あなたの「探究」がきっと見つかる 高校生のためのAIの事例で学ぶ「探究」のポイント解説(16)
【特徴】
・「総合型選抜」に使えます。
・自分の才能が見つかります。
・自分軸を鍛えることができます。
某県立高等学校 再任用教諭 テラオカ電子
おわりに
「探究」を通して自分の興味・得意を見つけていく。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
「この程度の探究なら私にもできそう」とか「とりあえず探究をやってみよう」とか「面白いことを思いついたので、真似して探究をやってみよう」と思ってもらえましたでしょうか。本書を読んで「探究」を身近に感じてもらえたら幸いです。
[1]私が指導してきた探究学習のコンセプト
さて、本書では、工業高校の3年生が受講する「課題研究」の事例を紹介しました。「はじめに」で述べましたが、「探究」には様々な形式があります。もちろん本書で紹介した事例が「正解」というわけではありません。「教授法に万能はない」というのが、教育心理学の鉄則だからです。
それでも、私は、事例で紹介したような探究学習のスタイルに拘ってきました。ここでは、私の探究学習のコンセプトを述べさせてください。
「はじめに」で紹介した「コンセプト構文」にしたがって、私の「探究」のコンセプトを整理すると、
のようになります。
最初の3行の部分は、インサイトとバイアスです。10年以上前、「探究」を指導し始めた頃は、「探究」は生徒の主体性が大切なので、生徒自身でテーマや課題を考えさせ、自由に取り組ませるスタイルで実施していました。
私の「課題研究」の教材開発の目標は、生徒自ら課題を設定し、解決を行う創造的な「探究」の設計ですが、当初、そこでの定説、すなわち従来のやり方(周りの教員を含めて)は、生徒がアイディアを出しながら探究を進めていくものでした。
しかし、これを実際にやってみると、生徒たちに基礎的な知識がないので、よいアイディアを出すことができませんでした。生徒は、「探究」を「深い勉強」という程度の意識で、「探究」と「勉強」の違いも理解していませんでした。結果、残念なことに「小学生の夏休みの自由研究」レベルになってしまいました。
話が飛びますが、50年ちかく前、私が高校生だったとき、ある日、担任の先生から「H君が数学の論文を書いて賞をもらいました」という紹介がありました。当時、私は論文がどのようなものか分かっていなかったのですが、H君に聞いてみると塾の先生と一緒に書いたとのことでした。
この高校は県内有数の進学校でしたが、H君のように、生徒の中には、お金を出しても入ることができない特別な塾で「探究」をしていました。
また、私が小学生だったとき、隣は銀行員の家だったのですが、ある日、そこのお子さんと遊ぼうと尋ねていったら、「今日は土器の発掘にいくから遊べません」と断られたことがありました。ここでも、私は土器が何か分からなかったのですが、そこのお子さんは、知り合いの研究者と地質調査という「探究」を体験していました。
さらに、近所に、学校の先生の家があったのですが、この家では、庭に立ててある鯉のぼりの棒に電線を張って、ラジオの受信を行っていました。ここでも、私は無線についてまったく無知でしたが、ここのお子さんは、無線の「探究」を行っていました。
加えて、ベンチャー企業の社長さんが書いた書籍を読むと、高校生のとき「大人の研究会」みたいなものに出入りして「探究」を行っていたという記述がよくあります。
以上のように、このような恵まれた方であれば、「探究」を経験しているので、高校であっても自分で主体的に「探究」をやれると思いますが、そうした経験がない場合、やれといってもなかなかできないのではないでしょうか。
こういう言い方はいけないのですが、現実、クラスの半分は母子家庭です。決して母子家庭が悪いという意味ではないのですが、現実的に、先ほどのような探究の体験はかなり難しいと思います。もちろん私も裕福な家ではなかったので(大工の息子でした)、このような体験はありません。私が、探究(研究)を初めて体験したのは、大学4年生での卒業研究です。なので、普通の高校生に「探究」を自主的にやりなさいといっても経験がないので、できないように思います。
