VRスクワットジムの制作記 ①
リノールと申します。
VRChat上で遊べるスクワットジムを先日公開しました。
この記事は、私が何を考えてスクワットジムを作ったのか、より良く作るために何を工夫したのかを記した制作記です。VRChatでワールド巡りやワールド制作をする方の参考になればと思って書きました。
記事は2部に分けてお送りします。
次回はこちら:
スクワットジムは幸いにも多くの方に楽しんでいただいています。中には筋肉痛になった方もいるようです。それは筋トレの効果があったということなので、人々の健康増進という目的に寄与できて良かったと思います。
作るきっかけ
スクワットジムに着手する前はこのようなものを作っていました。
・販売ワールド「そらの別荘」
・謎解きワールドの「アルゴ城の謎」
・販売ワールドの「海辺の別荘」
この頃の制作環境は VRChat SDK2 で、高度なギミックを組むのは難しい状況でした。そこに新しくUdonが登場し、VRChatワールド向けにプログラミングができるようになりました。これで何か面白いことができるはずです。
調べたところUdonでアバターのボーン位置を取得できるらしので、運動系の何かを作れそうだと思いました。そして人々に運動させるというアイデアは良いように思いました。私が日常でだるさを感じた時、外を走ったり、筋トレしたり、Beat SaberでVRコントローラーを振り回して汗をかいたりするとだるさが改善することはよくあります。一般に運動は体だけでなく精神にも良いことが知られていますから、VR運動を応援することは楽しいだけでなく、VRの民の生活の質の向上に寄与できると考えました。ここでテーマにすべき運動は何でしょうか。3点トラッキングで計測できて、ダンベルなどの道具が不要で、VR機器をかぶっていても安全にできるもの、すなわちスクワットだと思いました。
スクワットジムの機能を考える
試作でスクワット計測器を作り、自分の運動回数を表示できることを確認しました。スクワットの高さの上下と頭の位置を表示することで、どうすればカウントが進むのかが直感的に分かるようにしました。
次に複数人で利用できるよう計測器を並べ、同期して他の人の回数も見えるようにしました。テストプレイで人を呼んで遊んでもらった時、フレンドと励まし合いながらできるのはVRChatの大きな利点だと感じました。
会話すれば筋トレのつらさは紛れるし、一体感があって楽しいのです。他の有名なフィットネス系ソフトと比べると、例えばリングフィットアドベンチャーとWii Fitはシングルプレイであり、複数人で同時には遊べません。
それから私はたまに現実のジムにも行くのですが、そこでは一人客が多く、友人と一緒に来る人はあまり多くない印象です。おそらく、現実で筋トレ仲間を作ることは難しく、いたとしても時間の都合をつけて一緒に行くことは敷居が高いのでしょう。
人が集まりやすいというVRChatの性質を活かすため、グループで共通の目標を設定することを思いつきました。
目標の設定方法について、1~1,000までの任意の数字を入力するという形式では何回が良いのか迷ってしまうので、「とても軽い」から「鉄人」まで6個の中から選択するようにしました。目標回数は人数に比例させますが、人数に変動があっても自動では変わらないようにしました。フレンドがjoinした瞬間に勝手に目標回数が増えてしまうのはよくありませんから、目標の変更は手動です。
グループの回数を表示し、進行度に応じて演出を流すようにします。パーティクル、花火などの演出です。
加えて、重要テーマは運動を励ますことなので、今まさに応援されているという感覚を演出するために励ましのボイスを入れることにしました。ボイス収録の依頼にあたっては、クラウドソーシングのWebサイトで爽やかなトレーニングインストラクター風の声を出せる方を探し、依頼して原稿をお渡ししました。結果、ワクワクするような熱い励ましのボイスを頂きました。木下アルヴィンさん、ありがとうございました。
それから鏡を置きます。VRChatの人々は自分好みの容姿を選択しているので、理想の自分を鏡に映しながら運動するわけです。
これはモチベーション面で大きな利点になるはずです。全員を映す鏡は巨大になるので軽量化で不安がありましたが、結果的に重いとは感じさせないレベルになりました。
外観のテーマを考える
「みんなで運動する」というと、試合に向けて練習するスポーツチームのことを思い出します。普段は校庭や体育館で練習し、晴れの舞台では競技場に行き、チームとして一体感を感じる人たちです。私は運動系の部活に所属したことはないのでこのような体験をしたことはありませんが、スクワットジムの建物の外観を考えるにあたってはうってつけのテーマだと思いました。
すなわち、最初はジムという建物から始まります。屋内であり、筋トレするための器具(スクワット計測器)が置いてあります。
スポーツチームの日々の運動を想起させるような外観です。
トレーニングが進行すると、ジムから競技場へと舞台が切り替わります。客席に囲まれた広大な芝生の真ん中にあなたは立ちます。
ライトにも囲まれ、スポーツ選手の晴れ舞台を想起させます。隣には一緒に運動する仲間がいて、まるで一緒に試合に出た仲間かのようです。このような印象を与える外観を作り、ジムと競技場を切り替えれば、より一体感を演出できると考えました。
建物のデザインを考える
ジムの内装について、スポーティな印象を与えるために壁に直線的なラインを配置しました。
ただし派手さは抑え、コンクリートと木、アクセント的な青のマットと緑の観葉植物を配置し、文字は茶色、全体で白とアースカラーの落ち着いた配色にしています。パーティクル演出も強くなりすぎないようにしました。あくまで最重要コンテンツはフレンドなので、演出を盛ったゲーム的空間ではなく、フレンドと心地よく過ごせる空間であることを目指しています。音楽は運動を盛り上げるように明るく、しかし雑談を阻害しないように派手すぎないものを選びました。
コンクリートや壁に隙間を作ってデザインするという考えは安藤忠雄氏が設計した光の教会からインスピレーションを受けました。壁の隙間からチラリと見える競技場が良いアクセントになったと思います。
ジムから競技場に変わった時に配色のバランスが悪くならないよう、競技場もアースカラーにしました。
緑の芝生、青い客席、青いライト、そして空。これはジムから引き継がれる青いマットと観葉植物の色と合う配色になるよう意図しました。屋内のジムから一転してパッと景色が開けた、という感動を与えたいので、競技場を巨大にして、空の開放感を強調するために天井を透明にしました。
フォントはVRでの読みやすさのために太いもの、かつスポーティでかっこ良いものを選びました。
操作説明のポスターもワールドの配色に合わせ、ステップごとに色分けして見やすくしました。
このポスターのために初めてAdobe Illustratorを利用しましたが、うまくいったと思います。
次回に続く
次回は導線とUdon、そしてワールド公開と集会の開催について書きます。
次回: