イベントレポート:『ビジネスコミックのつくり方[入門編]〜漫画家・シナリオライターになるには?〜』
2019年5月27日の月曜日。株式会社トレンド・プロさん主催の「ビジネスコミックのつくり方[入門編]〜漫画家・シナリオライターになるには?〜」に参加してきました!
つい最近も『#これからのお金の話』と言うイベントに参加させていただいた際に、ピースオブケイク本社さんにお邪魔したのですが、やっぱりめっちゃオフィスが綺麗でした……。羨ましい……。
さて、今回なぜ私がビジネスコミックについてのイベントに参加したかと言いますと、大阪支社に勤めている酒うさぎさんが「このマンガのイベントに参加したいんですけど、東京なんで……誰か、誰か代わりに…!!」と、まるで地方在住で東京開催のコミックマーケットに参加できないぐらいの悔しさを滲ませながら仰っていたので「じゃあ私が聞いてくるよ〜」となった次第です。
1. ビジネスコミックってなに?
さて、今回メインでお話ししてくださったのは、株式会社トレンド・プロ出版編集部の檜山萌子さん。おっとりとした雰囲気の素敵な女性なのですが、実際にお話されると大事なポイントをわかりやすく話されていて、「おぉ……!ビジネスコミック編集部の人っぽい……!」と謎の感動を覚えていました。(目を瞑ってしまわれた写真しか良いものがなく……私の写真の撮り方が下手くそで申し訳ないです……)
さて、まずは「ビジネスコミックってなに?」という話題からスタートしたのですが、ビジネスコミックとは「ビジネス書をコミカライズ(漫画化)したものの総称」とのこと。ビジネス書のなかで「ここはしっかり伝えたい!」「これは読者に届けたい!」と言うエッセンスをぎゅっと抽出したものなんだそうです。
ビジネスコミックが世間で名前が知れ渡るようになったきっかけの本は、『まんがでわかる7つの習慣』(宝島社刊)。2014年のビジネス書年間ランキング1位だったそうです。この世の中に数多あるビジネス書籍のなかでもっとも売れたんだと思うとすごいですよね。
2. いわゆる”コミック”とは何が違うの?
次のお話は、ビジネスコミックっていわゆる”コミック”と何が違うの?というお話でした。ビジネスコミック以外にも、世の中にはたくさんコミックがありますよね?ごく普通のコミックと何が違うのかと言うことなのですが、以下の点が違うとのこと。ちなみに、NARUTOを例に出したのは檜山さんのご趣味とのことでした。
NARUTOとビジネスコミック「まんがでわかる 伝え方が9割」の比較
【ナルト】:全ページ漫画
・企画 → ストーリー → 作画:1人の漫画家が全て制作
【ビジネスコミック】:「漫画+解説文」の組み合わせで構成
・企画:著者 → ストーリー:原作担当 → 作画:作画担当 分業で制作
こちらの「まんがでわかる 伝え方が9割」は、株式会社トレンド・プロさんから出版されているビジネスコミックなのですが、元本、つまりビジネス書のノウハウを伝えることが大切と仰っていました。なので、サクサク読めるマンガ部分と、しっかり読んで欲しい解説部分に分けられているんですね。ビジネスコミックを買いたい読者は、実は漫画が読みたい訳でなく、「簡単かつ短時間でノウハウが知りたい!」ということなので、漫画だけ読んでも、ある程度ノウハウがつかめるようになっているんだそうです。
また、ビジネスコミックの構成についても檜山さんがお話くださいました。メンター(元本のノウハウ/解決策を教える人)がメソッドを教えてくれる→主人公が実体験すると言う流れを経てから、解説文という流れでできているとのことでした。スライドでは、「まんがでわかる 伝え方が9割」を参考例に出しながら丁寧に解説してくださり、「なるほど!そうなっているのか〜」と、読んでいるときは気がつかなかった点をたくさん発見できました。
3. ビジネスコミックの作り方は?
さて、ここでは「誰がビジネスコミックの制作に関わっているのか?」「実際にどんなことを話し合っているのか?」など具体的な仕事のフローを紹介してくださりました。そこで、中心的に話されたのが編集会議(キックオフミーティング)。最初の会議なのですが、この時点でほとんどの重要な要素を決めてしまうのだそうです。実際に何を決めるのかと言うと、以下のものになります。
編集会議:キックオフミーティング
【出席者】
・元本の著者、出版社の担当編集者
・マンガの原作者、担当者(この時点で既にマンガの原作者は決まっている!)
【時間】:基本3時間、長いと半日!
