の方が内容を正確に表していると思う。
「なぜセックスは楽しいのか？」という問については、4章の前半で
＞「どうしてわれわれがいつでもセックスするのか、わからないだって？　楽しいからに決まっているじゃないか！」
＞残念ながら、この答は科学者を満足させてはくれない。交尾中の動物を見ると、行為に専念しているその様子からして、彼らもやはり楽しんでいるように思われる。
と書いてある一方、章の最後では特に関連する研究を引くでもなく
＞皮肉なことに、そんな哀れな祖先たちは、排卵の起こっているわずかな期間にしかセックスをしなかった。そして感動もないまま、受精させよという生物学的命令を義務的にはたすしかなかった。
＞なんとしてでもひたすらに迅速な結果を出す必要があったため、あなたのように楽しんでいる暇はなかったのである。
とあり、「動物もセックス楽しんでるっぽいってさっき言ってたじゃん！」ってなる。
この章で答えているのは「なぜ人間のセックスは楽しいのか」ではなく、「なぜ人間は排卵周期を隠すのか(妊娠しやすい時期をわかりやすい形で示さないのか)」である。
・人間の繁殖環境の特徴として
1.自力でエサを取れない無力な子供を何年も育てなければならない(他のほとんどの哺乳類の子供は乳離れすれば自力で食べ物を調達する)
2.人間は経済的に協力するため、かなり大きな単位で行動しており、カップルの周りにも繁殖可能な異性がたくさんいる(人間に近い多くの哺乳類は分布がまばらでカップル・ハーレム単位で行動するため夫や妻以外の個体と交尾する機会はほとんどない)
がある。これにより、人間の女性は無力な子供を長期にわたって共に育てるパートナーを必要とし、男性はパートナーとなった女性がたくさんの異性に囲まれている状況下でも子が自分の遺伝子を継いでいると信じられる状況を必要とする。これを踏まえた上でより良く繁殖するためには排卵周期を隠す(いつ妊娠しやすいか隠す)方がお得、という話。詳しくは本を読んでください。議論そのものも面白かったが、比較実験が許されない人間という対象物を扱うにあたって、どのような研究の攻め方があるのか知れた点も良かった。なるほど近隣種の比較という手があるのだなあ。

次の本は「暴力と不平等の人類史―戦争・革命・崩壊・疫病」(ウォルター・シャイデル著、東洋経済新報社)。平等は破滅的出来事の後にしか起こらない、という話らしい。値段が値段なので買うのをためらっていた本なのだけど、内容的にはかなり興味あるので楽しみ。

16日目収支報告:

1日禁酒成功代:＋2500円(11・12・13・14・15日分)

頂いたサポート:＋400円

前回の引き継ぎ:＋4138円

書籍購入費:−5346円

(「暴力と不平等の人類史―戦争・革命・崩壊・疫病」　ウォルター・シャイデル著　東洋経済新報社　電子書籍版)

計:＋1692円