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酸塩基平衡の乱れは身近なことなので理解すべし!
先日、学生からこんな質問がありました。
「腎機能が悪化しているケースでは呼吸が浅く早くなることがあるのはなんでですか?」
まだ一年生なのになかなかいい質問ですね。生理学の授業でおそらく出てきたのでしょう。
答えは「腎機能低下による代謝性アシドーシスを呼吸で代償しているから」です。
腎機能低下・・・?
代謝性アシドーシス・・・?
呼吸で代償・・・?
となるので詳しくいきたいと思う。
ちなみにこれは酸塩基平衡によるもの。
この酸塩基平衡はとても身近なことなので、体をあつかう人はしっかりと理解しなければいけないこと。難しそうだけどポイントをおさえればしっかり理解できるのでいってみましょう!
酸塩基平衡とは
難しい言葉が出てきたときはまずはその言葉を分解して意味をおさえる。
ここでの酸とは酸性のこと。酸性の性質を持つものにはレモン、お酢、炭酸水などがある。
ここでの塩基とはアルカリ性のこと。身近なものとしては石鹸水や重曹などがある。
液体には酸の性質のもの、塩基の性質のもの、その他の中性のものがあることは小学生の理科でリトマス試験紙を使った実験で覚えていると思う。
ではそもそも酸と塩基は何が基準で決まっているのか?
それは液体に含まれる水素イオン(H+)の濃度で決まっている。
水素イオンが多い⇨酸性
水素イオンが少ない⇨アルカリ性
この酸性、アルカリ性はpHという単位で表す。
pH1は酸性がかなり強く、数字が大きくなるにつれて中和していきpH7が中性、pH14は強いアルカリ性となる。
ちなみに胃酸はpH1〜2とかなり強い酸性である。
最後の平衡について。
これは釣り合って安定しているよってこと。
酸と塩基(アルカリ)が釣り合っているってこと。
ではなぜ釣り合わないといけないのか??
酵素の働きが関係!
これには酵素が関係していて、血液がpH7.4の状態が維持されることによって酵素が快適に働きやすい状態にいられるわけである。
これが酸性やアルカリ性に傾いてしまうと酵素の働きが悪くなる。
ちなみにこれと同様に酵素が働きやすい状態に維持しているものがあるのを知っているだろうか。
ズバリ 体温!!
体温が37℃のときに酵素がバリバリと働くことができる。
体内では生命を維持するために絶えず酵素が働いて色々な化学反応が行われているので、この酵素がしっかりと働きやすい環境を整えておく必要がある。
このためにも酸とアルカリでしっかり平衡を保たなければいけないのである。
人の血液は弱アルカリ性!?
正確には血液は中性ではなくpH7.35〜7.45(弱アルカリ性)
この値が体では気持ちがいい。
先ほどのように酵素が働きやすい状態なのである。
しかし、常時この値でいられるわけではない。
酸性に傾くこともあればアルカリ性に傾くこともある。
この酸性に傾いてしまうことをアシドーシス(酸=acidアシッドという)
アルカリ性に傾いてしまうことをアルカローシスという。
もう一度この図で確認
人は常に気持ちいいところでいたいのでこのアシドーシスやアルカローシスに傾いた際に、元に戻そうと調整する機能がある。
これを代償作用という。
ではどうやって調整するか?
代償作用の主役は肺と腎臓!
重要なのでもう一度確認しておこう。酸性かアルカリ性かを決めているのは水素イオン(H+)の濃度である。
ではこのH+の濃度を調整するものは何なのか?
二酸化炭素(CO2)と炭酸水素イオン(HCO3-)である。
あまり難しく考えずに簡単にいこう!
まずはCO2から
CO2が増えると水素イオンが増える。
水素イオンが増えるということは酸性に傾いていく。
ん?
CO2が増えると水素イオンが増える?どういうこと?
これにはこの化学式が必要なのだが、慌てずゆっくり見ていこう。
もう少しわかりやすくすると
この式の左から右へ流れる式を見てみる。
水と二酸化炭素がくっついて炭酸となる。
そして、炭酸は水素イオンと重炭酸イオンに別れる。
そのため、左のCO2が増えると右のH+も増えることになる。
つまり、血液中にCO2が増えるとどんどん血液は酸性に傾いていってしまう。
逆に左のCO2が減ると右のH+も減るのでアルカリ性に傾いていってしまう。
この流れで見ると理解できるのではないだろうか。
このCO2の量によって酸性に傾いたりアルカリ性に傾いたりするわけなのでこれを調整しなければいけない。
ではどうやって調整するのか?
