米粉パンの仕上がりに影響するもの:米粉の種類と特徴
米粉パンを作るにあたって最初に知ったのは、米粉には種類があって、どれを使っても良いというわけではないことでした。
米粉の性質は生地の仕上がりに影響するので、目的に合った米粉を選ぶことが大切です。
米粉はその特性の違いから大きく分けて3つに分類されており、さらにメーカーごとに特性の違いがあります。
例えば、熊本製粉ミズホチカラとタイガー専用の米粉KBD-KM10は、同じレシピが使えません。吸水量や発酵の進み方が異なるので、水分量、焼成温度や発酵温度の調整が必要になってきます。
さらには、同じメーカーのものでも、単一品種からなる粉の場合は、収穫時期などによってその性質が変わり、必要とする水分量などが変化する可能性があると考えられます。
熊本製粉ミズホチカラで、購入時期が異なる粉の吸水量が変化していたからです。
これらは、その都度生地の状態をみて、水分量を調節する必要があることを意味します。
米粉はとても繊細で扱いが難しいようです。
これから自分でいろんな米粉を試してみて、気付いた特徴をここにまとめておこうと思います。
※こちらで記載させて頂いている内容は、私自身の試行錯誤の結果から考察したものです。専門的な意見ではないため、参考にする際は他の情報源も併せてご確認ください。
米粉の用途別基準
米粉パンに適しているのは2番
日本米粉協会では用途別基準として、菓子・料理用(1番)、パン用(2番)、麺用(3番)と分類されています。
米粉パンに使うのはこの2番になります。
この分類は、主にアミロース含有率による米粉の性質の違いによって定められています。
アミロース含有率による選択
米粉パンを作ってみたもののおもちのようになってしまった…というケースでは、水分不足による発酵不良も考えられますが、選択した米粉の性質が影響している可能性も考えられます。
米粉に含まれるデンプン粒の中にはアミロースとアミロペクチンという2種類の分子が結合して存在していますが、この2つの分子は異なる性質を持つため、その比率によって米粉の性質が変わってきます。
高アミロース(低アミロペクチン)米は粘りが弱く、老化しやすい
低アミロース(高アミロペクチン)米は粘りが強く、老化しにくい
という性質を持ちます。
結論から言うと、パンにおいては、アミロース含有率が高い方が膨らみが良くふんわりとしたパンができるのですが固くなりやすく、アミロース含有率が低いとふんわりと膨らみにくくなります。
用途別基準では、アミロース含有率15〜25%がパン用(2番)とされていますが
ミズホチカラのアミロース含有率は20〜24%で、比較的アミロース含有率の高いものとなり、他のアミロース含有率が低めの米粉に比べて膨らみやすいという性質を持っているため、食パンなど高さを求めるパンに適していて人気があります。
老化しやすいアミロース
アミロースは直鎖構造を持つためお互いにくっつきやすく、つまりアミロペクチンよりも結晶化しやすく水分子を離しやすいため、老化(β化)しやすい性質を持ちます。
粘りのもとになるアミロペクチン
アミロペクチンは複雑な分枝構造を持ち、粘りを出すという性質があります。
例えばもち米はアミロースはほぼ0%でほとんどがアミロペクチンなので、粘りが強いお餅ができます。
普段ご飯として食べているうるち米はアミロース含有率が16〜23%ですが、ご飯として美味しいのはアミロース含有率が低めで粘りのある17〜19%と言われており、アミロース含有率が高くなるほど粘りが減っていくためパサパサのご飯になります。
パンの場合には、アミロペクチンが多過ぎると生地の粘度が上がり伸展性を損ねるためにパンがふんわりと膨らむことが難しくなり、高さを出しにくくなると思われます。
また、アミロースが多くなると老化が進みやすくなるため固くなりやすくなります。
損傷デンプン率による選択
損傷デンプンとは
米粉を製粉する際に、圧力や摩擦熱でデンプン粒が傷付き、不完全な構造になってしまったものを損傷デンプンといいます。
米粉に含まれるデンプンのほとんどは無傷のデンプン(健全デンプン)です。
健全デンプンは水を吸収しませんが、損傷デンプンは緻密な構造が崩れているため常温でも水を吸収し、酵素反応を受けやすい性質があります。
そのため、この損傷デンプンがどのくらい含まれているかでパン生地の性質が左右されます。
モルトを使用したレシピでは、損傷デンプンはミキシングで水を加えるとすぐにアミラーゼによって麦芽糖に分解されるため、酵母がこれを利用して発酵初期からスムーズな発酵が進めることができるメリットがありますが、損傷デンプンが多過ぎるとパンの弾力が低下して生地がだれてしまうデメリットもあります。
