
God dwells on the details.
NoはNoじゃない…ならなんなんだ!
今回の記事は否定語である「no」について解説する記事です。皆さんの度肝を抜くような使い方が出てくるかもしれません!では、どうぞ!
翻訳クイズ
いきなりですが、はじめに翻訳クイズからはじめましょう!
あなたは日英の翻訳家です。翻訳の依頼者から次の英文を日本語に翻訳してほしいと依頼が来ました。あなたなら、どんな風に翻訳しますか?
Mr.A:He hasn't much faith.
Mr.B:No. But we have. Haven't we?
Mr.A:Yes.
さて、翻訳できましたか?自然な日本語に翻訳できましたか?では、ここで私なりの翻訳をここに載せておきます。参考までに、どうぞ。
Aさん:彼には信念というものがないんだ。
Bさん:そうだな。でも、俺らにはある。そうだろ?
Aさん:あぁ、そうとも。
解説
では、解説に移りましょう。
まず、Mr.Aの発言から見ていきましょう。この英文を見た時、違和感を覚えた方がかなり多くいるのではないでしょうか。学校英語では、hasn'tは現在完了形(動作・状態の継続)の否定形のhave not 動詞の過去分詞形のhave notの省略形だと教えられます。ですので、haven'tの後ろには動詞の過去分詞形が来るはずです。しかし、今回の英文の場合は違いますね。後ろに名詞句(名詞のかたまり)が来ています。
「じゃあ、文法的に正しくない英文じゃないか」
こんな風に思われた方…ちょっと待ってください。実は、この英文は文法的に正しい英文なんです。
「どういうこと?」
実は、この英文はイギリス英語とアメリカ英語の違いがポイントになる英文なんです。今回の英文はイギリス英語で書かれた英文で、イギリス英語の「haven't~」はアメリカ英語の「don't have~(~を持っていない)」に相当する表現になります。
つまり、イギリス英語の「haven't~」=アメリカ英語の「don't have~(~を持っていない)」となります。
*イギリス英語の「haven't~」は古風な言い方です。
次にBさんの発言に移りましょう。Aさんの発言に対してBさんが「No」と言っている場面ですね。Aさんの発言の内容は否定でしたね。(おさらい:彼は信念を持っていない)その発言に対してBさんが否定の意味を表す「No」と答えているので、Bさんの発言の意味は「いや、彼は信念を持っている」となります。(いわゆる、二重否定)
Bさんはこの発言の後に「But we have」と言っています。この英文を翻訳すると「しかし、私達は持っている。」となります。
さて、皆さんBさんの発言の翻訳に何か違和感を覚えませんか?その違和感の秘密は「しかし」にあります。接続詞「しかし」は逆接の接続詞と呼ばれる接続詞です。この接続詞の性質は接続詞の前の内容と後ろの内容で逆の内容になるという性質があります。(A しかし BならばAの内容とBの内容は逆の内容になる)
さて、Bさんの最初の発言「いや、彼は信念を持っている」とBさんの次の発言「私達は信念を持っている」は逆接の接続詞の性質に合致しているでしょうか?…していませんね。
つまり、どちらかの翻訳が間違っているということになります。
では、どちらが間違っているのでしょうか?
今回、訂正すべきはBさんの最初の発言「No」の訳し方です。では、どのように訂正すべきでしょうか?
こんな風に訳し方に困った時には、辞書を引いてみるのが一番よいでしょう。今回はジーニアス英和辞典第5版を使用します。
No(副詞)
・【相手の否定の発言に同意して】はい、そうですね
もう、お分かりですね。当初、相手の発言を否定する意味と考えていた副詞の「No」は相手の発言が否定の内容であれば、その否定に同意していることになるのです。つまり、真逆だったのです。
ですので、訳は「そうだね」や「そうね」などのようになります。
Bさんの次の発言「haven't we?」は付加疑問文といい、相手に同意を求める表現です。ですので、訳は「~ですよね?」などになります。
最後にAさんの発言「Yes」Bさんの同意を求める発言に対してYesなので、訳は「そうだね」や「そうだ」のようになります。
最後に
今回はかなりマニアックな英文法や細かな表現をいくつか取り上げて解説しました。いかがでしたか?楽しんで頂けたら、嬉しいです。
今回の英文はアメリカの文豪であるアーネスト・ヘミングウェイの不朽の名作『The old man and the sea(老人と海)』から引用しました。では、次の記事でお会いしましょう。