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第14話◉響登場◉

葬儀の話

今夜の予約は鑑定ではなく昔からの友人の来店である。

サトシも何回も会っていることもあり、とっても懐いている。

「ママ、今日も響さんは相変わらずなんですかね?」

サトシが浮かれた声で聞いてくる。

リリーは顔色を変えずに答える。

「響が相変わらず以外に何があるって言うの?」

「ですよね〜」

サトシはニコニコしながら上ずった声で言った。

その時、店のドアが開いて噂の女、

響が登場した。

「ご無沙汰〜。変わらずかしら〜?」

いつもの前身黒尽くめのスタイルで軽やかに言った。

リリーは満面の笑みを浮かべて

「変わらないわね。

相変わらずの魔女全開で安心するわ」

そう言うと声を出して笑った。

響は勧められなくても、いつものカウンターの席に座る。

そしてハイテンションで言った。

「シュワシュワするものでも今日は呑もうかな?」

ボーイのサトシが

「スパークリングワインで宜しいでしょうか?

響様のお好きなロゼがございます」

とすかさず言った。

響は不適な笑みを浮かべて

「嫌いじゃないなぁ。

サトシ、それ、貰うわ。

もちろん、リリーもサトシも呑んでよ〜。

私、振る舞うタイプですから」

そう言うと左手を自分の胸にトンっと叩いてみせた。

リリーはサトシに目配せをした後に口を開いた。

「先日は色々と大変だったわね。

もう大丈夫なの?」

「葬儀に来てくれて、ありがとね。

大分落ち着いたから今日来たわけよぉ」

響は鞄からタバコケースを出した。

「随分良くなったと思ってたから、突然の父ちゃんの訃報に気持ちがついていかなかったわ」

リリーは響のタバコにライターで火をつけながら答えた。

響は、ゆっくりとタバコの煙を吐き出して言った。

「誰も死に目には会えなかったんだよね。

それぐらい体調は良かったんよ。

だから驚きもしたし、事実を飲み込むまでに時間もかかったわけよ」

「そりゃそうだと思うわ。

でも、葬儀の時に当の本人の父ちゃんが張り切ってウロウロしてたのに私も驚いたわ」

リリーは葬儀の時を思い浮かべながら話した。

「それよ。

あの時、リリーに言われてなかったら棺桶に箸とティッシュの箱を入れる事は出来なかったからね」

響は大袈裟に言った。

「だって父ちゃんが棺桶に入れて欲しいって言ってたから。

しかも、父ちゃんが1番忙しそうに葬儀会場を行ったり来たりしてたわよ」

リリーは話しながら右手をおいでみたいなスナップをした。

いわゆる、おばさんあるあるの手だ。

響も同じ動作をしながら答えた。

「父ちゃんは父ちゃんだったわけよね〜」

「意味わからんし…」

リリーは半分苦笑いしながら言った。

リリーは続けて話した。

「父ちゃん生前、ご飯食べる時に箸でティッシュを取って口と箸を拭いてたじゃない?

ほとんど癖っていうか、箸とティッシュがないと食事が成立しないというか…

そんなだったよね?

あの世に行って、箸とティッシュがないと困るよね〜」

「そこよ。

間に合って良かったよ。

じゃないと父ちゃんはある意味で路頭に迷うって事じゃない?

だって箸とティッシュがないと食事が出来ないんだもん」

響は大きい声で言った。

「本当に間に合って良かったわよね。

父ちゃん、ずっと葬儀会場の入り口へ妹さんが来てないからって何度も迎えに降りてたよ」

リリーは不思議そうに言った。

そこへサトシが飲み物を運んで来た。

スパークリングワインのロゼを響へ。

リリーにビールを渡すとサトシ自身もビールグラスを持って言った。

「響様、御来店ありがとうございます。

いただきます。

カンパ〜イ」

3人は乾杯しながらイェーイと盛り上がった。

響が話を元に戻す様に口を開いた。

「葬儀の時に父ちゃんの妹、おばさんの一家が間に合わなかったんよ。

というのも旅行へ行っていて戻って来れなかったって言うのが正解なんよね」

「父ちゃん、知らなかったの?」

リリーは少し驚いた風に言った。

「葬儀の最中、みんな混乱してたからね」

響は視線を遠くにおいてゆっくりタバコの煙を吐き出した。

「母ちゃんは大丈夫なん?」

リリーは自分のタバコに火をつけながら聞いた。

「うん。

大丈夫っていうか…

いつも通りに過ごしてる…

私の娘も一緒に住んでるから、ご飯を作るっていう役目を止めるわけにいかないんよね。

それが逆に良かったんだと思う」

響は話しながらタバコを消して新しいタバコを手にした。

「それなら安心したわ。

母ちゃんと父ちゃん、仲良しだったから心配してたんだ」

リリーは言い終わるとビールをグイッと呑んで続けた。

「父ちゃんがうちの娘たちをお風呂に入れてくれたのがつい昨日のことのように思い出せるのにね」

「あぁ、あれね。

父ちゃんがお宅の末娘を抱えて浴槽に入れてやろうとして…」

響は最後まで話す前に笑い出した。

リリーも笑顔で言う。

「響の娘が軽過ぎるんよ」

響は笑いながら大きなジェスチャーをつけて続ける。

「父ちゃんがハイ、ハイって両脇を抱えて浴槽に順番に入れていくのに最後のお宅のチビの時に油断してて一瞬持ち上がらんで…」

響はまた笑い出すが両手を小さく前ならえの状態で父ちゃんの風呂場の状況を再現している。

「父ちゃんが『あんた、よう詰まっとるのぉ』って…」

手を叩いて笑ってる。

「見た目では分かりにくいけど筋肉が多いんですわ。

うちの娘さん」

「あー。

何回思い出しても笑えるわ。

面白い」

2人の話を黙ってニコニコしながら聞いていたサトシは、まるで『待て!』

と言われた柴犬の様にクルクルした瞳でキョロキョロ、尻尾フリフリ、大好きな散歩前の状態だ。

響がタバコをくわえたら素早くサトシが火をつけた。

響はニッコリ微笑んで

「サトシは相変わらずなの?」

と訊いた。

「はい。

相変わらず元気にやらさせてもらってます」

「あの娘と続いてるの?」

「どのあの娘でしょうか?」

サトシはヘラヘラしながら聞いた。

「あら?

またチェンジ?」

響は悪戯っ子の目線と口元で言った。

「響様、聞こえが悪うございます」

サトシがヘラヘラのまま言った。


あの世の公務員と魔女

話をそらすためにサトシが続けて言った。

「そう言えばママと響様は【あの世の公務員】友達でしたよね?」

響はタバコを吸いながら答えた。

「そうだけど?

ってよりも、そこでも一緒だったっていうのが正解かしら」

リリーは軽く頷きながら

「そうね。

それが正解だけど…

サトシの【あの世の公務員友達】ってフレーズが面白いわね。

そんな表現をするのであれば【魔女狩り友達】にもなるわね」

自分で言っておいて笑った。

響が

「上手いこと言ったわね〜」

って言いながら、被せて笑った。

・・・

今宵は昔話に花が咲いて

話が尽きない長い夜となりました。

・・・

この2人のエピソードは、また追い追いで…

もう1人の魔女も後日、登場してくるはずだ!

今宵は、ここまで…

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