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ここから先は私見です。
個人的には、損傷デンプン率の高い米粉は、吸水性が高いため水分量不足になりやすく、またモルトパウダー添加によるアミラーゼの酵素反応を受けやすいため、糖分が少ない生地でも発酵が良いというメリットがありますが、逆にいうと過発酵になりやすくキメが荒れやすいという特徴があり、扱いが難しい印象があります。
私のレシピが糖分を減らしてモルトパウダーを使用したものなので、特にその影響を受けやすいのだと推測しています。
また米粉パンにはグルテンがなくデンプン粒が気泡を保持しているため、損傷デンプン率の低い粉の方がより気泡を安定化させることができ、結果としてキメの細かいクラムを形成できるのではと考えています。
ただし損傷デンプン率が低い場合は、糖分の少ない生地では発酵が弱いという弱点があります。
それぞれに一長一短があり、パン生地の糖分量や他の副材料、何を優先するかで選択が変わってくる気がしています。
各メーカーの米粉の特徴
①熊本製粉ミズホチカラ
おそらく損傷デンプン率は低いと思われます。
吸水性は低く必要な水分量は少ないため、水分不足による失敗が起こりにくいです。
過発酵になりにくいため、糖分の多い生地でも安心感があります。
糖分の少ない生地は少し発酵が弱くなります。
キメの細かい理想的なクラムを作ることができました。
オールマイティで、安定していて、ストライクゾーンが広いイメージがあります。
条件が多少変わっても失敗しにくいです。
2kgなので場所を取ります、冷蔵庫の中の存在感が大きいです。
②タイガー専用米粉KBD-KM10
①のミズホチカラに比べると吸水するので、水分量を増やす必要がありました。水分不足に注意が必要です。
あとは過発酵になりやすい気がするので、粉や水などは予めしっかり冷やし、生地温度が上がり過ぎないように注意しています。
熊本製粉ミズホチカラは多少焼成温度が低くても大丈夫でしたが、こちらは焼成温度を上げる必要がありました。
ストライクゾーンは狭いシビアな繊細な粉で、ちょっとした条件の変化、水分量、発酵温度、焼成温度などでバランスが変わると状態が大きく変わります。
例えば具材の吸水が少し不十分だったりすると、発酵失敗して陥没したりします。
ただし、糖分の少ない生地でも発酵が弱くなりにくいという長所があります。
250gずつ小分けされているのは計量の手間が省かれるから便利です。
③リ・ファリーヌ
非常に粒子が細かく、風味は上品で淡白という特徴を持つ米粉です。
製菓用に適性がある米粉ですが、製パンでもふわふわの繊細な生地を作り出せる不思議な魅力のある粉です。
試作回数は少ないのですが、印象としては、クラムは普段のミズホチカラと比べてややひきが弱めでふわふわ感があり、一方でクラストは厚めで香ばしく、どこかしら焼き菓子を感じるため、その特徴をいかすには小さめに成形して焼くと良いのではと思いました。
ただし水分量が少しでも変わると生地感が変化してバランスが崩れたので、アレンジする時は注意が必要な気がしました。
焼き菓子を連想させる甘めのパンが生地の特性と合いそうでした。
1kg包装です。
④笑みたわわ(波里)
ミズホチカラから品種改良された品種で、ミズホチカラに近い特性を持つとされています。
ミズホチカラより生地の粘りが強く水分量を少し増やす必要があり、やや小ぶりでクラストが厚めに仕上がったため、個人的な印象としては、ミズホチカラよりアミロース含有量は低めに感じられましたが、もう少し試作を重ねると変わってくるかもしれません。
クラムはしっとりとしてキメが細かくミズホチカラと全く遜色ありませんでした。
スーパーなどで手軽に購入でき、450gの小包装から試せるので、初めて米粉パンを作ってみられる方の選択肢の一つとしておすすめできると感じられました。
⑤グルテンフリー玄米粉(熊本製粉)
玄米特有のヌカの香りはかなり抑えられており、配合しやすいです。
通常の米粉に比較すると吸水するため置換する場合には水分量を増やす必要があります。
⑥おひさま玄米粉(熊本製粉)
玄米特有のヌカの香りはかなり抑えられており、配合しやすいです。
通常の米粉に比較すると吸水するため置換する場合には水分量を増やす必要があります。
⑦焙煎玄米粉(波里)
焙煎されていることから玄米特有のヌカの香りは感じず、生地に香ばしい香りとコクを加えることができます。
吸水するため大量の加水が必要で、生地の粘度を高める性質があるため配合量には注意が必要です。
まだ試してない米粉
他のメーカーの米粉を今後使ってみて分かったことがあったらまた追記していこうと思います。