Rくんとその相棒
夫の職場にはよく学生さんが来る。
半年や1年、3年ほど滞在することもある。
学生さんといってもみなピチピチの若者というわけではなく、中には30を過ぎて家族で来る人もいる。
個性豊かなメンバーが多く、「今日は実家からオレンジが20kg届くので休みます」という女子がいたり、メンタルに不調をきたし夫の部屋にこもりに来る青年もいた。
昨秋にイタリアからやってきたRくん(30歳)もなかなかの逸材だ。
旅費節約のため長距離バスを乗り継ぎ、朝早くこの町へ到着した。
駅の近くの長距離バス停留所で夫が出迎えた。
半年の滞在予定ということで大きな荷物を2つ持っていたというRくん。
ひとつはスーツケース、もうひとつ大事そうに抱えているのは大きなバッグに入ったやたら四角いものだったという。
さて、彼はいったい何をもってきていたのか?!
それは…
「カメさん (ガラスのケージつき)」
むぅ、そうきたか!
しばらくご両親に預けていたものの、久しぶりに実家へ寄ってみるとだいぶ弱っているように見え、それでドイツまで連れてきてしまったのだそうだ。
最初はただ「ペット思いなのね」ぐらいに思っていた。
ところが、なんとRくんは筋金入りのカメ愛好家だった。
故郷の町の海岸にはカメが来るという。
カレッタ・カレッタ、日本でいうアカウミガメだ。
(連れてきたカメさんは別種)
そういう環境で小さいころからカメに親しみ、長じてその生態について学びを深め、保護研究団体に属し、海岸の整備や産卵時期の入浜規制などの環境保全活動にも参加するようになる。
物静かな青年だが、カレッタ・カレッタについてとなると真剣に語りだすらしく、夫もお昼に1時間ほどレクチャーを受けてきた。
(そしてそれを聞かされる私)
あふれる知識とほとばしる愛情が伝わる。
そっちを専門にすればいいんじゃ?と、夫は半ば真剣に言っていた。
半年の滞在予定を少し延ばすことが決定したRくん。相棒ともども、よい時間を過ごしてほしい。
できれば一度、カメさん見たいな。