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『学習障がいを抱える子ども達に公正さを ~日本教育の課題~』発達性ディレクシア支援:橋本真弓さん(一般社団法人勇者アカデミー理事)

”学習障がいや発達障がいで読み書きに困難さを抱える子どもと保護者の方を支援しています”
SNS投稿されたこの一文の意味を知りショックを受けた私。投稿された方のブログに掲載されていたのは、ひらがなや漢字が読めないし書けない障がいを抱える子ども達が、日本では約8%もいるのに適切なサポートを受けられず放置されているという内容でした。そして日本の教育環境は、そのような子ども達には不適切であり公正さが欠けてしまっているといいます。
私のようにこの事実を知らない人や、知っていてもどう対処していいかわからないと思う人が他にもいるはず。
事実を取材し情報発信することが、これまで障がいに対して問題視してこなかった私の使命だと感じずにはいられませんでした。ほぼ一夜漬けで知識を叩き上げただけの私の取材をこころよく対応くださり、センシティブな内容だけに、表現や言葉の使い方などアドバイスまでもくださったインタビューアの方のおかげで、この記事を公開することができます。少しでも多くの人がこの現状と問題を捉え、自分にできるなにか考えていただける機会になること、そして同じような悩みを抱えておられる保護者方の道しるべになることを願います。

読める・書ける」はあたりまえじゃない!発達性ディスレクシアとは

身体障がい、精神障がい、知的障がいなど、いろいろな種類の障がいがあるなかで、読み書きに症状があらわれる学習障がい(英語表記はLD:Leading Disabilities)があります。そのなかで、特に読むことと書くことに困難さを抱えていることを「ディスレクシア」といい、さらに先天性を「発達性ディスレクシア」と細分類されています。
この発達性とつけるのには、あくまでも先天性の障がいであり、事故などの後遺症であらわれる学習障がいと区別するためです。

発達性ディスレクシアを抱える人の数は英語圏が10人に1人、日本は小学校40人学級に約3人もいるといわれているのです。

*発達性ディスレクシアとは
小児期に生じる特異的な読み書き障がいは発達性ディスレクシアとして知られ、知的な遅れや視聴覚障がいがなく充分な教育歴と本人の努力がみられるにもかかわらず、知的能力から期待される読字能力を獲得することに困難がある状態、と定義されます。なお、通常、読み能力だけでなく書字能力も劣っています。
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-03-004.html
引用:厚生労働省 e-ヘルスネット「ライフサイクルとこころ」より 学習障害についs

一クラスに3人もいるのなら、さすがに担任の先生や周りの子ども達も気付くのでは?と予想されるのではないかと考えます。しかし発達性ディスレクシアは、本人さえも自分に症状があることを気付かず、認識するまでにも時間を要するのです。

「ほとんどがみんなと同じ条件で勉強していると思いこんでいます。そのため周りと違う自分に気づいたとしても、親やクラスメイトに相談できず自分はバカだから、努力してもしょうがない、と発達性ディスレクシアの子どもの多くが自尊心を失ってしまいます。私はこうした悩みを抱える子ども達が、笑顔で学校に通えるよう勉強会を開き、問題や課題を情報発信することで多くの人に知ってもらうようにと今年支援活動を始めました」

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私が学習障がいを知るきっかけとなった一文をSNSに投稿し、この記事を執筆するにあたりご協力くださったのが、橋本真弓さん。
地元の愛知県小牧市で、学習塾や子ども向けのプログラミングなどカルチャー教室を運営されており、内面パワーの持ち主である女性起業家さんです。
また、小牧市で起業家支援やサポートを行う団体「一般社団法人勇者アカデミー」の理事でもある橋本さんは、ひとり親のお母さんや女性起業家のサポートを行うマザーズ部門として、この発達性ディスレクシアの支援も始められたわけです。

大切なのはその子が「できない」ことよりも「できること」に目を向ける

小学1年生で習うひらがなや漢字は、おおよそ夏休みを明ける頃には書けるようになるのが普通であるのに対し、発達性ディスレクシアの場合はどれだけ練習しても書けないし漢字も読めない。また音読すると読み飛ばしたり、なんども同じ所を読んだりすることもあるそうです。
このような症状が続くのであれば、さすがに学校の先生や本人も気付きそうなのに、なぜ発達性ディスレクシアは気付かれにくいのか。

