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事例で学ぶ高校「探究」の教科書(16)

あなたの「やりたいこと」がきっと見つかる
事例で学ぶ高校「探究」の教科書 
みんなのギモン編

 
 
【特徴】
・「総合型選抜」に使えます。
・自分の才能が見つかります。
・自分軸を鍛えることができます。
 
 
 
 
            某県立高等学校 再任用教諭 テラオカ電子 
 
 




第12章 おせち料理の組合せ最適化問題:量子アニーリングマシン編



「量子コンピュータ」を使った探究活動
 

 これまで、おせちの材料の組合せ最適化問題を、第10章では、エクセルのソルバー機能を使って計算しました。続いて、第11章では、PythonのライブラリであるPuLPを使って計算しました。本章では、量子アニーリングマシンを使って計算します。量子アニーリングマシンは、量子コンピュータの一つの方式です。
 

 量子コンピュータというと難しくて、高校生には無理と思われるかもしれませんが、そんなことはありません。特に、量子アニーリングマシンについては、すでに多くの高校生が取り組んでいます。例えば、東北大学の大関 真之先生が取り組まれている「Quantum annealing for you」というプログラムでは、高校生も参加しています。
 

 そのようなわけで、おせちの材料の組合せ最適化問題という簡単な問題ではありますが、量子アニーリングマシンを使って計算してみましょう。実際に体験することで、この機会に、量子コンピュータについて、理解を深めましょう。
 




[1]量子コンピュータとは


 では、まず、量子コンピュータとはどのようなものなのかについて説明します。
 

 はじめにお断りなのですが、私は、量子物理の研究者でも、量子コンピュータの技術者でもありません。でも、今話題の量子コンピュータに詳しくなって、その教材を作りたいという「野望」を持ちました。そこで、いくつか書籍に目を通しました(全てを理解できたわけではありませんが)。目を通した入門書は、以下のようなものです。
 
・寺部雅能、大関真之:『量子コンピュータが変える未来』
・湊雄一郎:『いちばんやさしい量子コンピューターの教本』
・藤井啓祐:『驚異の量子コンピュータ 宇宙最強マシンへの挑戦』
・藤井啓祐ら:『ラズパイ電子工作&光の実験で理解する量子コンピュータ』
・竹内薫:『量子コンピューターが本当にすごい』
・武田俊太郎:『量子コンピュータが本当にわかる!』
・竹内繁樹:『量子コンピュータ 超並列計算のからくり』
・西森秀稔、大関真之:『量子コンピュータが人工知能を加速する』
 
なので、量子コンピュータについて、以下に簡単に説明を述べますが、大きく間違ってはいないと思います。でも思い違いもありますので、誤りがありましたらご指摘ください。
 

 では、量子コンピュータの「量子」の説明から始めます。量子とは、「量の最小単位」のことです。物質を細分化していくと、原子や電子、素粒子に行きつきます。このようなミクロな世界では、エネルギーも「分割不能な小さなカタマリ」となります。この世界は、私たちの日常世界(マクロな世界)の常識からは、感覚的に捉えることができない自然法則が支配しています。
 

 量子コンピュータは、このミクロな世界の物理法則、「量子力学的な現象」を計算に利用したコンピュータです。現在開発中の量子コンピュータには、原子や電子、光(光子)を使ったものなど様々なものがあります。
 

 現在、私たちが使っているコンピュータ(古典コンピュータといいます:古いという意味ではなく、量子技術を使っていないという意味です)は、「0」と「1」(ビット)を電圧の高低(古典物理)で表現していますが、量子コンピュータは、「量子ビット」という、「0」と「1」の2つの状態だけではなく、その中間の「重ね合わせ状態」もとります。この点が、量子コンピュータが高速に計算できる根拠になっています。
 

 量子コンピュータは、先ほど述べたように、どの種類の「量子」を使うのかによっても分けられますが、構成によってもいくつかの方式があります。「量子ゲート方式」「量子アニーリング方式」が注目されています。ネットの解説記事で、この2つの方式を並列に対比させて説明していることがありますが、これは、世界的には一般的ではないそうです。一般的に量子コンピュータと言えば、代表格として「量子ゲート方式」があり、その中の特殊なケースとして「量子アニーリング方式」があるイメージだそうです。
 



