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質実剛健なコンパクトSUV。お手本のような仕上がり Volkswagen T-Cross 試乗記録 #9

今回はVW T-Crossに試乗してきた。このクルマはVWが全世界で大人気なジャンルであるBセグメントSUVに投入したモデルで、同社のBセグメントハッチバックPoloがベースとなる。家族がPoloを愛用していて、私も度々Poloのハンドルを握るから、それをSUVに仕立て上げたこのクルマは果たしてどのような乗り味なのか気になっていた。今回の試乗を通して、このクルマがPoloと比較してどのような乗り味なのか、小さくてもちゃんとVWらしいクルマなのか確かめてきた。

Information

Volkswagen T-Cross
年式:2022年式
グレード:TSI Active
パワートレイン:1.0L 直列3気筒 + ターボチャージャー
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:FF
最高出力:114馬力(5,000~5,500rpm)
最大トルク:200Nm(2,000~3,500rpm)
車両重量:1.27t


Driving

角ばったボディは利便性を重視していて好印象

このクルマは、日本国内に於けるVWのSUVのラインナップ中でエントリーレベルを担うモデルだが、その走りはしっかりと「VWらしさ」が感じられる、真面目でしっかりとした良いものだった。

まず、VWクループのクルマのステアリングフィールの特徴は、低速域で非常に軽く、中・高速域で重みがしっかりついて安定感が増すというもので、この2つの性格のメリハリがはっきりしていることだ。T-Crossも例に漏れず、低速域で非常に軽いステアリングのため、駐車や切り返しの際に扱いやすい。また、40〜50km/hくらいでしっかりしたステアリングになり、安定感も操作性も増す。Mazda CX-3のようにクルマとの一体感や特徴的であるとか、クイックなステアリングというわけではないが、綺麗にコースがとれる良い塩梅のセッティングだと思う。

このクルマは速度域が上がれば上がるほど、(良い意味で)ライバルとの違いが明確になる。遮音性はBセグSUVとしてはかなり良い部類。ウィンドウノイズもロードノイズもしないわけではないが、BセグメントSUVの中だとかなり上出来だ。

基本設計が共通のAW型Poloと比較して足はやや硬めになっている。これはSUVにありがちな性格で、重心が高く、車両重量が大きいことから、コーナーでの安定性を確保するためだ。それはさておき、乗り心地はBセグメントSUVとしてはかなり優秀で、チープな感じは全くしない。一回りも二回りも大きなクルマのような安定感と重厚感がある。路面の状況は伝えるけれど、不快な振動は伝えない、その減衰の塩梅の良さはさすがVWだ。ただし、大きめの段差を通過するときの振動の伝達でPoloとの違いが出てしまう。SUVとしてはかなり快適だが、どうしてもベースになっている背の低いハッチバックの方が優秀と言わざるを得ない。

このクルマが搭載するのは1L直列3気筒エンジンで、ターボを組み合わせる。他の市場では出力違いモデルや、ディーゼル、148馬力を発揮する直列4気筒1.5Lターボのような高性能仕様もあるが、本邦向けの1.0Lは一番価格と性能のバランスが良いエンジンだと思う。トランスミッションは乾式単板の7速DCTを採用している。追い越しや合流といった加速時、特にキックダウンのようなシチュエーションでは、そのシフトのキレの良さが光る。このBセグメントクラスでは殆どのライバルがもっさりとしたフィーリングのCVTを採用する中で、これは非常に魅力的に見える。また、トランスミッションが優秀であるからだろうか、エンジンのサイズや性能の数値以上に加速時のパワーの乗りがよくて、気持ちよく加速してくれる。普段使いなら全くパワーに文句がないし、高速行きでも安心して走れる。

DKR型エンジン

さて、従来のVWのDCTは低速域でギクシャクしてしまうことがデメリットとして挙げられていた。しかし、このクルマのDCTは(従来型、例えば6R型Poloの乾式単板7速DCTと比べて)低速域での加減速が多い状況でもギクシャクしにくかった。(Mazda CX-3の6速ATのような)通常のATと同じくらいかそれ以上にスムーズさに磨きがかかっていて、間違いなく以前より洗練されているように感じられた。これは驚いた。

