互いに槍を置くための贈与、あるいは人に殺されないためのショウガについて
「剣を握ったままでは おまえを抱き締められない」
と言えばBLEACH5巻に書いてある有名なポエムだが、それと同じようなことがモースの贈与論の最後の方に書いてあって、「昔からこういうことはあったのだな〜」と思った話。
トロブリアント諸島のキリウィナの人々がマリノフスキー(人類学者)に次のように語った。
「ドブ島の人々は私たちのように善良ではない。残酷で人肉も食べる。ドブ島に着くときに私たちはいつも警戒している。彼らに殺されるかもしれないからだ。しかし、ほら、私がショウガの根を吐き出すと、彼らは心変わりする。槍を置き私たちを歓迎するのだ。」
ドブ島の人々が本当に人肉を食べていたのかは知らない。しかし「人肉食いだ」と噂されるヤバい人が近くにいたとき、その人肉食い部族に食われないための方法としてショウガプレゼントが使われた、というのはとても面白いと思う。
通常、ヤバい人から逃げるためには、物理的に距離を置くのが最良である。しかしちょっとの航海も命がけな島の住民だと、大規模引っ越しをするのは現実的ではない。近くにどんなヤバい人がいても何とかやっていくしかない。そこで贈与である。ヤバい人の攻撃ターゲットの対象にならないために、「自分らは友だちだよ〜殺さないほうがお得だよ〜」をアピールしていくのである。
プレゼントを持っていくには手が必要である。その分槍を握っていた手を離す必要がある。同様にプレゼントを受け取るには、槍を手離す必要がある。他人に殺されないための方法として、大きな武力を持つという方法もメジャーだけれど、「ショウガをプレゼントするので受け取ってください」と言う、そういう方法もあるのだ。
人間の資本が増えます。よろしくお願いします。