セレブ亀の恩返し②
N氏は目を疑った。男は「銀座 に志かわ」のパンをちぎって、池にポイポイ投げている。
カメは凄まじい勢いで、パンに喰らいついてる。
「かめ!かめ!」N氏の甥っ子は絶叫している。興奮の面持ちだ。
「カメさん、食べてるねー、美味しそうだね」
N氏は甥っ子の頭を撫でながら流し目でそっと、男を確認する。
「美味しいですよ!食パンは!」
男はナチュラルに話しかけてきた。
「あ、はい、美味しいですね」
N氏は困惑しつつ返事する。
「はい、少年にも食パンあげよう!」
男は「に志かわ」の食パンをちぎって、甥っ子に渡した。
「良かったねー、お兄さんにありがとう、は?」
N氏は甥っ子に声をかける。
「あーとー」
甥っ子はそう言い、パンをそのまま食べてしまった。
すると男の様子が豹変した。
「カメに、あげろと言ったんだ、、」
え? N氏は男をまじまじと、見た。
「に志かわ」の紙袋を持った男は、長身でガタイもよく、黒いデニムのGジャンを着ていて、肩を震わせている。
ヤバいわ、なんか怒ってる、なんかわからないけど、殴られるかも。
N氏はそっと、甥っ子を自分のほうに引き寄せて、「帰ろっか」と言った。
では、失礼します。そう軽く、会釈し、黒いGジャンの男の前から立ち去ろうとすると、
「そのパンを、カメにあげろと言ったんだ!」
男はもう一度、絶叫した。
〈続く〉
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