磨かれた横断スキル|イスタンブール番外編
思ったよりも長くなってしまったイスタンブールの旅ログも、とりあえず昨日の「旅のすきま」で一区切り。
と、美しく締めくくったが、ぜひとも書いておきたい名物(?)がある。
シビアな交通事情である。道路横断事情、と言ってもいい。
イスタンブールの街なか、特に旧市街は、道が入り組んでいるうえに交通量が非常に多い。そこに市電も通っていたりするので、もうカオスだ。
車、歩行者、市電の三つ巴で壮絶なバトルが繰り広げられている。あちらこちらで各種クラクションが鳴り、「ええええぃ」「◯✕*(聞き取れない怒号)」などの声が聞こえる。
①信号のある横断歩道で、②青になるのを待って渡ればいいだろう、と思うだろう。ところがそう甘くはない。
信号がほぼ機能していないからである。
信号の名誉のために言うと、それはちゃんと職務を全うしている。ただ、ほぼ誰にも相手にしてもらっていないのだ。横断歩道の人波に隙があれば普通に車が突っ込んでくる。
ということで、歩行者も信号は見ずにうまくタイミングを見計らって渡るしかない。というか、それが一番安全に渡る方法だったりする。
タイミングを見計らう、といっても車はひっきりなしに来る。ここで言うタイミングとは、渡らせてくれそうな車を見極める、に近い。
横断歩道手前でスピードを緩めそうな車がいたらさっと渡る。
一応、こちらはドイツ在住の日本人ということで、世界でも交通規範を守るランキング上位に入るかと思うが、そんなことでは道路を渡ることはできない。幸い、多少イタリアに関わっているのでなんとかやり遂げる。(イタリアの血が入っている夫と息子は慣れるのが早かったように思う)
ある夕方、その一番シビアだと思われる交差点で日本人の青年3人組と一緒になったことがあった。
「やっべー!」「こりゃちょっと…」「まーじで?」「青っすけど」「やっぱオレ日本人だわー」「行くしかねーか」と、私の心の中をそのまま代弁するかのような言葉を連発している。
と、3人はいきなりダッシュして渡った。往年のサザエさんのエンディング、家の中にドタバタと駆け込むシーンがあったが、まるでそんな感じだ。
じつは、そういうのはかえって危ない。
おそらくドライバーの認識しやすい速度というものがある。動きが遅すぎてもいけないし、速すぎてもいけない。
つまりは「いかに自分を認識させて渡るか」が重要なのだ。
渡りますよ、という雰囲気を漂わせ、歩き出す。車が近づいてきても焦って走ってはいけない。
逆にいうと、意外に運転技術は高いと思われるため、よほど突飛な行動をしない限り事故になることはないのだと思う。
最近、歩行者を最優先とする、という規則が強化されたと聞いたが、まだ効果は感じられない。
以上の場面がいずれも警察車両が警戒にあたっている目の前でも起きている、というのがもっとも趣深いところだ。
イスタンブール旧市街を歩くときには、ぜひとも目立つ色の服を着てほしい。
美しい青の町だが、ひとつだけ割を食う青信号であった。