T-Crossは(Mk.8 Golfなどと異なり)ちゃんと大きなシフトノブを採用

ここまで基本的に褒めてきたが、AW型Poloや6R型Poloと比較すると、どうしても気になってしまう点が3つある。

まず1つ目に挙げられるのは、ブレーキの際のサスペンションの処理だ。やや強めにブレーキを踏むと、最後の止まる瞬間にサスが弾むような感じがするし、その時に「キュコッ」と音がする。折角の洗練された運転感覚に「?」がついてしまう。当然ながら、Poloはスムーズに止まってくれるし、多少強めに踏んでも安定感が崩れることはない。T-Crossは重心が高く、車重もあるというのが原因なのだろうが、ちょっと荒削りだと思う。

2つ目に挙げるのはエンジンの振動だ。このクルマは前述の通り直列3気筒のエンジンを搭載するわけだが、直列4気筒のエンジンを搭載するPolo(例えば6R型やAW型前期TSI R-Line)と比較すると、アイドリング時にステアリングに伝わるブルブルとした振動が気になる。他のライバルと比較すると遮音性は高いが、直列4気筒のPoloと比べてしまうとエンジンノイズも明らかに大きい。パフォーマンスの違いはエンジンが違うのだから流石に目を瞑るが、振動特性の違いはどうしても欠点になってしまう。ちなみに一部の市場ではT-Crossにも1.5L直列4気筒エンジンが設定されるようなので、これを選べる場所に住んでいる人はその違いをぜひ確かめてみてほしい。

3つ目に挙げるのはコーナーでの安定感だ。このクルマはBセグメントSUVとしては安定性に優れるクルマだが、50km/h以上のコーナーだと重心の高さがはっきり出てきてしまう。決してシャシーや足回りの設計が悪いわけではないし、このクラスのSUVとしては比較的安定感に優れるが、Poloを運転している気持ちでコーナーに侵入するとボディが持っていかれる感覚とグリップがはがれる感覚がする。同クラスの中で高速域のカーブでの安定性を求めるなら、Nissan KicksやMazda CX-3の方が良い。また、峠道や郊外の曲線が多い道路で楽しいクルマではない。そのようなSUVを求めるならCX-3が良い。

さて、このクルマの運転のしやすさを見ていこう。角ばったボディスタイルと全体的に広く採られた窓により、クルマの四隅の位置がわかりやすいので、運転してみると想像よりもクルマが小さく感じられた。実際、ライバルより比較的小さい10.2mの最小回転直径により、取り回し性能は良好だ。

しかし、極太Cピラーの影響で斜め後ろの視界は良くないので、合流などでちょっと気になってくるだろう。また、スピーカーが内蔵されているAピラーは太く、三角窓の位置はプラスチックパーツで塞がっていて、さらにサイドミラーが厚いので、斜め前の死角が大きい。また、分厚いサイドミラーだが、ミラー自体の面積は小さいので、助手席側斜め後ろの視認性が良くない。

極太Cピラー
斜め前の死角は大きめ

総合すると、運転はしやすく取り回し性は良好な部類だが、視界の面でややWR-Vのようなライバルに劣るといった感じだ。

Efficiency

今回の試乗での平均燃費は10.4km/Lだった。本当に?今回は一般道メインだったとはいえ、こんなに燃費悪かったっけ……ちなみにWLTCの市街地モードは13.5km/L。私、数年前に1.4L直4の6R型PoloでJC08モードの理論値(22.2km/L)叩き出したぞ……正直なところライバルより経済性は良くない。ただ、このパワートレインの優秀さを考えると決して悪い数値ではないと思う。

Safety

このクルマは全グレードで衝突被害軽減ブレーキ、レーンキープアシスト、アダプティブクルーズコントロールなど、大抵の予防安全機能が標準装備される。ただし、車線変更時に他車がいた場合にステアリング操作を抑制するレーンチェンジアシストシステム(斜め後ろのブラインドスポットモニタリングも含む)とリアトラフィックアラートはメーカーオプションとなる。このクルマのACCのレーンキープアシストはMazdaのシステムのようにドライバー主体で扱いやすく、SubaruやHyundaiのようにシステムの自我が強いタイプではない。

今回乗ったActiveには装備されていなかったが、StyleとR-LineにはマトリクスLEDヘッドライトが装備される。片側22個のLEDライトを個別に制御して、対向車だけを避けるように照射してくれるもので、対向車にも配慮しつつ自分の視界を確保できてかなり便利な装備だ。さらに、ステアリングに連動した制御や、コーナリングライトも備わる。