【決定事項】
・マンガのページ数(マンガ部分で100pが基本)
・舞台設定
・キャラクター設定
・章の数(pro:困っている主人公がメンターと出会う+1〜4章+epi:成功している主人公!)
・各章に入れるノウハウ
これだけの重要な要素を、1日で決めてしまうと聞いてびっくりしました。でも、長々と何日も会議を続けて「何も決まってないじゃん……」みたいなことになるよりも、「今日は絶対に、絶対に決めますからね!!」と意気込んで決めた方が、後々もちゃんとしていたりするんですよね。ちなみに、ビジネスコミックの全制作期間(編集会議〜出版まで)は、8〜12ヶ月、長いと2年ぐらいかかるとのことでした。普通のコミックと違って出版までに結構時間がかかるのも、ビジネスコミックの特徴かもしれませんね。
4. ヒットの裏側は?
さてさて、実際にマンガやシナリオを書いたりする方はここを聞きたいのではないでしょうか?檜山さんも「ヒットしているビジネスコミックにはこの要素があるな〜」と仰っていたので、一言一句逃さないように一生懸命メモしました。
①悩んでいる主人公
②説得力のあるメンター
③マンガだけで理解できること
上記3つのポイントがしっかり押さえられていると、ビジネスコミックでのヒットが近くなるのだそうです。
1つ目の「①悩んでいる主人公」ですが、まず、主人公はノウハウを知らなくて困っている人=読者(あなた)なので、読者が共感しながら読めるようなマンガでないといけません。また、元本はビジネス書なのですが、ビジネスコミックにするとターゲットとしている層が違ってきます。なので、元本のペルソナをそのまま導入しても、あんまり効果がない場合も多いとのこと。また、漫画にすると女性も手に取りやすくなるので、ビジネスコミックの主人公には20~30代のビジネスパーソンで、女性が多いんだそうです。
2つ目の「②説得力のあるメンター」は、メンター(元本のノウハウ/解決策を教える人)その人の言葉に、読者が納得する説得力があることが大切。なので、キャラクター設定が重要になってくるんですね。大学教授、元マッキンゼーなど権威づけをしたり、営業トップ、会社のエースなど憧れの対象になる人物や神様、未来の自分などの超越者がビジネスコミックには登場してきます。それ以外の人物、例えば身近な友人などにノウハウって教えられても「そんなこと言ってもさ〜できないよ」ってなることもあると思うんですよね。それを乗り終えられるぐらいの説得力のある人を登場させるのが大切なんだそうです。
最後の3つ目が「③マンガだけで理解できること」。解説文を読まなくてもマンガだけである程度の内容がつかめることが重要とのことでした。「手っ取り早いわかりやすさ+解説文で補足もしてくれる」という構成については上記の「2. いわゆる”コミック”とは何が違うの?」でも説明しましたが、やっぱりマンガの構成ってすごく大切なんですね……。
5. ビジネスコミックの作り手に求められるものは?
編集者の人が実際に、漫画家さんやシナリオライターさんと契約するときに「ここは大切だよね……」と思う部分についてお話してくださいました。その中でも大切なことが2点あるのですが、実はこの2つには裏表があるんだそうです。
①わかりやすさ:読者が求めているもの(表側)
②面白さ:読者は面白いものを読みたいと思って、ビジネスコミックは読まないかもしれないが、つまらないものは最後まで読まない(裏側)
まず表側の「わかりやすさ」についてですが、ビジネスコミックなので、その分野の入門書的ポジションなんですよね。入門書が難しかったらその分野を学びたいと思う人は一気に減ってしまうと思います。なので、檜山さんも「わかりやすさは絶対に落としてはいけない」と仰っていました。
そして裏側の「面白さ」ですが、ビジネスコミックとはいえ、やっぱり読者に最後まで読んでもらうために、面白さも重要!ノウハウを伝える部分以外で、”面白さ”をどこまで演出できるのかが鍵になってくるんだそうです。エンタメコミック的な要素も入れたり、予定調和的なストーリーは崩してもらったりと、読者を飽きさせないための工夫があちこちにあるんだなぁと思いました。
6. トップクリエイターにきく「大事にしていること」:『漫画でわかる 伝え方が9割』コンビ
最後に紹介してくださったのは、『漫画でわかる 伝え方が9割』でシナリオを書かれている星井博文先生と、作画を担当されている大舞キリコ先生がビジネスコミックを作る際に大事にされていることについてです。
