語学書では「子音」と「子音字」を区別してほしい
表音文字を用いる言語の語学書では,しばしば文字と発音を混同した解説がなされる。
混乱の元なので,はっきり区別して書いてほしい。
語学書の著者・編集者へのお願いです。
(なにかエラソーな文体に見えるかもしれませんが,note の記事は全て敬体でなく常体を基本として書いており,そのせいと受け取っていただければ幸いです。本記事は語学初心者が著者・編集者に「どうかご検討をお願いいたします」という気持ちで書いています)
例
例えば,キリル文字を用いるスラヴ語の場合
子音で終わる男性名詞
子音字で終わる男性名詞
は同じではない(釈迦に説法)。
ウクライナ語,ロシア語の день を例に取ると,これは子音で終わる男性名詞だが,後末は軟音符 -ь であり,子音字で終わってはいない。
常識でわかるのでは
いや,分からない。
少なくとも私は混乱する。私程度の者も想定対象読者に含まれるのであれば考慮してほしい。
文脈で分かる場合もある。
「子音字で終わる男性名詞は」と書いてあって,例として день が挙がっていたら,「ん? 子音字で終わる? えっと,ああ,子音字で終わるじゃなくて子音で終わるということかな」と,いちおう分かる。
しかし,こんなところで悩ませるのは避けてほしい。
脳がそっちに取られてしまう。
マラソン中の人に煙草を吸わせるようなもの。
母音/母音字も
記事タイトルでは「子音と子音字の区別」としたが,この記事で主張したいのは発音の話なのか文字の話なのかをきっちり区別してほしい,ということ。
だから,たとえば
母音で始まる語
母音字で始まる語
の区別も問題になる。
キリル文字を用いるスラヴ語には軟母音字というものがある。
я,ю といった文字は,発音は [ja],[ju] とかだったりして,(単独では)子音+母音を表しているが,文字としては母音字の一種ということになっている。
だから「母音で始まる」と「母音字で始まる」は違う(釈迦に…)。
また,ウクライナ語では子音字 в の発音は出現位置によってさまざまであり,母音で発音されることもあるので,やはりこれも問題になると思う。
その他
子音,母音に限らず,こうした混乱ポイントはいくつかある。
ウクライナ語では б, п, в, ф, … などに ь が付かない,ということが正書法として解説されていることが多いようだ。
初学者の私の理解では,正書法というのは単語や文をどう綴るかという規則である。б に ь が付かないのは本当に正書法の問題なのか? どう綴るか以前に,そもそも б に対応する軟子音が音韻体系に存在しないということではないのか?
書き分けているが?
「子音」と「子音字」,「母音」と「母音字」をきちんと書き分けている語学書も多いと思う。
それでも,ミス(書き間違い+校正漏れ)によってそれらが入れ替わってしまうことはままある。
(編集・校正経験者は騙る語る)
そういう稀なミスに遭遇すると,本全体の「書き分けについての信頼度」がグッと下がってしまう。
他の「正しく書き分けられている箇所」についても疑念が湧き,いちいち「本当はどちらの意味なのだろう」とストレスを抱えることになってしまう。
それゆえ,校正がとても重要なのだ。校正者・校閲者による校正と著者校正のどちらもそう。
あ,いや,あの,自称・他称「ザル校」の私が何を偉そうに言ってるんですかね。すみません,すみません。