鍵盤の前の、どこに座ればいいの?
2月から大人のピアノクラスを始めて、とても楽しい。
ある日、受講生の一人である夫から聞かれたことが私にとって衝撃的過ぎてnoteを書くことにした。
『ピアノランドたのしいテクニック上』や『ピアノランド こどものスケール・ブック』の中の課題を使って指導しているのですが、今まで
「手の形はこれで大丈夫ですか?」とか
「5の指がグラグラするんですが……」とか
「重心の移動の練習をしたら、力が抜けました」とか
いろんな感想や質問をもらってきたけれど、
不意に、自宅で、夫が質問した言葉があまりにも意外だった。
「鍵盤の前の、どこに座ればいいの?」
それは、それは……。
そう言われてみれば、鍵盤の前のどこにでも椅子は置ける。
すごく左の方だって、右端の方だって、椅子はどこにでも置ける。
また、端っこに座って弾いてはいけない、とか書いてある本はないし、
初心者の人にとっては、ただ何となく、ピアノの真ん中あたりに椅子が置いてあってそこに座る、というだけのことかもしれない。
しかし。
しかし、だ。
考えてみれば、鍵盤の前のどの辺りに座るか、というのは実はとても大切な問題ではないか!
曲によっては低音域を中心に使ったり、高音域だったり、はたまた真ん中だけの曲もあれば、極めて広い音域を上下する曲だってある。
そのときの私は不意を突かれて、思わずこう答えた。
「えっ、どこって……」
すると、夫はすかさず言った。
「真ん中のドの辺りなの? それとも、ピアノのロゴの真ん中あたり?」
確かに、初心者の曲はミドルC、真ん中のドを中心にして左右に音域が広がっている練習曲が多いので、普通に考えれば自分の身体の中心をそこに合わせて、両手が均等に構えられるようにしよう、と思えば真ん中のドにおへその位置を合わせるのが良さそうだ。
真ん中の「ド」を弾きやすいところに座るのは「有り」だろう。
けれど、ピアノという楽器の真ん中にドーンと構えるように座っていれば、腕は自由に動くのだし、私のレッスンでは最初に広い音域での重心移動について学んでいるのだから、ピアノの真ん中に座るのも「有り」だ。
そもそも、曲によって音域はどんどん変わっていくのだから、ミドルCだけに合わせることはない、とも言える。
果たして、私はどこに座っているのか?
それで、
「ちょっと待って!」
と言って、自分で座ってみる。
ふふふ。
当然ながら、私は後者の位置に座っている。
だって、そこに座っていれば鍵盤のどこにだって自由に行き来できるし、そこが座り慣れた景色だった。
(と、座って初めて、改めて実感したのだった……)
楽譜の真正面に座り、身体は楽に構えてスタートすれば、ほとんどの曲はこれでいける。
もちろん、すごく高音域だけで難易度の高い部分があったりすれば、若干身体をずらして座ることもできるが、すぐ次に低音を使う場合だってある。
ピアノのほぼ真ん中辺りに座るのが、王道だ。
当たり前過ぎて、普段意識していないことってある
「椅子に座るとき、ピアノに近づき過ぎないように」
というのは、いつも気をつけてアドバイスしている。
鍵盤に近づき過ぎていると腕が楽に動かせない。
身体の前を肘が自由に通れるようでなくては、クロスハンドもできないし、両手とも高音、低音を弾く場合におおいに困る。
ピアノに身体が近すぎると視野が狭くなるので、音楽も縮こまってしまう。
やや離れて座ると楽譜と鍵盤を見るときに顔の角度を変えないで視線を動かすだけで可能なのだが、鍵盤に近づいて座っている初心者などはしょっ中楽譜と鍵盤を見比べるのに忙しく、首の角度がせわしなく変わるので見ていて疲れる。
という具合に、椅子の前後は気にしていても、連弾以外では左右の位置について考えたことがなかった!
それくらい、本能的に座っているだけだった。
大人のピアノクラスは、このように自分にとってとても新鮮な出来事がたくさんある。だから、面白い。
例外もある
ただ、身体の小さな子どもにとっては、ピアノは巨大だ。
幼児が初めてピアノを弾くときなら、両手が真ん中の「ド」を弾きやすい位置に座っていいし、音域が広がってきたら少しずつ真ん中に座るようにしてもいい。
また、片手でピアノを弾く人にとっても、椅子をどこに置くかは大きな問題で、両手で弾く人と同じ位置でなくても全く構わない。
私自身も左手のための曲を書き、演奏するけれど、曲によってはやや右側に座ることもある。
長椅子タイプはそういうときにとても助かる。
椅子の場所を変えずに、ほんの2、3センチ腰を左右にずらして座っても何の影響もない。
背もたれのあるタイプの座面が小さい椅子では、そうもいかない。
結局考えたのは、
自分の身体の声を聞く大切さだ。
どこでも、自然に座りやすいところに座ればいいし、弾きにくいと思えば移動すればいい。
最初は、真ん中に座ればいいと思う。
けれど、微妙に曲によって変化してもいい。
曲中で少しだけお尻の位置をにずらした方がいい、と指導したこともある。
私自身は小柄ではないし腕が長いのだけれど、小柄で腕が短い場合には少し工夫した方がいい結果が得られることも多い。
ピアノとの距離(前後)はとても大事だけれど、左右の位置についても考える余地がある。改めてそう思えたことはよかった。
夫、ありがとう!
今回はソロの場合だけれど、これが連弾になったらもっと色々大変だ。
それはまたの機会に!
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