【観劇レポ】ミュージカルこの世界の片隅に
本日もお疲れ様です。
観劇をしてから胸を打たれ、ずっと心から離れない作品がある。
「この世界の片隅に」
大好きな昆夏美さんと海宝直人さんが、アンジェラ・アキさんの楽曲を歌うって!?とチケットを買ったのだが、観劇後2ヶ月をたった今でも忘れられない感動がずっと私の中に残っている。感動する作品にはいくつも出会ってきたが、演出も、どの役者さんも、舞台の全てが本当に素晴らしくて、座席で顔を上げられなくなるくらい泣いたのは初めてだった💐
学生の私にとってチケット代は安くはないから、大好きなミュージカル観劇は1回がとても贅沢で嬉しくて幸せなもの。どれだけ席が舞台から離れていても、好きな役者さんの表情やしぐさが見えづらくても、双眼鏡は使わない。その1回の全部全部を目に焼き付けたいから。それでも双眼鏡があれば良かったなと思うほど、役者さんの表現するもの、描かれる世界1つ1つに引き込まれた👀
いつもなら「また数年後にこの幸せが訪れますように。その時は公演期間中に2回観れたらいいな。」と思って劇場を離れるけれど、今回のように1度観た作品をここまで今すぐもう1度観たい衝動に駆られたのは本当に初めてだ。
よろしければ、私の観劇日記にお付き合いいただければ幸いです。完全に私個人の感想ですが、印象に残っている楽曲を中心に、歌詞やシーンを振り返っていきます🙌
この世界のあちこちに
とにかく美しい世界が広がっていた。登場人物達が1人ずつ音をなぞっていく。それに合わせて舞台が華やかに彩られ、物語の舞台である呉の景色や、主人公であるすずさんが見ている世界、絵で描く世界が色付いていくシーン。歌詞や舞台の動きから、これから紡がれていく物語への期待を膨らませ、幕が上がってすぐに涙ぐんでいた。
ラストに改めてリプライズされると、この1つの物語に対するたくさんの感情が込み上げてくる。最初と最後を飾るこの曲。あ、私ここにいる。居場所、ちゃんとある。そう思えた。今を「生きている」ということを肯定してくれる、前を向ける曲だ。
醒めない夢
周作さんがすずさんを映画に誘い、束の間の夫婦としての時間を過ごせた2人。きっと普通の帰り道ではなくて、この時だけは2人だけの輝いた世界。愛おしい大切な存在を想い合い、確かめ合いながら歩いていたんだろうなと思う😌「幸せ」という直接的な表現だけに頼らず「醒めない夢」という表現が個人的にぐっときた。
家族との愛おしい時間がずっと続きますようにと願うけれど、どこかでは(人や場所が奪われていく戦争の中で)願って良い幸せなのかと葛藤していたり、でも願いたい…!ともどかしかったりするのだろうか、、と温かくもどこかトゲが生えているような、なんとも言えない複雑で窮窟な気持ちで、すずさんと周作さんをじっと見つめていた。
周作さんのこのパートで、彼のすずさんへの想いがはっきりとわかる。子供の頃に出会っていたすずさんをお嫁に呼んで家族となった周作さん。夫婦になってからも多くを言葉にするわけではないけれど、すずさんのことを心から愛していて、確かに想い合っている2人。
普段なら言葉にしなければわからない!と考える私にとって「言わないけれど」が、こんなにもスッと自分の中に落ちて、愛というものに、まるで触れられる形があるかのように温かさを感じた初めての感覚だった。
端っこ
私にはすずさん、周作さん、リンさんとの三角関係が美しく見えた。もっと言うと、すずさんの幼馴染で海軍へと志願した水原さんも含めた四角関係なのかもしれない。「端っこ」はすずさんの魅力たっぷりの人間らしさに惹かれる1曲。個人的にこの作品の中で1番好きな曲だ。
周作さん
すずさんと再会する前、遊女であるリンさんを本気で身請けしようとしていた過去がある。現在のすずさん、リンさんの仲を知り、さらに重なる水原さんとすずさんの再会後、仲睦まじい2人の様子に複雑な周作さん。いつが最期になるかわからない水原さんとすずさんの2人の時間を作ってあげるシーンがあるのだが、この辺りはとにかく「大切な人たちを守りたい」と思う不器用だけれど優しさ溢れる周作さんが魅力的だ。
リンさん
