蒼い手紙
あれから13日が経った。
奴隷卒業試験の前日に敦司の家のポストに一通の手紙が届いた。
厚手の淡いブルーの封筒だった。
宛先だけが書かれていたが、敦司はすぐにそれが麻美からのものであると察知した。家の中に戻り、そして応接室のソファに座り込んで封書を開けた。
麻美の苦悩と覚悟が沁みた手紙だった。
敦司の考えはどうあれ、反論の余地がない麻美の強い思いを実現するための手紙だった。
敦司はしばらく応接室から出てこなかった。
奴隷が紡ぐ幸せ
敦司から麻美に対して連絡することはなかった。それは、破門とも、いつでも帰ってきて良いとも受け取れたが、真相は謎のままである。
麻美もまた、敦司への一切の連絡を絶った。ただし、スマホの監視アプリは入ったままだったので、いつ・どこで・誰と何をやっているかは筒抜けの状態だった。もちろん、敦司がその機能を使うかどうかは分からない。しかし、麻美はこの後2年間スマホを変えなかった。
お互いに連絡することはなかったのだ。
そして、その2年間、麻美は東京で自分を探す旅を続けた。
負けず嫌いでしっかり者の自分を愛しながら。
・・・
少しずつ、麻美の中の敦司の存在が小さくなり、そして記憶も朧気になっていった。いろんなことが薄まっていったけれど、麻美はあの時の匂いをまだ覚えている。
彼女のアイデンティティを確立するために必要なのがSMだった。敦司だった。晃子だった。
麻美の憧れたSMは、まだ彼女の中で輝きを持っている。
「ありがとうございました、ご主人様。」
「私、自分のことが前よりも好きになりました。」
「私、次に進めそうです。」
<路上の恋文・完>