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わたしの暮らしを愛でる#6|OLになりたい!①
「そんなの、かわいいもんやん」と彼は言った。
わたしが、とても罪悪感を抱えていることに対して。
それがなんだったのか、
今となっては思い出せないんだけど。
忘れていた「恋」
20歳寸前の冬。
彼の車の中で、その言葉を聞いて。
一瞬で恋をしてしまった。
わたしの中の理屈では見つけられない答えを
彼は持っているんだと感じた。
自分が恋をした瞬間に、
わたしはまさにその存在を思い出した。
というのも、
摂食障害がわたしの人生にもたらしたインパクトがあまりに大きくて、
この世に恋愛というものが存在することを、なんというか、忘れていたから。
それまで、好きでもなんでもなかったのに、
あの一瞬で、「彼の全部が大好き」になったのだった。
営業マンだった彼
彼は8歳年上の、精密機器メーカーの営業マンだった。
仕事帰りに会う時はいつも、
スーツ姿に、ノートPCの入った重そうなショルダーバッグを下げていた。
(当時は、今のようにリュックが主流でなかったと思う)
仕事での愚痴をユーモアを交えて
「あのおっさん、いいかげんにしてくれよ~」と
名古屋出身なのに過去の配属先の影響で関西弁訛りに話す彼が、
わたしには誰よりもかっこよく見えた。
いろんなこと、笑いにしてくれた。
週末のデートでは、いつも笑いすぎて、
ほうれい線上にファンデーションが溝になって気になるほどだった。
わたしが深刻に悩むようなことも
「(大丈夫を崩した言い方で)だぁぃ、だぁぃ、だぁぃ、だぁぃ」などと言っていた。
実際、わたしとしては大丈夫なんかじゃないんだけど、
一緒にいる時は、受け入れがたい現実をちょっとでも忘れられた気がする。
そうだ、OLになろう。
働く彼の姿に影響されたのか、詳しくは覚えていないけど、
オフィスで働くことに憧れを持つようになった。
ただ、間違いなくこう思っていた。
「彼に相応しい人になりたい」
わたしが、ただアルバイトに一日一日行くこと、
メンタルの波が大きく振れないことを目標に生きる中で、
メーカーの営業マンとして、
どこか、プライドを捨てるプライドを持って働き、
泥くさいことも華やかなことも経験している彼。
そんな彼にふさわしいわたしになりたかった。
「営業ってどんな感じでするの?」と聞いたら再現してくれる彼も、
商材について質問したら、その仕組みを詳しく教えてくれる彼も、
PC入りの重いショルダーバッグを下げて猫背気味な彼も、
酔いつぶれて夜中に家に来る彼も、
大好きで、尊敬していた。
初めて、お付き合いらしいお付き合いをした人。
この人とずっと一緒にいられたらいいのに・・
面と向かっては言えなかったけど、
ずっと一緒にいたかった。
なにより、普通の人・・、彼にふさわしい人になって、
同じ土俵で生きてみたかった。
わたしの「OLになりたい」は
「普通になりたい」
「この人とずっと一緒にいたい」
ってことだった。