発達性ディスレクシアは専門の検査を受けない限り、本人も親も、その子がどういったことに困難さを抱えているか、血液検査のように数値として確認できない症状です。そのため、その子はなにが出来ていてなにが出来ていないのか、細かく様子をみることが大切なのです」

橋本さんによると、発達性ディスレクシアか判断されにくいのには、音韻認識をスムーズに行えないという神経系の障がいであることも関わりあるのだとか。

*音韻認識とは
言葉の文字を一つ一つの音に分けて音の連なりを判断すること。例えば「アシタ」と聞いて「あ」「し」「た」と文字一つ一つの音が、「あした」や「明日」という言葉として繋がっていると認識できること。

音韻認識の症状として例えば、一つ一つのひらがなは読めるが、文章のように言葉がたくさん連なっていると、どこで文を区切って読むのかわからなくなってしまう。そのため文脈そのものを理解できず、文章の意味を理解するのに時間を要してしまいます。

そしてこの音韻認識に対する症状は、英語でさらにひどくなる人も。
複数の発音がある英単語(「a」は「エイ」だけでなく「ア」と発音)や、見た目が同じような形をしている英文字(「a」と「d」など)、そもそも発音しない単語(「knife」の「k」を発音しない)というように、英語特有の音韻を認識しにくくなるのも、発達性ディスレクシアに見られる特徴的な症状であるといいます。
それを裏付けるように、あの有名な俳優トム・クルーズや、映画監督のスティーブン・スピルバーグなど、英語圏では多くの有名人著名人が発達性ディスレクシアという公表された事実が、多くの書籍でも残されていました。

「発達性ディスレクシアの症状は人それぞれです。それゆえ一つできないとすべて理解できていないというわけではありません。英語の読み書きが苦手な子が、聞く力と話す力も足りないのではなく、読めない部分は英会話やリスニングのように音だけで十分理解していることもあります。アルファベットが書けなくても、言葉全体の音を文字列の凹凸形状で覚えていることもあります。単に点数が悪い=苦手と判断するのではなく、なにができていないのかに着目した評価が必要です。できないことを一生懸命頑張らせてできるようにする、という教育方法では、発達性ディスレクシアの子どもの自尊心をさらに失わせることにもなる。得意なことや出来ることのほうを伸ばせられるよう、まずは一人一人に適切な環境を準備したうえで教えるのが公正な教育なのです」

受験環境への合理的配慮を取り入れることで教育環境を公正なものへ

実際に橋本さんのサポートによって、見事希望する公立高校へ合格した!という実例があります。
当時中学生、学校への合理的配慮の申し出により授業中のパソコン使用が認められたのです。理解したことを書くこと以外の方法でアウトプットできるようになったことで、成績アップしていったそう。

受験という環境にこそ発達性ディスレクシアの子ども達の悩みとなるハードルを取り除くことが、今後の日本の課題。

「大学でパソコン使用が主流になるのに、高校まで書くことに注力させられる、筆記試験ができなければ合格にならない、という基準は矛盾していますし公正とはいえませんよね。文字を書く代わりにパソコン使用を認めたり記述式をマークシート式に変えたりと、発達性ディスレクシアの子ども達があきらめずに志望校を目指せるよう、受験にも合理的配慮への対応が必要です」

*合理的配慮の対応の義務について
 https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/044/attach/1297380.htm
参考:文部科学省 特別支援教育の在り方に関する特別委員会「配布資料3」

2016年施行され障がい者差別解消法により制定された「合理的配慮の義務化」により、学校側は合理的配慮の申し出に対応しなければなりません。
しかし学校の方針や各担任により、捉え方や対応の差異があることが現実問題としてあげられます。

「目が悪い子の眼鏡の使用は禁止しないように、発達性ディスレクシアの子のICT機器利用も同じです。決して特別扱いではありません。しかし先生方のなかには、ICT機器を使ってもいいが連絡帳だけはしっかり手書きするようにと、合理的配慮を取り違えられる人もいらっしゃいます。みんなが同じ環境で平等に試験や授業を受けるという日本の教育方針では公正ではないことをきちんと理解してもらいたいですね」