星井先生は、読者をハラハラとさせるストーリー展開と前向きな結末を作るのが得意な先生だそうです。もともと漫画家さんなので、「漫画にした時に入れやすいようにセリフを組める」だとか、ビジネスマンでもあったので、ビジネスパーソンが共感しやすい内容でストーリーを作れるなど、マルチにお仕事をされていらっしゃいます。その星井先生は、「我を出さない、求められていることを読者のために書く、”面白い”と思って仕事をする」の3点を大事にされているとのことでした。「すごくストーリーを面白くしてください!!」と依頼すると「じゃあ、オフィスを無人島に飛ばしましょう」など、たくさんアイデアを出してくださいますが、逆に「メソッドを伝えることを第一に」という依頼にも、しっかりと応えられるポテンシャルの高さがすごいとのこと。すごい先生ですね……。
大舞キリコ先生は、絵力のある素晴らしい漫画家さんだとのこと。確かに、大舞先生が担当されたマンガを読ませていただきましたが、怒った女性の表情などすごいリアリティがあって「おぉ……こんな人いるよね……」となりました。リアリティとフィクションを上手く描き出せる漫画家さんってすごいですよね。大舞先生は「コマの1つ1つに意味を持たせる、読み手に伝わる絵を描く、シナリオを読者に伝えるのは自分の絵という意識」という3つのポイントを重要視されていらっしゃるとのことでした。元々は長い文章なのですが、要点を絞るとこの3つだそうです。
で、ここからは「ビジネスコミックでマンガを描きたい人」「ビジネスコミックでネームを描きたい人」「ビジネスコミックでシナリオを書きたい人」向けの耳寄りな情報です!以下の点ができる人、やってみたいと思える人はビジネスコミックに向いているのでは?とのことでした。
ビジネスコミックでマンガを描きたい人へ
・スーツをかけると有利!
・20~30代のビジネスパーソンを書き分けられると有利!
・40代以上もかけたらなお素敵!
・カラーマンガがかけたらもう素敵!!!
ビジネスコミックでネームを描きたい人へ
・「起承転結」ではなく、「悩み」から始めよう
・状況説明のコマ、メソッドを伝えるコマ、受けのコマを意識しよう
・1pあたり5〜6コマに収めよう
・徹底的に絵にしよう(TTE:徹底的(TT)に絵(E)にする)
・ぶち抜きが使えたらメリハリがつくよ!
・コマとコマを自由に動き回る
ビジネスコミックでシナリオを書きたい人へ
・マンガ1pのボリュームを把握しよう(100文字くらいでセリフを抑える)
・設定の引き出しを増やそう
・ドラマカーブを意識した展開にしよう
・取材ができたら完璧!!!
細かい説明はちょっと省きましたが、こんな風にそれぞれの職業ごとに「ここができるとすごくいいよね!」ポイントがあるそうなので、ビジネスコミック業界に興味のある方は、この点を気にしてみるといいのかもしれませんね。
7. 最後に
最後は、質疑応答の時間でしたが、その中で「難しい案件の時はどういうアプローチをするのですか?」という質問が出てきました。私自身もマンガではないですが、noteでデザインのことについて書いたりするとき「これは専門用語だから、どうやって説明しようかなぁ……」と悩むこともあります。檜山さんのお答えとしては、「まず、誰に何を言うのかを、かなり明確にすることですね」と仰っていました。例えば、統計学のビジネスコミックを作ろう!となった際に、読者層の統計学習熟度を決めないといけませんよね?本当に初心者の入門書なのか、ある程度統計学について知っている人なのかで書き方が全然違います。もし、本当に初心者の場合は「知り合いの小学校2年生がわかるように説明してください」とクライアントに頼んでみるとのこと。確かに、小学校2年生に分かるなら、大人でも容易に理解できそうですよね。あとは「クライアントに聞きまくることですね!」といい笑顔で仰っていました。ありったけの情報を集めて、噛み砕いていくことが大切なんですね。
今回は、「ビジネスコミックのつくり方[入門編]〜漫画家・シナリオライターになるには?〜」とのことでしたが、ビジネスコミックのみならず「一般の企画にも通ずる要素がたくさんあるなぁ〜!」と思いました。特に構成の作り方が非常に参考になったので、仕事で活かせそうな部分を取り出して、やってみよう!と思いました。
最後の最後に、余談ですが、内容が面白かったので、たくさんメモをしたんですが、半端ない文量になってしまいました。酒うさぎさんに「A4で3枚くらいあります」とお伝えしたら「え?!」と驚いていました。ただ、彼女はきっと、この大量のメモを糧にいろんなことをやってくれるだろうなぁ〜(期待の眼差し)と思うので、今後の酒うさぎさんの活躍を楽しみにしています。