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TRIZ の 9 windows で眺める英語史

はじめに

TRIZ とは旧ソ連で生まれた発明のための手法であり、Теория Решения Изобретательских Задач の頭字語である ТРИЗ のローマンアルファベット表記である。
Теория: 理論 (Theory)
Решения: 解決 (Solving)
Изобретательских: 発明の (Inventive)
Задач: 問題 (Problem)
という意味であり、発明的問題解決理論 (Theory of Inventive Problem Solving) と訳される。
雑にまとめると、膨大な発明を分析することで、それらを構成する考え方・原理を抽出し、それらを適用することで新たな発明につなげようというものである。
その中の道具のひとつとして、課題を眺めて構造を把握するのに有用な 9つの窓 (9 windows) というものがある。上位システム / システム / 下位システムというシステム階層軸と過去 / 現在 / 未来という時間軸との 2 軸のマトリクスで課題を整理するものである。これは、対象を階層構造の中で捉えるとともに、それらを共時的に捉えるだけでなく、通時的にも捉えることで、未来の予測される姿・あるべき姿を浮かび上がらせることになる。

英語にあてはめてみると

9 windows を英語にあてはめてみると以下の表のような感じになる。知識の断片をちりばめただけなので、学問的な正確さはかけらもないが、イメージは摑めるものと思う。ただ、多少なりとも英語史に関心があれば、Past に古英語・中英語・近代英語をまとめて押し込めてしまうことに無理があることは一目瞭然だろう。むしろ、中英語を中心に据えて Past を古英語、Future を近代英語として眺める方がマシかもしれない。

$$
\begin{array}{c|c|c|c}
& Past & Present & Future \\
\hline
Super-system &
  \begin{matrix}
    印欧語族\\-ゲルマン語派\\-西ゲルマン語群 \\
    キリスト教伝来\\(ラテン語) \\
    ヴァイキング襲来\\(古ノルド語) \\
    ノルマン征服\\(フランス語) \\
    ルネサンス\\(ギリシア語・ラテン語)
 \end{matrix} &
  \begin{matrix}
    世界諸英語 \\
    グローバルビジネス
  \end{matrix} &
  \begin{matrix}
    非ネイティヴの主流化 \\
    英米変種の権威失墜(?)
  \end{matrix} \\
\hline
System &
  \begin{matrix}
    古英語 \\
    中英語 \\
    近代英語
  \end{matrix} &
    現代英語 & 未来英語(?) \\
\hline
Subsystem &
  \begin{matrix}
    SOV語順 \\
    格変化 \\
    文法性 \\
    総合的
  \end{matrix} &
  \begin{matrix}
    SVO語順 \\
    格変化の消失 \\
    文法性の消失 \\
    分析的
  \end{matrix}  &
  \begin{matrix}
    三単現のSの消失(?) \\
    不可算名詞の複数形の台頭(?)
  \end{matrix} \\
\end{array}
$$

古英語・中英語・近代英語にあてはめてみると

中英語を中心に据えてみると、確かにこのほうが座りはよさそうだ。
(詳細の正確性については目を瞑るとして)

$$
\begin{array}{c|c|c|c}
& Past & Present & Future \\
\hline
Super-system &
  \begin{matrix}
    キリスト教伝来\\(ラテン語) \\
    ヴァイキング襲来\\(古ノルド語)
  \end{matrix} &
  \begin{matrix}
    ノルマン征服\\(フランス語) \\
  \end{matrix} &
  \begin{matrix}
    ルネサンス\\(ギリシア語・ラテン語) \\
  \end{matrix} \\
\hline
System & 古英語 & 中英語 & 近代英語\\
\hline
Subsystem &
  \begin{matrix}
    SOV語順 \\
    格変化 \\
    文法性 \\
    総合的
  \end{matrix} &
  \begin{matrix}
    格変化の消失の進行 \\
    文法性の消失の進行 \\
    語順固定化の進行 \\
    方言・綴字の多様化
  \end{matrix}  &
  \begin{matrix}
    SVO語順 \\
    格変化の消失 \\
    文法性の消失 \\
    分析的 \\
    標準化・規範化の進行
  \end{matrix} \\
\end{array}
$$

文法化にあてはめてみると

もう少し個別の事象についても、この枠組みをあてはめて眺めてみるのもよさそうに思えてきた。例えば文法化についてどうであろうか? 試しに「完了形」を題材にしてみる。
なお、以下は #2490. 完了構文「have + 過去分詞」の起源と発達 を参照しつつまとめたが、内容に誤りがあれば、すべて私の理解不足・誤解によるものである。

$$
\begin{array}{c|c|c|c}
& Past & Present & Future \\
\hline
Super-system &
  古英語 &
  中英語 &
  近・現代英語 \\\hline
System &
  \begin{matrix} have \\ (所有動詞) \end{matrix} + 名詞(句) + 過去分詞 & \begin{matrix} have \\ (助動詞) & \end{matrix} + \begin{matrix} 過去分詞 \\ (本動詞) \end{matrix} + 名詞(句) & 
  have + \begin{matrix} 過去分詞 \\ (完了形) \end{matrix} + 名詞(句) \\
\hline
Subsystem &
  過去分詞による形容詞的後置修飾 &
  \begin{matrix} 動詞の意味の希薄化 \\ 過去分詞の役割変化 \end{matrix} &
  \begin{matrix} 慣用/定型表現化(規範化) \\ 成り立ちの忘却 \end{matrix}\\
\end{array}
$$

まとめ

まだまだ消化不良は否めないが、英語史を眺めるのに 9 windows を当てはめてみるのも悪くなさそうだという感触を得た。京都オフ会に向けて練り上げていきたい(が、気まぐれなので、別の話題にするかもしれない)。
この考え方は、学部生への説明、あるいは、学部生が研究テーマをどう拡げるか模索するときにも使えるのではないかとも思ったが、みなさんのご意見も伺いたいところである。

余談

本件、京都オフ会に向けてもう少し寝かせておこうかと思っていたが、今朝の hellog #5647 を見て、堀田先生がビジネス系のフレームワークもお好きと知って、ではこのタイミングでいったん出してしまおうと泥縄式に仕上げて公開したものである。粗削りであることは容赦されたい(いつものことだが……)。


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