どんぐりと山猫 一郎少年の選択
時々取り寄せる鮭の切り身セットには立派な鮭頭がついている。
鮭頭を解凍し塩を振ってじっくりと焼く。好物のほほ肉、歯応えと脂のバランスが絶妙。口にすると思わず顔がほころんでしまう。
鮭頭ばかり集めたセットがあればいいのに。
鮭の頭と言うと、宮沢賢治の『どんぐりと山猫』を思い出す。
どんぐりと山猫
一郎少年のところに、山猫から奇妙な手紙が届く。
大変難儀な裁判があり、一郎少年に手伝って欲しいから来てくれと言う手紙だ。
一郎少年は手紙をうれしく思い、翌朝さっそく出かけた。
道中、栗の木や笛吹の滝、キノコたち、リスに尋ねながら歩き、山猫のところにたどり着く。
そして、限りない数のどんぐりたちが口々に騒いでる場面に出くわす。
大小さまざまいろんな様子のどんぐりたちがワーワー騒いでいる。
みんな口々に、先の尖ったのがいちばんえらい、いや丸いのがいちばんだ、
押し合いっこで強いのがえらい、そしてそれは私だと争っている。
争いをさばく裁判官は山猫であるが、すごい騒ぎで誰が一番か決められない。
山猫は毎年この裁判で苦しむらしい。困った山猫は一郎少年に、何とかしてほしいと頼む。
一郎は、
「このなかでいちばんえらくなくて、ばかで、めちゃくちゃで、
てんでなっていなくて、あたまのつぶれたようなやつがいちばんえらいのだ」
と言う。
この言葉を、山猫が厳かに繰り返したとたんに、どんぐりたちは一同、静まり返ってしまう。
大変な裁判を、あっという間に片付けた一郎少年に対し、山猫はお礼の品を渡したいと言う。
黄金のどんぐり一升ぶんか、塩鮭の頭か、どちらかを選べと言う。
一郎少年は黄金のどんぐり、と即答。
一郎の選択に、山猫はほっとしたように見える。
私が一郎だったらもちろん塩鮭の頭を選ぶなあ。
山猫は
「どんぐりを一升早くもってこい。一升にたりなかったら、めっきのどんぐりもまぜてこい。はやく。」
と馬車別当に命ずるのだった。
山猫、威厳があるように見せているが、ちょっとセコい。
秋の野山を一郎くんが進み、
出会う自然物や動植物が、オノマトペも交えてユーモラスに描かれているのが
大好きな作品。
どんぐりの裁判や、山猫のようすは、今の政治や教育を揶揄しているようにも思えてくる。
以上鮭の頭からの、初の本紹介でした。
どんぐりと山猫の朗読、今は亡き俳優の加藤剛によるものを、子どたちも一緒に聞いて慣れ親しんでいた(図書館のCDブックで見つけた)。
youtubeでは見つけられず。
youtubeでもいろいろ聞いてみたが、この方の朗読がいいなあと思った。
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