こういう現実もあるので、私の指導のやり方は、まず、「探究」の基本設計を事前に準備しておきます。「教材の事前開発」です。生徒は、それを体験しながら理解を深めます。そして、最後に「次期型(自身の改良版)」を提案します。こうすることで、生徒自ら課題を設定し、解決を行う創造的な「探究」が可能になると考えたわけです。
事前に設計された教材を体験していきながら理解を深め、最後に次期型を提案します。すなわち、PDCAの「Plan」の位置を最後に持ってきます。「Do」から始めるわけです。
コンセプト構文の
は、そのような意味です。
さらに、ビジョンは、
となります。
生徒は、まずは、教材を使ってオーセンティックな「探究」を体験します。その体験を通して、研究方法を学びます。それから、自分の力で「探究」を行っていくという手順です。
このような私の探究活動の指導に対して、「教えすぎ」という批判もあるのですが、山本五十六の言葉ではないのですが、
を実践しているつもりです。
[2]探究を通して自分の興味・得意を知る
「探究」は、テーマを決め、仮説を設定し、実験や観察を行っていきますが、これらは全て、自分の興味・関心にしたがって進めていきます。
行動遺伝学の知見によれば、得意の半分は、遺伝で決定されていると言われます。また、どのようなことに関心があるのかや、どのように行動していく傾向にあるのかも遺伝に強く依存しているとされています。なので、自分の遺伝的傾向で「探究」を進めることができれば、熱中できますので、ストレスなく、楽しい充実した探究活動になります。「探究」を通して自分の興味・得意を知ることができます。
ぜひ、「探究」を行って自分の興味や得意を見つけましょう。もし、自分の中に「やってみたい」とか「できそうだ」という感覚が意識されるならば、それは将来に進むべき道です。自分の進路に悩んでいるならば、「探究」に取り組んでみましょう。必ず発見があるはずです。
また、生徒の皆さんは、人生100年の時代を生きます。人生は一度きりですが、どんな人生が幸福なのでしょうか。私は、「探究」を楽しむ人生が幸福だと考えています。高校生の皆さんが、本書がきっかけとなって「探究」に取り組んでもらえたら、私の最高の喜びです。
[3]本書に関わってくれた方全てに感謝
本書では、実際に生徒が取り組んだ探究学習の事例を載せました。執筆しながら当時の様子を様々思い出しました。全力で取り組んだつもりですが、失敗も多々あり、全てが満足できる活動ではありませんでしたが、生徒の皆さんは、私の教育活動に忍耐強く付き合ってくれました。本書の事例全てに生徒の皆さんの熱い活動が込められています。この場をかりて深く感謝します。そして、皆さんの今後の活躍を心からお祈りしております。
本書は、ある出版社から「探究」の本を書かないかと依頼を受けたものです。編集者の方と何度も「探究」について議論を重ねました。本書の内容は、ここで議論された探究学習に関する問題意識がベースになっています。この原稿は、無名の私に書く資格があるのかと思いつつ始めました。結局、出版には至りませんでしたが(ビジネスではよくあることです)、なんとかまとめることができました。ありがとうございました。
最後に、私事ではありますが、家族に感謝します。本の出版に関して妻に、「実際に書籍になるかどうかは分からない。原稿を書いてるけど、不採用で没になってしまうかもね」と弱音を吐いたら、「子ども(息子)たちに、本を出すと自慢できたからいいんじゃない」と言われ、肩の荷が降りて、タンタンと書き進めることができました。このように公開できて、家族への最高のプレゼントになったと感じています。
本書が、どれほどの読者に読まれるのか分かりませんが、僅かですが、収益の全額を寄付したいと考えています。寄付先については未定ですが、この新しい教科「探究」の重要性が広く浸透して貰えればと考えています。
2025年1月
テラオカ電子
(お断り)
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