Interior and Practicality

Front

建て付けは良いが(VWにしては)素材がチープだ

全体的にしっかり作られていて、建て付けが良い。見た目の安っぽさはなく、デザインの統一感もあるが、インパネの全てが硬いチープな樹脂素材でできているため、従来のVWにある「同じ大衆車ブランドでも他より"ちょっと"良い」感じが全くなく、Mazda CX-3やHonda Veselの方が質感が高い。

見た目の質感は悪くないが触ってみるとそこら中が硬い樹脂

一応、ドアアームレストやセンターコンソールは柔らかいが、ドアパネル上部も硬い樹脂素材でできている。長時間の運転の際にドアパネル上部は肘置きにされがちだが、これでは肘が痛くなってしまう。

ドアパネル上部も硬い樹脂

さて、質感の話はさておき、利便性に関しては満足のいく水準である。まず、ドアポケットはかなり大きく、2Lのペットボトルも入る大きさだ。

クラストップレベルのサイズのドアポケット

センターコンソールボックスはやや小さい。ただし、センターアームレストが前後にスライドするといった豪華な機構はない。(もうちょい前に来てほしかった)

ちょっと小さいが、装備されないライバルもいるので……

センターコンソールにはカップホルダーが2つある。大きさは問題ないが、配置的に背の高いペットボトルを置くとシフトノブを操作する手の経路と干渉してしまう。ちゃんとボトルの蓋を閉めよう。

手引き式のパーキングブレーキ、Love……

グローブボックスは結構小さい。車検証と説明書を入れてピッタリくらいの大きさだ。Peugeotなど大半のフランス車と異なり、VWの右ハンドル仕様はヒューズボックスを運転席側に移設しているが、これはCDチェンジャーの名残だろうか?ETC装着箇所の横に謎のブランクがあり、これがグローブボックスを圧迫している。

これはCDチェンジャーの名残?

エアコン操作パネルは、最新のVWのようにインフォテインメントシステムに吸収されてセンターディスプレイから操作する最悪のシステムほどではないが、全てタッチパネルになっている本当に最悪のインタフェースだ。しっかり視認しないと、どこ触ってるのかわからないし、ちゃんと操作が反映されているのかわからない。運転中に視線をこのインタフェースに向けることがどんなに危険な行為かVWの設計者はわからないのだろうか。しかも、運転中こそ使う機会が多いデフォッガーの切り替えもタッチパネルになっている。設計者は無免か?

まぁ(エアコン関係ないが)パーキングセンサの切り替えやアイドリングストップの切り替え、ハザードは流石に物理スイッチになっている。しかし、アイドリングストップの切り替えを押したらデフォッガーmaxボタンに触れてしまったり、ハザードをonにしたら風量大に触れてしまい風量がバカデカくなったりと、このタッチパネルは本当に厄介な設計だった。

実はT-Cross、2021年9月2日の改良(?)以前のモデルでは物理ボタンと物理ダイヤルを採用していた。今すぐに当時の仕様に戻してほしい。

本当に最悪なインタフェース

前席用の電源供給は、USB Type-Cが2つ、12Vソケットが1つある。さらに、嬉しいことに全グレードでワイヤレス充電器も装備される。

全てのグレードにワイヤレス充電器もある

サンバイザーはしっかりとした作りだが、残念ながらバニティミラーに照明は装備されない。

照明がほしい

素晴らしいことに、ステアリングスイッチは物理ボタンを採用している。Mk.8 Golfの前期型やIDシリーズなどで一時期VWはステアリングスイッチもタッチパネルにする悪行を犯したが、Golfも最近のMCで物理ボタンに戻り、同様に最近MCを受けたT-Crossもデビュー当初から引き続き物理ボタンを採用している。パドルシフトは全てのグレードで標準装備されており、DCTのキビキビとしたフィーリングのMTモードを楽しめる。

ステアリングスイッチの押し心地も良い感じ

このクルマのシートは適度な硬さで長距離の運転に適している。特に運転席にも助手席にもランバーサポートが全グレード標準装備されるのは嬉しい。残念なのは(逆に日本車や韓国車が異質なのだが)リクライニングがラチェットによる調節であることだ。レバー一つで操作瞬時にリクライニングできる日本車や韓国車と違い、ラチェットは手首が痛くなる。

使ってみて意外と厄介なのは助手席側にドアロックのスイッチが存在しないことだ。これはVWの低価格なモデルにありがちなコスト低減設計で、Poloなどにも見られる。一人で乗る分には問題ないが、家族を送迎したり、複数人で出かけたりするシチュエーションで結構めんどくさい。

