イベントレポート:『noteの躍進を支えた”定性と定量の甘い関係” ─ データと世界観をどう組み合わせる?』
2019年11月14日の木曜日。noteさん主催の『noteの躍進を支えた”定性と定量の甘い関係” ─ データと世界観をどう組み合わせる?』に参加してきました!noteさんのイベントに参加するのは、7月に開催された『みんなが使えるFACTFULNESS』以来ですね。とてもお久しぶりです。
当日はYouTubeでライブ配信もされていて、会場にいない人でも映像が見れるようになっていました。現在もアーカイブ映像として見ることができます。
https://www.youtube.com/channel/UChKKfSjSQ4IeMI6TrDLpmCg
また、当日使われたスライドも公開されていますので、ぜひご覧ください!
1. 登壇者のご紹介
まずは、イベントの登壇者の方々をご紹介しようと思います。詳しいプロフィールは、イベント告知noteにも記載されていますので、そちらもぜひご参照ください!
note グロース戦略顧問:樫田光(かしだ ひかる)さん
樫田光さんは、株式会社メルカリでデータアナリストチームのマネージャーをされていらっしゃる方です。少し前にnoteのグロース戦略顧問になられたのですが、「転職ですか?!」と樫田さんのTwitterがざわついていらっしゃいました。外部アドバイザーとしてのご就任ですので、転職はされていらっしゃらないです。
株式会社ピースオブケイク CXO, THE GUILD 代表取締役:深津 貴之(ふかつ たかゆき)さん
深津さんは、UX/UIデザイナーとして活躍されているだけでなく、エンジニアでもあり、マーケッターのようでもありと非常に幅広い分野で活動されています。物事をわかりやすい形に分解して伝えるのがとても得意な方です!
株式会社ピースオブケイク デザイナー:松下 由季(まつした ゆき)さん
松下さんは、デザイナーでありながらグロース戦略にも携わり、分析もデザインもできるという素敵な方です!松下さんの自己紹介は下記のnoteに詳しく書かれていますので、どうぞご覧ください!
1. ピースオブケイクの強みと問題意識
1-1. 樫田さんがジョイン前に抱えていた問題点
では、早速イベントレポートを書いていきます!
樫田さんがnoteグロース戦略顧問に就任されたのが、2019年10月16日なのですが「それまでのnoteはどのようなものだったのか」というところから話が始まりました。
樫田さんがジョインされるまでは、社内にデータ分析のためのチームはあったものの、深津さんの今までの仕事などの経験から「こうだろうか…?」と手弁当(経験則)でやっていた部分があったとのこと。そんな状態だったので、データアナリストの樫田さんのジョインはとても嬉しかったそうです。
1-2. CXOとデータアナリスト、お互いどう歩み寄っていくか
事業やプロダクトに対して感覚的に物事を進めていく人と、データなど事実から物事を判断する人は割と対立しやすいという話も出ました。定量的な根拠と定性的な話が対立しがちなので、そこの部分をお互いに理解しきれず(もしくは理解しようとせず)「なに言ってるんだこいつ」みたいなことになるのだそうです。
上記のお話だと、「深津さんと樫田さんもお互いに仲が悪いのか?」となるかもしれないのですがそんなことはございません。お二人はもともと似た素養を持っていて、その上で定量的に考えるのが得意なのか、定性的に考えるのが得意なのかという違いがあるだけとお二人が仰っていました。
とは言え、CXOとデータアナリストという異なった立場のお二人。やはり、サービスに対するアプローチの方法も異なっています。深津さんは「戦略、施策など、すべて物事を全体を俯瞰してみていく」ことが得意なのですが、樫田さんは反対に「フォーカスすることがデータアナリストの強さ」ということで、「一つの出来事から広げていく」やり方が得意なんだそうです。
2. ここ半年で進めてきたこと
2-1. KPI設定について
「会社としては儲けないと駄目だが、利益はガソリンみたいなもので、目的達成のために必要なツールであって目的ではない」とのこと。ガソリンを最低限補給するのは大切ですが、ガソリン(利益)をたくさん得てもその利益を使わないまま腐らせてしまっては意味がないそうです。プロダクトがしっかり回っているか、どこかで詰まっていないかを常に確認してミッションに近づけていくことが大切なんだそうです。