売られた身で外へ出ることも、夢を見ることも許されない彼女にとって、周作さんは夢を見させてくれた、お客さん以上の想い人。学校を卒業できず、文字を書くことができなかったリンさん。文字を書く仕事をしている(海軍の書記官)周作さんが書いてくれた「自分の名札」を持つことで、彼の優しさに触れ、居場所があることを実感できた時、心から嬉しかったのだろうなと思う。彼女の希望の中に見える、命の儚さを噛み締めて戦争の中でどこか諦めてしまっているような表情は本当に切なく、役者さんの演技に引き込まれた。リンさんは幼い頃、お腹を空かせた自分にスイカをくれたすずさんのことを覚えている。「スイカの歌」で2人はずっと昔に知り合っていた描写がある。
すずさん
周作さんの元に嫁いできた後、闇市からの帰路で道に迷い、リンさんに助けられる。それからも度々リンさんの働く二葉館を訪れ仲を深めていくうち、周作さんがお互いにとって過去、現在どんな存在かを知る。今、夫である周作さん。友人であるリンさん。そして自分。自分がリンさんに抱いた感情を、同じように周作さんが水原さんに抱いているとは気が付いていない。双方への想いを巡らせるすずさん胸の内を歌う曲の素晴らしさも重なって、とても心を動かされたシーンだった。
人にはみんな過去がある。どんなことも今のその人を作る1ピースで、多くの人や経験の交わりがあって今に至っているはず。それぞれに忘れたい過去、忘れたくない過去があるのも当然だと思う。その中ですずさんが出逢った周作さんとリンさん。「嫉妬」とも言える感情だが、それをここまで美しく言葉やお芝居、歌に表現できるのか…と。すずさんが自分の感情と向き合い、三角関係や水原さんの存在が自然に彼女の中に溶けていく様子はとても何というか、説得力がある。
花まつり
「今生の別れ」という言葉を受け止めたのは初めてだったように思う。このシーンでは激しくなっている戦禍の中、人々が満開に咲いた桜の下でそれぞれ思いを馳せる。すずさんは家族で花まつりへと足を運び、お客さんと訪れているリンさんと会う。
曲中ですずさんを探しに来た周作さんが、さっきまですずさんといたリンさんと会う。お互いにお辞儀だけするのだが、その時の2人の感情は私にはわかりきれないけれど、きっとお互いの幸せを祈る気持ちがあったのではないかなと思う。舞台の上には、まるで本物かのように美しい桜が咲いていた。桜はずっと昔から人々に春を知らせ、たくさんの願いや希望、想いを受け止めてきたんだなと🌸
小さな手
空襲の後、海軍の航空機を製造する工場で働くお義父さんがケガで入院、周作さんは法務で海軍解体に駆り出され、一時的に家に男手が無くなってしまうことになる。周作さんは、出発前に自分たち家族の居場所である家をすずさんに託すことにするが、いつ、何が起きるかわからない世界。本当はお互いの傍にずっといたいけれど、そうはいかない現実。
「行かないで」の代わりに、すずさんが周作さんに伝えた「あなたが好き」の一言。2人の不安や本音が歌われる1曲と、戦時中の「行ってらっしゃい」が当時、人々にとってどれだけ不確かで苦しいものだったかを描いたシーン。
傍にいたい人がいること。傍にいて欲しい人がいること。その日常への感謝は忘れてはいけないと2人から教えてもらえたシーンだった。続く空襲の中で家に戦火が広がりかけてしまった時にすずさんが、周作さんとの約束を守るため、小さな体で一生懸命消火する姿にまた涙が込み上げた。
言葉にできない
周作さんのやっぱり不器用な優しさ、男らしさ、すずさんへの想い、全てが素敵な楽曲と共に存分に伝わってきた。リンさんとの関係や、憎い戦争によって大切な晴美さん(周作さんの姉の娘で、すずさんにとっては姪)や絵を描くための右腕を失ってしまったこと、嫁いできた北条家の「家族」になること。すずさんの中で多くのことに整理がつかなくなってしまい、実家に帰る!と言ったところで周作さんが歌うシーン。美しい歌声に圧倒され過ぎてしまった。
「醒めない夢」で「いつまでも隣で笑ってて」と言ったすずさんに答えるように、「握った手を離さないで」と言った周作さん。奥ゆかしさのある彼だからこそできる表現はやっぱり素敵✨すずさんとの夫婦の絆が深まっていくにつれて、表に出ないお互いの感情までを確かにを受け取っていくような2人は本当にお似合い!