ドアの施錠/開錠スイッチは運転席側にしかない

ちゃんと右ハンドル車のヒューズボックスを運転席側に移設するVWだが、ボンネット開閉レバーは助手席側にある。

知らないとなかなか気づかない

Infotainment System

Discover Pro

今回乗った個体に搭載されるインフォテインメントシステムは9.2インチのディスプレイのDiscover Proだ。このシステムはVW的には先代型となるもので、最新のシステムはMk.8 Golfに装着されているエアコンが含まれているアレだ。

タッチパネル自体は反応が良くてメニューなどではサクサク動くが、地図の読み込みが遅いから、ピンチイン/ピンチアウトするときのラグが大きい。また、地図自体の視認性もよくない。ポリゴンが粗いので、拡大された縮尺でも道路の形状が雑。

また、マップ機能のUIがわかりにくい。例えば、どこから目的地のワード検索ができるのかわかりにくいし、ルート検索できてもどれが一般優先でどれが距離優先でどれが時間優先なのか、そしてどこを押したら選びたいルートを選択できるのかわかりにくすぎる。従って、Apple CarPlayもAndroid Autoもワイヤレスで利用可能なので、それらを強く推奨する。しかし、後述するように純正ナビでないとドライバーズディスプレイで経路案内できなくなる……

じっくりこのクソUIと睨めっこできるなら純正ナビでルート検索してドライバーズディスプレイを使えるようにしても良い。でも普段使いはCarPlayを使いたい。

一応、現在地やHomeメニューのショートカットキーが画面左側にあるが、こちらもエアコン操作パネルと同様にタッチパネルなので運転中どこ押してるかわからず、使い物にならない。

クルマの年式と選択するインフォテインメントシステムにもよるが、このクルマには10.25インチのドライバーズディスプレイであるDigital Cockpit Proが装備され、ナビゲーションの表示もできる。Audiのバーチャルコックピットとほぼ同じシステムで、配置のカスタマイズ性も機能性も高く、地図も見やすい。残念ながらApple CarPlay

全面マップ表示が可能
メーター表示とマップ表示の両方
メーターのみ

Rear

後席空間の広さも長所

頭上空間も膝回りも広く採られていて、BセグメントSUVとしてはトップレベルの室内空間の広さとなる。頭上は身長176cmの私がまっすぐ座っても拳1.5~2個分の余裕があり、角ばったボディなのでCピラー(顔横や肩周り)の圧迫感もない。膝回りは私の後ろめなドライビングポジションの後ろでも拳2個分以上の余裕がある。

余裕の足元空間
前席下の空間もそれなりにあるので伸ばせる

また、このサイズのクルマにしては床面から後席座面までの高さが確保されているので、膝下の隙間も小さく抑えられているから長距離の乗車も疲れにくい。また、前席の座面を低めにしても、前席下の空間が大きいので、後席の乗員は前席の下に足先を突っ込んで伸ばすことができる。

ただし、トランスミッショントンネルがやや太く、フロントシートのレールがそこそこ幅があるので、床面の広さはHyundai Konaに軍配が上がるし、足元空間的に中央席に大人が座るのは少し厳しい。とはいえ、少し高くなっている中央席に座っても頭上は拳1つ分の余裕があるので、足の小さい子供であれば不満はない。

意外と前席のレールの盛り上がりが大きい

後席用のエアコン送風口はない。しかし、USB Type-Cポートが2つあることは優秀だ。

USB Type-Cポートが2つある

残念ながら後席用のセンターアームレストはない。故にカップホルダーがないので、必然的にドアポケットが重要になるわけだが、このクルマのリアドアのポケットはフロントと同様に非常に大きく、1Lのペットボトルも余裕で入れられる。

質感は低いがドアポケットが大きいのが魅力的

ドアの開口角度は大きく、開口部の幅も高さも大きいので、乗降はBセグメントSUVとしてはトップクラスにしやすいクルマだ。ついでにドアを閉じた時の音の話をすると、このクルマのドアはフロント・リア両方とも2クラスくらい上のクルマのような重厚感・剛性感のある音がする。Yaris CrossやKicksなどほぼ全てのライバルで薄い金属の板の音がする中で、ドアの開け閉めだけでこんなにも満足感が高い大衆車はVWしかないだろう。

