トムリくんとキムリくん|#ウミネコ文庫応募
まんまる森に住んでいるトムリくんとキムリくんのお話をするね。
まんまる森は、さんかく山の近くにあるんだけれど、さんかく山がどこにあるか知っている?きっと、みんな知らないよね。海のずーっと向こうの、しかく島にそびえているんだけれど、気まぐれな風がフーッとさんかく山をとうめいにしているから、だれも気がつかないかも。まんまる森も見えなくなっています。
でもね、そんなまんまる森に、トムリくんとキムリくんはなかよくくらしていました。森には大きな木がたくさんあって、その中の八番目の大きな木に家を作り、二人は住んでいます。だって二人はそんなに大きくないから、一番大きい木に住まなくたって、へっちゃらです。一番大きな家は、ゾウのテッドくんが住んでいます。あと、八という数字がすきでした。すえ広がりで、しあわせな感じがするでしょう?あれ?すえ広がりの意味がわからないかな。バナナのふさの形を考えてみて!ほら、なんかおいしそうで、うれしい気分になるでしょう?それがすえ広がり。
トムリくんとキムリくんも、バナナが大すきです。だって二人はおさるさんですからね。トムリくんは、それはそれはあざやかな赤い毛をしたおさるさん。キムリくんはツヤツヤした緑の毛をしたおさるさんです。二人はいつもいっしょにいるので、まんまる森の中でトムリくんの真っ赤なすがたが見えたら、近くにかならずキムリくんもいますよ。
トムリくんとキムリくんは、まんまる森の中でかくれんぼをよくします。トムリくんは赤くて目立つから、太いえだや大きな木のくぼみとかにかくれないと、すぐに見つかってしまいます。それでもトムリくんは「ぼくがかくれているところ、キムリくんにわかるかな」とか「早く見つけてくれないかな」と気になって、ついつい顔を出してバレてしまうんですけれどね。
ぎゃくに、キムリくんは緑色だからかくれなくてもなかなか見つかりません。キムリくんはいつも「ぼくはここにいるよ!」と、長いしっぽをヒョコヒョコゆらせてみせますが、それも葉っぱと見まちがえられます。だから時々チョンチョンと、トムリくんのことをつっついたりします。トムリくんがふり向くとパッとかくれ「あれ?だれかにチョンチョンされた気がしたんだけど」と、トムリくんがふしぎそうな顔をするのを見るのがすきでした。
さっきも二人はかくれんぼをしていました。キムリくんがずっとチョンチョンしていたから「ぼくのこと、からかっていたな!」と、トムリくんはちょっとおこり、キムリくんをおいかけるおにごっこみたいになっていたけれど。
キムリくんが「ごめんごめん」とあやまってなかなおりしたら、二人はなんだかおなかがすいてきました。
「おなかがすいたね。キムリくん」
「うん。なにを食べようか?トムリくん」
きのうはリンゴを食べました。おとといもリンゴで、その前の日も、もっと前の日もリンゴでした。たしかあの時は、赤いリンゴがなる木でかくれんぼをして、トムリくんもかくれやすくて楽しかったから、毎日リンゴの木のそばで遊んでいたのでした。
「ひさしぶりにバナナが食べたいな。キムリくん」
「そうだね。しばらく赤いリンゴばかり食べていたもんね。トムリくん」
「そうだ!赤いバナナってあるかな?」
「見たことも聞いたこともないね」
「さがしに行く?」
「行こう!そして見つけて食べよう!」
二人は、赤いバナナをさがしに行きました。
まんまる森の中はだいたい知っていましたが、まだ行ったことのない所もあります。さんかく山のそばです。でもそこは、ちょっぴりあぶないんだって。
「さんかく山の方に行ったことないよね。キムリくん」
「なんかあぶないって聞いたことあるけど、どうだろう?トムリくん」
二人はしばらく考えましたが、まんまる森の中に赤いバナナの木があるとしたら、そこしかありません。それに二人で力を合わせれば、きっとあぶないこともなんとかなると思いました。
「キムリくん、行ってみよう」
「トムリくん、二人ならだいじょうぶ!」
いつも通らない道を行くと、まわりのけしきもなんだかちがうようです。花がたくさんさいていましたが、はじめて見る花もありました。木もいつもの木とどこかちがう感じがします。知らない実がなっている木もあり、食べられるのかわからないので食べませんでした。おなかをこわしたらたいへんですもんね。でも、とてもおいしそうなにおいがします。二人のおなかがグーとなるのも、しかたがないですよね。
「おなかすいたね、どうする?キムリくん」
「もう少しがんばろう。トムリくん」
しばらくしたら、ピンク色をしたリンゴや水色のブドウの木がありました。ここなら、赤いバナナの木もあるかもしれません。みんなもそう思うでしょう?
「うわぁ、なんか落ちてきたよ。キムリくん」
「これはパイナップルだね。トムリくん」
重たくてトゲトゲした緑色のあまくないパイナップルが、上からではなくどこかからとんできたようです。あぶない、あぶない。ぶつかったらけがをしそう。
「あぶないって、こういうことかな?キムリくん」
「あ、またなにかとんできたよ!トムリくん」
今度は半分だけ緑色したパイナップルで、あまくておいしい黄色いところは食べられていました。森のおくで、だれかがパイナップルをほおり投げているようです。こんなに重たいものを、ポイポイと投げているのはだれなんでしょう?
トムリくんとキムリくんは、注意しながらパイナップルがとんでくる方向へ行ってみると、そこには大きな大きなゾウのテッドくんがいました。
「「あ、テッドくんだ!!」」
テッドくんは二人に気がついて、あいさつをしました。
「君たちは、トムリくんとキムリくんだね。こんにちは。いっしょにパイナップルを食べるかい?」
「「どうもありがとう。でもぼくたちは、赤いバナナをさがしているんだ。テッドくん、どこにあるか知っていたら教えてくれる?」」
「赤いバナナの木は、この間見つけて…食べちゃったよ。でも、もしかしたら少しはのこっているかも。こっちだよ」
ゾウのテッドくんは、長い鼻で森のおくの右の方を指さしました。
「「教えてくれてありがとう。行ってみるね」」
トムリくんとキムリくんは、テッドくんにさよならをして、森のおくの右の方へ行ってみました。赤いバナナの皮が地面にいっぱい落ちています。それはもう小さな赤い山みたいに。
「ざんねん。もうバナナはなくなっちゃったのかな、キムリくん」
「木に登ってみよう、トムリくん。テッドくんの鼻がとどかない上の方ならのこっているかも!」
二人はバナナの木に登りました。ゾウのテッドくんの鼻がとどかないくらい高い所まできて…
「「あった!赤いバナナだ!!」」
ついに赤いバナナを見つけました。二本しかのこっていなかったけれど、たしかに赤いバナナです。
「「いただきま〜す!」」
二人はなかよく一本ずつ食べ、しあわせな気分で帰りました。わたしもバナナが食べたくなったから、今日のお話はこれでおしまい!
[約2800字] 2023.11.15 一部修正
小学校三年生までの漢字だけ使って書いてみました。
九つ歳下の弟が園児前後の頃、子守を任された時に作っていた即興の創作童話トムリくんとキムリくんのお話です。正直、トムリくんとキムリくんしか覚えていず、猫やウサギ、その他もいたのですが名前や特徴は忘却の彼方に…
即興で作った架空の世界に、弟がケラケラ声をあげて笑って喜んで「もっと!」と続きを聞きたがっていたことを思い出しました。