さて、ピースオブケイクさんのミッションは、「だれもが創作をはじめ、続けられるようにする」なのですが、「愛!夢!希望!」みたいな、勢いだけといいますか、ただただ抽象的なものにはしないようにしたとのこと。サイクルとかフローのなかで語ることができて、ちゃんと定量的にも見ていけることが大切なんだそうです。
2-2. クリエイターの創作継続率(通称:パブロ・レート)
さて、データからnoteのサービス設計を考えていくなかで、「この部分が問題だよね」「ここも改善した方がいい」という改善すべきポイントがたくさん上がってきました。その次の問題として立ち上がってきたのが「どこから手をつけるべきか」という優先度のお話でした。
noteではどのように施策の優先度を決めたのかというと、数値やデータをいろいろと突き合わせて調査した結果、最終的にはミッションと照らし合わせて決められたそうです。創作を続けることの大変さは、実際にnoteで記事を書かれている樫田さんやnoteを運営しているメンバーの方々も実感していて、「ものを作る人が継続できるようにする」ということが大切だよね、というお話になったそうです。このクリエイターの創作継続率(noteでは「通称、パブロ・レート」と呼ばれているそうですが、あまり浸透していないとのことでした……)を上げていくための施策を打っていこうという話になりました。
3. ここ半年でやってきたこと、7〜8月ごろ編
さて、「クリエイターの創作継続率」を上げよう!と決まりました。では、実際に継続率を向上させるために最も良い施策はなんなのでしょうか?どんどん話し合いをするなかで、「書きたいものがないのでは?」という仮説が出たそうです。なので、お題機能を搭載してみるとか、下書きを掘り起こすとか、いろんな施策を行ったそう。
ちなみに、このサービス改善の施策をどうするのかお話をされている際に、深津さんが「歪んだ集客をするとすごい大変」というお話を、「穴あきバケツ」に喩えてお話してくださいました。上から入っていくる水(新規ユーザー)を入れる前に、まずはバケツの穴(サービスの欠点)を埋めないと、ただただユーザーが離脱してしまうというお話です。
3-1. クリエイターが創作するための条件要素
① 創ることへのモチベーションがある
② 創る・書くコンテンツがある
③ 創る・書くための物理的制約がない
(※③につては「時間がない」「忙しい」など、運営側で解決できない問題なので触れない)
クリエイターが継続して創作を続けられない問題として、「コンテンツ作成が最も大きな課題」なのでは?という話が社員の間でなんとなく共有されていたそうです。どんな課題かというと、クリエイターが「何か書きたいけど、何をかけばいいのかわからない……」という人が多いのではないのか?というものです。
そこで、試作機能として「お題」を拡充してみたとのこと。コンテンツの元がないから続けられないなら、その「元」になるようなものをnote側から供給すれば良いのではと試してみたそうです。(お題機能などは、そもそも投稿型のメディアによくあるもので、会社の開発リソース負担も少なかったことも施策の実行を決定する上で大切だったとも仰っていました)
ただ、こちらの施策を試したのち、ユーザーインタビューやアンケート(Survey monkey)をやってみたところ「お題の範囲は自分で決めている(お題不要)」派が60%を占めていたとのこと。自身のブランディングのツールとしてnoteを使っている人も多いようで、そういう方々にとっては「お題拡充の施策はあまり効果的ではないのでは……?」という空気感が出てきたそうです。
「よし!数値でもそう出たのならメインユーザー層に対して施策を考えよう!」となるのが世の常ですが、深津さんはここでストップをかけたそうです。「お題拡充することに自社のリソースを大量投入することはしない。けれども、40%のユーザーはお題などを利用してnoteを書く人がいる。ピースオブケイクのミッションは、「だれもが創作をはじめ、続けられるようにする」なので、お題拡充の施策は残しておこう」という話が出たそうです。ここは定性的な部分と定量的な部分で、全てのユーザーにとってなにがベストなのかを見極めていく重要な部分だったのです。