大きな開口部

しかし、ドアパネルがクルマのサイドシルを覆っていない構造なので、雨の日や未舗装路を走った後のような車体が汚れているときに乗り降りしようとすると、ズボンの脹脛が汚れてしまう。設計の詰めが甘い。

ドアパネルがサイドシルを覆っていない
サイドシルが汚れているとズボンが汚れる

ISOFIXアンカーポイントは蓋がないタイプで、簡単に装着できる。室内空間の広さとドア開口部の大きさも相まって、チャイルドシートの装着はこのクラスの車としてはかなりしやすい部類となる。

ISOFIXアンカーポイント

Boot

広さも利便性もクラストップレベルの荷室

このクルマは、居住空間だけでなく荷室もクラストップレベルの大きさで、非常に利便性が高い。荷室は455Lもある。ライバルの荷室を見ていくと、CX-3は264L、Fronxは308L、Veselは319L、Yaris Crossは390Lであり、T-Crossの荷室は一回りも二回りも大きい。(WR-VはT-Crossより3L大きく、Hyundai Konaは11L大きいが)

また、このクルマの荷室の長所は広さだけではない。アジャスタブルブートフロアが全グレード標準装備されるため、荷室の入り口と床面の高さを揃えることができる。故に、大きな荷物や重い荷物の積み下ろしがしやすい。

段差がないので積載性が良い

アジャスタブルブートフロアを下にすれば深い荷室になり、背の高い荷物を積載しやすくなる。

床面を低くした場合

アジャスタブルブートフロアを上にした場合、床下収納もそこそこ確保される。ただし、コスト低減のためかボディが剥き出しになっているので、物を入れるなら何か一枚マットを敷くか、布系の柔らかい袋に入れておきたい。

床下収納
フロアを固定する出っ張りがあるので床下収納にアクセスしやすい

トノカバーは大きいので取り外した場合の収納場所に困る。床下には残念ながら入らない。

トノカバーは床下に入らない
トノカバーの紐の先端がラバー製で、どこかに当たっても音が鳴りにくいようになっている

後席は60:40分割可倒式で、残念ながらGolfにあるようなスルーローディング機構はない。Poloにもないが、これの有無でかなり利便性が変わってくるので装備してくれても良いのだが。ちなみにYaris Crossは上位グレードで40:20:40分割可倒式を採用している。見習ってほしい。

入り口も含めてフルフラットになる

後席を倒すと(アジャスタブルブートフロアを上にした場合)荷室の入り口から後席背面までフルフラットにできる。長尺物の積載がしやすいし、スーツケースのような大きくて重い荷物を押し込むことも簡単だ。

後席を倒した時にシートベルトを巻き込まないためのクリップ

荷室の気になる点は、リアゲートを閉じるための取っ手が内側にないことだ。三角停止版の収納(?)と思われる窪みがあるが、実際に使ってみると手が引っかかるような形状ではない。よって、リアゲートを閉じるためには(手が汚れてしまうが)クルマの外板に触れなければならない。

リアゲートを閉じるための取っ手がほしい

Is the Volkswagen T-Cross a good car?

BセグSUVでもちゃんと"VW"だった

このクルマは小さいながらもVWらしさが強く反映されていて、このクラスの中で最も洗練されているクルマだと思う。SUVのU(Utility)の部分が極めて優秀であり、同時にクルマとしての基本(走行性能や乗り心地など)もBセグメントSUVとしてはこれ以上ない仕上がりだ。確かに、日本国内メーカーのライバルと比較すると価格がやや高いが、このクルマにはそれ相応かそれ以上の実力があると思う。

ただし、SUVに拘りがないのなら、話が少し変わってくる。T-Crossが優秀なクルマであることは間違いないのだが、ベースであるAW型Poloと比較すると、走行性能や乗り心地、価格、経済性、質感など車内の広さ以外の全ての要素でPoloの方が勝っているし、PoloもAW型は決して狭いクルマではない(Bセグとしてはかなり広い)。私は今回T-Crossの試乗を通して改めて(4気筒の)Poloの良さを知った。私なら新車のT-Crossより認定中古車のAW型前期R-Lineを選ぶだろう。(日本仕様のPolo(GTIを除く)は2022年6月のマイナーチェンジで3気筒だけになった)

