第24話◉父親の葬儀 番外編◉
葬儀あるある
リリーの父親の通夜があった晩に四姉妹で家族会議が開かれた。
そして色々な取り決めを亡くなった父親の意識体にリリーが確認をしながら決めていった。
親族が泊まれるこの施設で布団を畳の間に敷き詰めた。
眠れる準備とシャワーを順番に済ませている。
リリーは父親の遺体の頬を触りながら言った。
「父さんの吸ってた銘柄は今、震災で工場が動いてなくてなかったわ。
棺桶に入れてあげれないけど代わりに昔吸ってたタバコを入れとくね…
懐かしいでしょ?」
そう言うとそのタバコを開けて1本飛び出た状態のまま棺桶に入れた。
そしてもう1箱を持ってリリーは喫煙所に向かった。
リリーは静かにタバコとライターだけを持って喫煙ルームに入った。
霊体は匂いは感じれる
そして
「父さん…
ココに来て」
と小さな声で言いながら父親の意識体に話しかけた。
するとリリーの父親の意識体が喫煙所に入って来た。
リリーは父親に向かって
「代わりに吸うから匂いでも楽しんでね」
そう言うとタバコに火をつけた。
出来ゆる限りゆっくり吸い込み、そして息をゆっくり吐いた。
父親により楽しんでもらおうとリリーはタバコの煙を多めに吐く。
そこに…
見知らぬ霊体が入って来た。
この葬儀場は泊まれる部屋のような施設がいくつかある。
葬儀を同時に出来る規模の施設だ。
喫煙所に入って来たのは、どうやら隣の社葬の人の霊体のようだ。
リリーは普通に入って来たことにすら無反応のままタバコを楽しんでいた。
父親に楽しんでもらうためだ。
しかしその入って来た霊体はリリーに向かって言う。
「見えてますよね?」
リリーはピクリともしない。
タバコを更にゆっくり楽しむ。
入って来た霊体の男も引かない。
「私が見えてますよね?
聞こえてますよね?
私の声」
あまりにも大きな声で話しかけてくるのでリリーが反応した。
「聞こえてますけど何も出来ませんよ」
霊体の男が答える。
「おぉ。
やっばり見えてるんですか?
お願いがあるんです。
私の言葉を伝えてもらえないでしょうか?」
リリーはうんざりしたトーンで
「無理に決まってるって分かりますよね?」
と目を細めて言った。
「そう仰らずにお願い出来ませんか?
私の愛人に伝えて欲しいんです」
その霊体はサラリと言った。
「愛人にって余計に関われませんよ。
奥様やお子さんもいらっしゃいますよね?
それでいて伝言を愛人に?
無理です」
リリーは真剣に困惑した。
「そこを何とかなりませんか?
彼女は私にとても尽くしてくれました。
なのに私は何も残せずに急死してしまった次第です」
「そう言われても無理です。
よく考えてください。
私が出てってどこから説明しろって言うんですか?
おかしなことですよね?
葬儀場の喫煙ルームで亡くなったあなたから頼まれましたって誰が信じるんですか?
そもそもあなたは大きな会社の社長でしょ?
女性である私が出て行くだけでかなりややこしくなるって思いませんか?」
「そ、そうですね…
そうなりますよね。
私が死ぬ前に色んなことを先延ばしにせずにしていたら問題なかった話ですよね。
そうですよね」
「そうかもしれませんね」
リリーは霊体の社長さんに少し同情しながら答えた。
「そうなんですよね。
私のせいですよね。
でも…彼女にだけこっそり耳打ちとかしてもらうのもダメでしょうか?」
霊体の社長は死んでも図々しい…
リリーは同情したことを一瞬で後悔しながら即答した。
「無理なものは無理です。
自分の身内や近しい人で視える人に声かけてください」
「そんな人いるんですか?」
「知らないですよ。
とにかく私はあなたの望みにな答えられません。
なので、私と父親の時間を邪魔しないでもらえますか?」
リリーはイラついた。
「わかりました。
とりあえず外へ出ます。
でも考えてみてもらえませんか?
よろしくお願いします」
霊体の社長は頭を下げて喫煙所を出てった。
リリーは気を取り直して新しいタバコに火をつけた。
そして、父親と2人の時間を楽しんだ。
・・・
喫煙所再び
その日の夜更け。
リリーは再び喫煙所へ行く機会があった。
喫煙所に入る前に中を覗いてみた。
誰もいない。
確認した後に喫煙所に入った。
そしてリリーの父親へメッセージを送った。
すると父親は喫煙所へドアも開けずに入って来た。
リリーは微笑みながら父親の昔吸っていた銘柄のタバコに火をつけた。
その時…
喫煙所のドアを開けずに隣の葬儀の社長さんが入って来た。
「私の声を誰も聞いてくれないんです」
その社長の霊体は言った。
リリーは目線も合わさずにタバコを吸っている。
「やはりあなたしか頼める人はいないって事なんです」
真剣に社長の霊体は言う。
リリーはチラッと社長を見て
「無理って説明しましたよね?
私は自分の父親の葬儀のためにココに来ています。
あなたを助けるためではないんです。
理解してもらえませんか?」
冷たいトーンで言った。
その社長はガッツがある。
「そうだとしてもココで私の話を聞いてもらえているのも何かの縁だと思うんです。
何なら私の秘書を教えますのでその秘書に説明してもらえませんか?」
リリーは笑いがこみ上げてきた。
半笑いのまま父親の銘柄のタバコを吸った。
そしてリリーはキッパリと言った。
「何度言われても私はあなたの望みを叶えることは無理です。
諦めて成仏してください」
その社長は大きくため息をついた後に空を仰いだ。
リリーはその様子を見て謝った。
「お力になれなくてごめんなさいね。
でもきっと大丈夫。
あなたの愛した愛人は賢く強い人だから…」
・・・
次の日、リリーの父親の葬儀と同時刻に隣でその社長の葬儀があった。
どうやらあの人が愛人だと言う人を見かけた。
リリーは胸がキュッとしたが見守った…
視えても何もしてあげれない…
どうしようもない…
御法度
家族会議は父親が亡くなった後でも出来るけど、それ以外はある意味御法度だ。
お手伝いも出来ない自分に気付いてフラストレーションを抱えるリリー。
そんな複雑な心境のリリーだが、父親の葬儀中のお経の音で寝落ちする末娘。
思わず笑顔になる。
・・・
リリーは火葬の間に建物の外へ。
隣の社葬に来ている人の多さに少し驚いた。
あの社長さんが生前は人望もあり熱意も行動力もあったのは間違い無いだろう。
訪れる人々に話しかけている社長の姿が視えている。
きっと自分の声を聞いてくれる人を探しているのだろう。
本当は社長もわかっているはずだ。
どうしようも出来ないことを。
それでも行動をやめない事でこの世への後悔を減らすしかない。
遠目に視えた社長。
その後をリリーも知らない…
・・・
リリーは父子家庭で育った。
その事も含めて父親の命日を特別な日として過ごすのであった…