きっと、近くにいるのに遠いような気がしていたのは、すずさんは離れた場所に嫁いで来て家族になれているかどうか、周作さんは自分の元に家族としての居場所を作ってあげられているか、お互い不安だっただけなんだよね🥹とこれまで見ていた2人のことを勝手にわかった気になってしまっていた。
自由の色
1番泣いたシーン。原作の映画や実写化されたドラマでも、このお義姉さんの言葉に泣かされ大好きなシーンだ。
「居場所」に悩むすずさんが実家に帰る前に、周作さんの姉が話をする。初めは怖い印象だったお義姉さんと、すずさんの絆がグッと深まる。自分で自由を選び取って生きていくことや、そのための覚悟を持つことをたくさん考えさせてくれた1曲。
すずさん
お義姉さんの娘である晴美さんを爆弾により目の前で失ってしまった。なぜすぐ爆弾に気が付かなかったのか、左手で手を繋いでいれば、なんなら私がと後悔や自己嫌悪に押し潰されていたすずさん。晴美さんと手を繋いでいた右腕を失ったすずさんの身の回りのお世話をしてくれていたのはお義姉さんだった。
お義姉さん
旦那様が病気で先立った後、長男は旦那様の家に引き取られた。娘と2人で両親と周作さん達の住む呉に戻ってきていた。当時は珍しい恋愛結婚をしたり、おしゃれさんだったり、自分に芯があり常にはっきりとものを言う彼女にとってすずさんは正反対。初めは「なぜすずさんが弟の嫁に?」と良く思っていなかったものの、すずさんの真っ直ぐさや周作さんとの夫婦の姿を見てだんだん打ち解けていく。そんな中で娘も失い、助かったすずさんを責めてしまう。
すずさんとお義姉さん、2人がそれぞれ失ったものの大きさはきっとわかろうとしても、私には想像さえもできない。それでも、2人が本当の「姉妹」になったこの瞬間は、お互いの傷を癒したはずだと思う。苦しくて、切なくて、でも温かなシーンだった。その後すぐに大きな空襲が家族を襲う。突きつけられる戦争という背を向けられない現実がそこにあることは確かだった。そして、終戦を迎える、、
記憶の器
あなたと出逢えたから。会えないんじゃない。無くしたんじゃない。居場所は想うことで心の中に作り合える。ここで生きるというすずさん達の決意や生き方にすごく力をもらった。この曲の最後、それまで歌われたリプライズが重なり舞台の変わらずの美しさに、そこに確かに生きた人々とすずさん達が重なる。
多くの人が大切なものを失い、自分の居場所や光を探していた時代。それぞれが生きていく中で選んだ道。選んだ場所。そこでは確かに笑顔の理由や愛もあって、みんなが「未来は明るいものであるように」と一生懸命だったから今の時代がある。上手く言語化ができないし、言葉に起こして良いかもわからないけれど、物語の中に生きる人々の温かさを感じた。パンフレットに書かれていた原作者、こうの史代さんの言葉にある通り「生きていく物語」が紡がれていた。
戦争の中に生きた人々にどれだけの、それぞれの抱いた感情、決めた生き方があったのか。今日もまた歴史になって「あの頃は」と誰かが話すんだと思う。歴史を生きてくれた人々が残してくれたものを、大切に受け取り続けたい。それを最大限生きる力に変えて生きよう、生きたいと強く思う。
素敵な作品に出会えて本当に本当に良かった。たくさんのことを考えることができ、自分と向き合えたし、私にとって影響力のある作品だった。すずさん達にまた会えることを願うばかり…!
最後までお読みいただき、ありがとうございました。