Fixstars Amplify社(後ほど詳しく説明します)の資料では、以下のように示されています。
 

 本章で使うのは、「量子アニーリング方式」です。これは、組合せ最適問題を解くのに特化した量子コンピュータといわれています。この方式は、すでに実用化されていて、カナダのD-Wave社が有名です。インターネットを経由して、アカウントを登録すれば誰でも動かすことができます(無料枠があります)。
 

 ちなみにこの「量子アニーリング方式」は、1998年に東京工業大学の西森秀稔教授と、当時、大学院生だった門脇正史氏(現在、デンソー)が考案したものです。D-Wave社は、この量子アニーリングマシンという計算モデルを実際に動作する物理デバイスを開発しました。
 

 量子アニーリングに関しては、もう少し補足します。
 

 まず、格子上に並んだ電子のスピンを考えます(イジング模型と言います)。電子のスピンのイメージは古典論では、小さな磁石です。電子の回転向きにより上向きスピン、下向きスピンとなります。そこに、最初、横磁場を与えてスピンの向きを揃えます。そして、その横磁場をだんだんと弱めていきます(アニーリング:「焼きなまし」)。すると、スピンには、相互に力が働いていますので、次第に、相互作用の力にしたがってスピンの向きが落ち着きます。ここで、このスピン間の相互作用にあらかじめ解きたい問題の組み合わせの条件を埋め込んで置けば、その解に応じたスピンの向きに収束しますので、そのスピンの向きの並びを読み出すことで、問題の解を得ることができます。
 

 量子アニーリング方式は、量子ゲート方式とは、まったく異なる発想の原理に基づいています。「組み合わせ最適化問題」を利用する社会的ニーズが高まっている現在、注目されています。
 
 

【「量子アニーリングマシン」の解説はこちらから】
【日本発・量子アニーリングを徹底解説】世界の難問を解決する技術/「量子ネイティヴ」よりも「量子バイリンガル」が必要/日本での量子アニーリング

 

 本節の最後に、量子の「正しい」イメージを持つための有名な思考実験、「シュレーディンガーの猫」を紹介します。

 

生成AIで作成


 

「シュレーディンガーの猫」

は、量子力学の奇妙さを説明するために、1935年にオーストリアの物理学者エルヴィン・シュレーディンガーによって考案された思考実験です。この実験は、量子力学の標準的な解釈である「コペンハーゲン解釈」における問題点を浮き彫りにすることを目的としています。
 
①  思考実験の内容:
この思考実験では、以下の要素を含む密閉された箱を想定します。
 
猫: 生きている猫
放射性原子: 50%の確率で1時間以内に崩壊する原子
ガイガーカウンター: 放射性原子の崩壊を検知する装置
ハンマー: ガイガーカウンターが崩壊を検知すると、ハンマーが作動する仕組み
青酸ガスの入った瓶: ハンマーが作動すると、瓶が割れて青酸ガスが放出される
 
実験の手順:
上記の要素を全て箱の中に入れ、蓋を閉めます。
1時間放置します。
1時間後、箱を開けて猫の状態を確認します。
 
量子力学的な解釈:
量子力学によれば、放射性原子は崩壊するまで「崩壊している状態」と「崩壊していない状態」の重ね合わせの状態にあります。これは、原子が同時に両方の状態にあることを意味します。
 
この重ね合わせの状態は、ガイガーカウンター、ハンマー、青酸ガス、そして最終的には猫にも影響を与えます。つまり、箱を開けるまで、猫は「生きている状態」と「死んでいる状態」の重ね合わせの状態にあると解釈されます。
 
観測問題:
しかし、私たちが箱を開けて猫を観測した瞬間、猫は「生きている」か「死んでいる」かのどちらか一方の状態に確定します。これは、観測行為が量子状態に影響を与え、重ね合わせの状態を崩壊させることを意味します。
 
②  思考実験の目的
シュレーディンガーは、この思考実験を通じて、以下の点を指摘しようとしました。
 
コペンハーゲン解釈の不条理:
量子力学の標準的な解釈であるコペンハーゲン解釈では、観測されるまで物体は複数の状態の重ね合わせにあるとされます。しかし、これを猫のような巨視的な物体に適用すると、「生きている猫と死んでいる猫の重ね合わせ」という直感に反する結論に至ります。
 