もし、あなたがファミリーカーとしてのコンパクトなSUVを探しているなら、ぜひこのクルマを見てみてほしい。箱型のボディのおかげで室内空間も荷室も広い。小排気量ながら十分なパワーのエンジンと、ワンランク上の安定感と重厚感があるボディと足回りで長距離の運転も難なくこなせる。そして、機能も充実していて、バーチャルコックピットやマトリクスLEDヘッドライトのようなこのクラスのクルマとしては非常に豪華な装備もある。ライバルよりやや高価であることや、燃料がプレミアムガソリンであることといった(このクルマの魅力に比べたら)些細な理由でこのクルマを選択肢から外すのは本当に勿体無い。選択肢に突っ込んで、試乗して、比べてみてほしい。

SUVの"U"tilityの性格が強い、良いクルマだった

Pros

・室内空間が広く、荷室も大きくて使いやすい
・キビキビとしたDCTは低速域でも違和感がなく、パワートレインのポテンシャルをうまく引き出している
・車体剛性はピカイチ
・乗り心地はやや硬めだが不快感はなく、むしろ安定感があって高速道路でも快適

Cons

・内装がVWにしてはチープ
・2021年9月2日の仕様変更以降のモデルはエアコン操作パネルが絶望的に使いにくい
・コーナリング時の安定感は平凡
・運転が楽しいクルマではない

Alternatives

Nissan Kicks
T-Crossと価格帯が極めて近しい。高速域も含めたコーナーでの安定性に優れるため、SUVにしては運転感覚が普通のハッチバックに近いが、足が硬いのに、ステアリングのダイレクト感が希薄なので、スポーティなのかマイルドなのかどっちつかずでわからない。さらに、価格に対して装備内容や質感が不十分であり(100万円も安いWR-Vと同程度)、リアシートを倒しても荷室がフルフラットにならないなど構造的にチープな面も目立つ。シリーズ方式ハイブリッドシステムにコストがかかっていそうだが、それに相当な魅力を感じない限り選びにくい。

Honda WR-V
T-Crossと似た方向性のクルマで、室内空間と荷室の広さが魅力的。T-Crossと比較すると、装備内容やパワートレイン、遮音性など、全体的にチープで不十分だが(特にパワートレインが最大の不満)、100万円も安いと考えると納得できる。利便性の高いコンパクトSUVが欲しいが、予算に限りがある場合に最適な選択肢だ。

Honda Vesel
後席空間(特に足元)に余裕があり、乗り心地も(T-Crossのように)クラスを超えたレベルの仕上がりで、快適に移動できる。インテリアの質感の高さも魅力だ。ただし、パワートレインの完成度は今ひとつで、街乗りではモータのスムーズな加速が良い仕事をしているが、(幹線道路くらいの)中〜高速域でパワーの不足感とエンジンノイズが気になる。また、荷室がかなり狭い。街乗りメインで快適で上質なコンパクトSUVを探しているならピッタリな選択肢だろう。

Toyota Yaris Cross
200万円を切るスタート価格と経済性の高さが魅力的なクルマ。意外にもステアリングがクイックだったりする。ただ、内装は軽自動車のようにチープで、足が硬く乗り心地はイマイチ。とにかくクルマにかかるコストを抑えたいなら良い選択肢となるが、室内空間や荷室が狭いので、ファミリーカーとして使いたいなら、ほんの僅かに予算を増やしてWR-Vを選びたい。

Mazda CX-3
後席の居住性と積載性はクラス最下位だが、クルマとの一体感のある楽しい運転感覚と内装の質感(デザイン性)はトップレベル。設計はやや古いものの、価格を考えると装備も充実しており、利便性に目を瞑れば満足度は高いはず。(日本国内で販売されているBセグSUVとしてはかなり珍しく)ディーゼルも選べる。あくまで1〜2名乗車前提で、運転の楽しさを重視したいなら最適だと思う。

Hyundai Kona
現在日本国内ではBEVモデルしか用意されていないため(価格表上では)高価だが、補助金を含めると289万円〜になるので、実はKicksやT-Crossよりも安価に買える。Bセグとしては極めて珍しく四輪独立懸架を採用していることもあり、ソフトで非常に快適な乗り心地が魅力だ。装備内容はT-Cross以上に充実していて、質感も悪くない。Bセグとしてはやや大柄なものの、後席も荷室もT-Cross並みかそれ以上に広い。ただし、ステアリングが鈍いので楽しいクルマではない(パワーとアクセルのレスポンスは十二分)。自宅が戸建てだったり、首都圏に住んでいたり、そういう充電インフラに困らない住環境であれば、かなりおすすめしたい一台だ。

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