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夜のフライト|小さな見送り客

昨夜、息子を空港で見送った。
昨年の今ごろ、4年ぶりに日本からドイツに戻ったときのことがつい最近のことのように思える。

この一年、息子は南米やヨーロッパの周辺国を旅したり、イタリアの夫実家を何度か訪ねたりしていた。人生のなかのそんな時間もよいものであったと思うが、世間、特に日本ではいわゆる「ニート」であり、一昔前なら「プー太郎」とカテゴライズされていたはずである。
そろそろ本人も実家でうろうろしているのに飽きてくるころだったのだろう。いよいよ始動だ。

夕方、家を出発する前に見えていた空。美しく、少し哀しい。
この時期には珍しく、朝から晴天だったのは幸いだった。


空港までの道のりは、ずっと満月に照らされていた。
こちらもまた珍しくアウトバーンは工事も渋滞もなく、穏やかに滑らかに時間が流れる。

空港は夜の時間帯にもかかわらずかなり賑やかだ。
スーツケースを預け、しばしロビーにいると、何やら小さなものが床をさっと動いた。

茶色い点が見えるだろうか
動きが素早くうまく撮れず……


なんと、これはネズミ。
気をつけて見ていると、2匹、3匹……
ベンチと床のほんの隙間、到底通れそうもないところに、いとも簡単に滑り込んでいく。本当に消えるように一瞬で。
そばにフードコートがあるため、おこぼれに与るのにちょうどよいのだろうが、かなりショッキングな光景ではあった。

昨年の夏、「フランクフルト空港でネズミが電線をかじったことにより、4時間電力の供給が止まる」というニュースがあったが、これほど身近に生息しているとは……
多くの人が行き来する、世界の交わる場所といってもいい空港。ネズミに罪はないが、なんらかの不都合を媒介する可能性も心配だ。

息子によれば、なんと搭乗ゲートにもいたそうである。
手荷物を床に直置きする人も多いなか、隙間に紛れ込んでしまい搭乗、ということにはならないだろうか。
機上の人間にとってもだが、図らずも遠くに運ばれてしまうようなことになるネズさんがいたら、それも気の毒に思う。

ところで、息子の行き先はまた日本だ。
格安の片道切符はタイ航空のバンコク経由。10時間の待ち時間に街に出てみるらしい。
マイナス3℃のドイツを発って、今ごろは30℃のバンコクを歩いていることだろう。ますますネズさんが心配になる。


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