3-2. モチベーションが最重要
では、改めてクリエイターの創作継続率にはなにが重要なのか?という話に戻ると、先ほどの調査の結果、一番ユーザーが不満に思っていることは「投稿への反応がない」というモチベーションに関わることだったそうです。他にも、「他人の役に立っているのか実感がない」「仕事やキャリアに繋がる実感がない」など、モチベーションに関わる不満がアンケートの上位に入っていたとのこと。
今までもなんとなく「書いたら誰かの反応が欲しいよね」ということは全社的にぼんやり認知されていたものの、数値やデータで証明されていない状態でした。今回の調査で、間違いなく「モチベーション向上」にリソースを突っ込んでいいんだね!とみんなが分かったことが収穫だったとのこと。とりあえず「この施策やっとくか!」というあてずっぽうな段階から、データで証明された証拠をもとに「よしやるか!」になれてよかったとのことでした。
4. この時の結果について
4-1. 実際に企画をするフェーズに入っていくと……?
樫田さんがnoteに参入されてから、トップスMTG(経営陣と戦略の意思決定を行う会議)と、ボトムスMTG(戦略から実際にどう施策に落とし込むかの会議)を隔週で交互に繰り返しているのだそうです。どちらのMTGにも樫田さんが参加されています。
トップスMTGは、会社の戦略の方向性や重要事項などをその場で決めているそうです。決定まで時間がかかるようなことをしない体制づくりがとても重要なんだそう。「スタートアップで怖いのは、慎重になりすぎて沈んでいくこと」と深津さんは仰っていて、意思決定までのスピード感を大切にされているとのことでした。
ボトムスMTGでは、実動部隊(フロントエンジニアやデザイナーなど)との話になるので、トップスMTGで話された戦略を実際に手を動かすメンバーに伝えていくことをしています。樫田さんや松下さんがボトムスメンバーにしっかりトップスメンバーの意図を伝えて、実動部隊が「どのような意思決定がなされて、どう動いてくべきなのか」とわかるようにすることが大切なんだそうです。
4-2. 振り返りと知見をためていく
いくつかの施策が実施されていくなかで、振り返りと知の蓄積という観点から、お二人の考え方の違いが現れたというお話もありました。短期間でいくつかの施策を回しながら、全体の改善スピードを下げないように調整している深津さん。中長期的な目線で、個々の施策のなかで重要そうなものをピックアップして学びを蓄積していきたい樫田さん。
樫田さんは、「この施策ではなにをやって、なにを学んだのか?」を問い、それらのデータを抽象化したり、扱いやすいようにして社内に知見を貯めていくことを大切にされています。深津さんもその点に関して同意されていました。ただ、深津さんは全体を見通してサービスを考えることを大切にされているので「施策を10本打って2本当たったとして、その時の振り返りで事業改善のスピードが止まるくらいなら、次の10本をどんどん回したほうが良い」という考え方をされていたんだそうです。
お二人の考え方はどちらも大切です。社内に知見を蓄積することも重要ですし、サービスの改善スピードも緩めないように気をつけなければなりません。また、サービスそのものが今どの段階にいるのか、会社の規模などにもよってもその時々で選ぶべき選択肢が変わってくると思いました。
また、深津さんが「施策をたくさん打つのは良いけれども、ダメになった時にすぐに戻れるようなシステム設定だとか、サービス設計をしておくことが大切」とも仰っていました。そうすれば、いつでも戻れるという心理的安心感もあるなかで、改善サイクルのスピードが鈍化してくるまで複数の施策を回し続けていくことも重要とのこと。
樫田さんは、スピード重視で施策を回していく深津さんを止めたり、逆に個々の調査に時間がかかってスピードが鈍化しそうなときは深津さんが樫田さんを止めたりと、お互いにいい意味でぶつかり合いながらサービスの改善と知見の蓄積を進めているとのことでした。
5. 定性と定量をうまくバランスするためのコツは?