観測問題:
観測行為が量子状態にどのような影響を与えるのか、コペンハーゲン解釈では明確に説明されていません。シュレーディンガーの猫は、この「観測問題」を浮き彫りにしています。
 
量子力学と古典力学の境界:
量子力学は微視的な世界を記述する理論ですが、巨視的な世界は古典力学で記述されます。しかし、両者の境界はどこにあるのか、この思考実験は疑問を投げかけています。
 
③  思考実験の意義
「シュレーディンガーの猫」は、量子力学の基礎的な問題点を提起し、その解釈をめぐる議論を活性化させました。この思考実験は、以下のような分野に影響を与えています。
 
量子力学の解釈:
コペンハーゲン解釈以外にも、多世界解釈やボーム解釈など、様々な解釈が提案されるきっかけとなりました。
 
量子情報科学:
量子コンピュータや量子暗号など、量子力学の原理を利用した新しい技術の開発に貢献しています。
 
哲学:
観測とは何か、現実とは何かといった、哲学的な問題にも影響を与えています。
 
④  思考実験の有効性
「シュレーディンガーの猫」は、あくまで思考実験であり、実際に猫を使って実験を行うことは倫理的に問題があります。しかし、この思考実験は、量子力学の奇妙さを分かりやすく説明し、その解釈をめぐる議論を深める上で非常に有効です。
 
近年では、猫の代わりに超伝導回路などを用いて、類似の実験が行われています。これらの実験は、「シュレーディンガーの猫状態」と呼ばれる、巨視的な物体の重ね合わせ状態を生成・観測することに成功しています。
 
⑤  結論の意味
「シュレーディンガーの猫」は、量子力学が私たちの直感とは大きく異なる世界を描いていることを示しています。この思考実験は、以下の点を私たちに問いかけています。
 
観測とは何か?:
観測行為は、単に情報を得るだけでなく、観測対象に影響を与える可能性があります。
 
現実とは何か?:
量子力学が示すように、現実は観測されるまで確定しないのでしょうか?
 
量子力学と古典力学の関係は?:
微視的な世界と巨視的な世界は、どのように繋がっているのでしょうか?
 
これらの問いに対する明確な答えは、まだ得られていません。「シュレーディンガーの猫」は、量子力学の謎を解き明かすための重要な手がかりであり、今後も研究者や哲学者を魅了し続ける問題です。
 
⑥  補足
シュレーディンガー自身は、この思考実験を量子力学の不完全さを示すために考案したものであり、重ね合わせの状態を支持していたわけではありません。「シュレーディンガーの猫」という名前は、この思考実験を説明する際に、猫が比喩として用いられたことに由来します。
 
 以上、これで、「量子」の不思議さを感じてもらえたと思いますので、いよいよ、量子アニーリングマシンを使って、おせちの材料の組合せ最適化問題に取り組みましょう。
 




[2]量子アニーリングマシンを使う準備


 では、最初に、量子アニーリングマシンを使う準備を述べます。今回使用する量子アニーリングマシンは、Fixstars Amplify社を経由するものです。
 

 まず、Fixstars Amplify社のサイトで、量子アニーリングマシンを使うための無料のトークンを取得します。
 
【Fixstars Amplify社のWebサイトはこちらから】
https://amplify.fixstars.com/ja/
 


 Fixstars Amplify社のWebサイトから、「無料のトークンを取得」をクリックして、以下の必要事項を入力してください。

 

次に、以下のようにアクセストークンを取得します。

なお、アクセス有効期限がありますので、期限が来たら、再発行をしてください。
 



[3]量子アニーリングマシンを使って計算する


 では、このアクセストークンを使って、おせちの材料の組合せ最適化問題を計算しましょう。
 

 なお、本教材を紹介した動画をYouTubeで公開しておりますので、こちらをご視聴していただくと、理解が早いと思います。
 
【テラオカ電子:『おせち料理の具材組み合わせ最適問題 量子アニーリングマシン編』】


前回同様、プログラムを私のGitHubのレポジトリからダウンロードしてください。
 
 

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