- 運営しているクリエイター
#小説
自画像のための習作 #En route vol.2
2
私の小さな家は海辺にある。燃えたぎる橙、日の落ちる寸前の港町をひたすら奥へと入っていく。太陽光が散らばった海の近くで、漁師が縄を引いているのがうっすらと見える。車で走っているうち、それまでの雷雨が嘘のように晴れたので窓は全開にしてある。廃屋を改造し
自画像のための習作 #En route
1
私が彼女と最初に対面したのは、去年の夏の終わりだった。彼女の働いている出版社から依頼を受けて、私は連載小説を書くことになったのだ。それは文芸誌でなく、婦人向けの生活情報誌だったが、私はそれを了承した。なぜなら、年始にひっそりと刊行された短編集の売れ行きが悪いこともあったし――生活に困窮しているというわけでは勿論なかっ