5-1. 定性的に考える人と定量的に考える人のコミュニケーション
まずは、ひとりの人間としてリスペクトすることが大切とのことでした。また、相手の分野に対して、ある一定の理解を持つことも重要とのこと。樫田さん曰く、「定性的に考えることが得意な方と、定量的に考えるのが得意な方でお互いの考え方を理解するために1ヶ月ぐらい我慢して話を聞いてみては?」とのことでした。そこで合わなければ仕方ないとのことです。
一方、深津さんは「定性的な人に、定量でやらないとできないことをさせてみる。その反対もやってみるといいかも」と、あえてお互いの得意分野をトレードして、相手の仕事範囲の内容を強制的に理解させるというやり方もあるとのことでした。
5-2. 深津さん、樫田さんが譲れないもの
深津さんは、「個々の施策は譲ってもいいので、全体分布・全体バランスの評価をスキップするは譲れない」とのことでした。一方、樫田さんは「施策はバンバン出すのはいいけど、それらの施策を分析して、学びを抽象化してストック化しておくことは譲れない」とのこと。施策から得た学びのストックが最終的に、深津さんや樫田さんが事業に関われない場合でも、他の人がある程度学びを再現できるだとか、ノウハウが共有できることが大切なんだそうです。全体を構造化して、再現性を創ることが大切なんですね。
6. 質疑応答
<質問>学びのストックとは具体的になにをしているんでしょうか?
樫田さん:
①ドキュメントを残す(数値):誰がみても客観的に見て分かるもので、誰でもアクセスが可能な状態にしておく
②会社やチームでのコンセンサス:こちらが大切!
分析をきっちりとして、分析結果を噛み砕いてわかりやすく周りに伝えていくことが大切。会社全体としてある一定以上のコンセンサスがある状態だと、不要な議論をスキップできたり、最終的には会社の文化へとなっていく。ただし、思い込みにもなりがちなので、ここのバランスをとるのは大切。
深津さん:ミッションの浸透に力を入れている
全員が超人とはいかないので、雑に使っても大丈夫な運用方法を使うようにしている。ミッションは北極星に喩えられることもあるが、途中でうろうろする人もいるし、つまづく人もいる。でも、みんなが最後にゴールにいければいいよねという感じにしておく。
僕(深津さん)が、いなくなっても大丈夫な要素を残しておくことが大切。
6. これからnoteをもっと楽しくしていきたい!
深津さんは、noteを外側(他のマスメディアなど)と接続していくことを今後は進めていきたいと仰っていました。出版やテレビなどと積極的に関わっていくとのことです。
樫田さんは、「①サービスとしてのnoteをどうしたいか」と「②会社としてnoteをどうしたいか」の2つの軸があると仰っていました。樫田さん自身、noteのミッションを心から信じているので、どんどん良い輪を広げていきたいそうです。ご自身がnoteを通じて、30代の人生が大きく変わったそうなので、良い意味で関わる人の人生が変わるようなサービスにしていきたいとのこと。
2つ目のポイントに関しては、施策単位だけでなく、経営の設計部分にまで踏み込んでいくことを大切していきたいとのことでした。ピースオブケイクという会社が人数が増えてもスケールするようにやっていきたいそうです。また、データ(樫田さん)と世界観(深津さん)をnoteに残していくことで、深津さんや樫田さんがいなくなったとしても、サービスが回るようにしていきたいとのことでした。
7. 最後に
深津さんと樫田さんがお互いをとても尊敬されている雰囲気が聞いている私にも伝わってくるような、とても暖かい雰囲気のイベントでした。また、かなり具体的にnoteのサービス設計のお話をお伺いできて、「そんなことまで教えてくださるんだ!」と聞いていてワクワクしました。またイベントがあったら参加しようと思います〜!