▼ご自身のブログでも語られている平等と公正について

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自身の子育てを乗り越えたからこそ使命を感じた支援活動

橋本さんが最初に支援を始めることになったきっかけは、運営している学習塾に通う子ども達のなかに、発達性ディスレクシアと診断された子どもがいたことです。

しかし、子ども達の支援をしていくなかで、ご自身の息子さんが以前知的障がいと診断されていたことが、ほんとうは発達性ディスレクシアだったのでは?と気づいて後悔したことも、この支援活動を始める大きな影響だったといいます。

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「息子は文字を書くことにほんとうに苦労していて、計算ドリルは問題を書き移すだけで3時間かかっていました。それでもパソコンでローマ字入力できるし一人で電車の乗り継ぎもできるので、なぜ知的障がいといわれるのか当時は納得していませんでした。もしあのとき発達性ディスレクシアかもしれないと疑うことができていれば、彼の人生がもう少し有意義になっていたのかも。気付けなかった親の責任としか思えません」

支援を行う橋本さんにとっての目標は、発達性ディスレクシアの子ども達が自分と向き合い、将来的に一人立ちできること。そして社会的な問題を子ども達自身が解決する力を身につけられることです。

橋本さんは以前よりつながりのあった、ディスレクシア協会名古屋代表の吉田優英(やすえ)氏への繋ぎ役として、悩みを抱える保護者に対し発達性ディスレクシアの検査相談や心の緩和ケアを積極的に対応されています。

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橋本さんから保護者の方へのメッセージ

うちの子は発達性ディスレクシアかもしれない。悩みを抱えておられる保護者の方へ橋本さんよりメッセージです。

「お子さんが漢字ドリルは面倒だ、書きたくない、やりたくない、と同じ言葉をなんども繰り返すだけで書くことや読むことから避けている場合は、発達性ディスレクシアの可能性が考えられます。小学1年生の夏休みを過ぎてもひらがなが書けないのであれば、特に注意して様子をみてあげてください。また中学1年生の後半ぐらいに、突然学校に行きたくないといいだす場合も、急に難易度や課題の量が増したことに適応しきれていないこともあります。そのような場合、なかには発達性ディスレクシアの子ども達が含まれていることもあるのです。早めに環境を整えてあげるには、なんといっても一番身近な保護者の方の気づきが必要です。もしかしたら?と疑われるのであれば、ぜひ一度勉強会へご参加ください。なにかしら解決策がみつかるはずです」


愛知県小牧市の一般社団法人勇者アカデミーの事務所では、定期的に保護者や学校関係者だけでなく、一般参加もできる勉強会が開かれています。当事者の悩みを聞くことで、この問題をさらに実感していただけるでしょう。
一人一人が少しでも事実を知り、支援や適切な対応などできることから行動を変えることで子ども達の未来も変わるのではないでしょうか。

▼第0回目勉強会の様子(2021年5月)

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《参考図書》
・「うちの子は字が書けないかも」と思ったら 宇野彰・千葉リョウコ著(ポプラ社出版)
・書くことと描くこと 濱口瑛士著(ブックマン出版)
・怠けてなんかない! 品川裕香著(岩崎書店出版)
・ディスレクシア入門 加藤醇子著(日本評論社出版)


発達性ディスレクシアに関するご相談や勉強会についての問い合わせはこちら

一般社団法人勇者アカデミー
HP:https://brave-academy.or.jp/
愛知県小牧市城山4-14-1
Tel:0568-78-0193
・Facebook
https://www.facebook.com/groups/braveacademy1117
・橋本さんのブログ「エンカレッジ桃花台塾長ブログ」
https://encourage-toukadai.com/mirai/

◎発達性ディスレクシアの子どもを持つ保護者のための勉強会
月一回、定期的に開催。日程のお知らせや申し込みなどは随時勇者アカデミーのホームページで公開。勉強会で話し合われた内容を後日会報誌を作成し、小牧市内の市民センターへ配布中。

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◎メディア放送
CBCドキュメンタリー番組にて放送されました(2021年7月20日チャント)
「ディスレクシア” 人口の7%気づかれにくい学習障害」

◎ 第20回発達性ディスレクシア研究会のお知らせ
10月16日及び17日、ウィンクあいちで開催
(10月17日は第1回発達性ディスレクシアデイを同時開催)
*詳細と申し込みはPeatixにて