一日中、絶え間なくやっていること。
ズバリ呼吸!!
息を吐くことでCO2を外に出せるので血液中のCO2は減っていく。
逆に息を止めることでCO2は溜まっていく。
では次に炭酸水素イオン(HCO3-)について
炭酸水素イオン(HCO3-)は重炭酸イオンともいうがこれはH+を減らす働きがある。
もう一度化学式を見てみよう。
今度は右の式に注目。
重炭酸イオンが増えると水素イオンとくっついて炭酸となるので水素イオンは結果的に少なくなる。
つまり、アルカリ性に傾くことになる。
ではHCO3-の量はどのように調整するのか?
これは腎臓が関与する。
腎臓はこのHCO3-を産生する作用があり、また排泄したHCO3-を再吸収する作用もある。
つまり、腎臓にはHCO3-を増やす作用がある。
そして、さらに腎臓にはH+を排泄する作用もある。
そのため、腎臓がしっかり働くことでH+の濃度を調整できるのである。
ここまでは正常の体の話。
次からはこの調整がうまくいかなくなった場合について考えてみる。
呼吸性アシドーシス
体に異常が生じるとこのPHの調整がうまくできなくなってしまう。
例えば肺!
気管支喘息、COPD、呼吸筋麻痺など呼吸機能が低下するとどうなるか。
CO2が吐けなくなってしまうため血液中にCO2が溜まり酸性に傾く。
酸性に傾くことをアシドーシスというため、このように呼吸が原因でアシドーシスになることを呼吸性アシドーシスという。
呼吸性アルカローシス
過換気症候群、いわゆる過呼吸の場合はどうなるか。
呼吸数が増加することでCO2が出すぎてしまう。そうなると血液中のCO2が少なるためアルカリ性に傾く。
アルカリ性に傾くことをアルカローシスというため、呼吸が原因でアルカローシスになることを呼吸性アルカローシスという。
代謝性アシドーシス
では次に腎臓の機能が低下した場合を考えてみる。
腎臓の作用は先ほども上げたようにHCO3−を産生、再吸収とH+の排泄である。
この機能が低下するということはHCO3−が少なくなり、H+が増えることになるので酸性に傾く。
このように呼吸ではなく腎機能が原因でアシドーシスに傾くことを代謝性アシドーシスという。
代謝性アルカローシス
次に呼吸以外でH+が減少することでアルカリ性に傾くケースを考える。
まず嘔吐がわかりやすい。嘔吐すると胃液が体の外へ出る。胃液は強い酸性であるため、嘔吐を繰り返すことで体はアルカリ性へ傾いていく。
利尿薬もアルカリ性へ傾くことがある。尿にはH+が含まれるため、どんどん利尿により尿を排泄するとH+が減少し、アルカリ性へと傾いていく。
このように呼吸以外でアルカリ性へと傾くことを代謝性アルカローシスという。
質問の答え
ここまでを踏まえて最初の学生からの質問に戻ろう。
「腎機能が悪化しているケースでは呼吸が浅く早くなることがあるのはなんでですか?」
腎機能が悪化しているということは腎臓がうまく働いていないということ。
腎臓が働かないことで考えられるのはHCO3-の産生と再吸収ができなく、H+の排泄ができないことだった。つまり、酸性に傾く代謝性アシドーシスであることが考えられる。
アシドーシスに傾いているため、これをどうにか戻そうと代償機能が働く。
代償機能の主役は呼吸と腎臓であり、このケースでは腎臓が働かず、呼吸を頻繁にすることでCO2を吐いて、少しでもH+を排出しようとする。
これが答えの「代謝性アシドーシスを呼吸で代償しているから」である。
糖尿病も代謝性アシドーシスの危険あり!
糖尿病の場合も実は代謝性アシドーシスになる危険がある。
糖尿病の病態を説明するとかなり長くなってしまい、それだけで1個のnoteができてしまうくらいなのでここでは簡潔にいく。
糖尿病の病態はインスリンの作用が効かなくなること。そうすると低血糖となり細胞が糖質を使えなくなるため、脂質やアミノ酸をエネルギー源として使うようになる。
これにより、副産物としてケトン体が発生する。このケトン体は酸性の性質を持っているのでケトン体が増えることで酸性へと傾いていく。
そのため、これも代謝性アシドーシスとなり、ケトン体によるアシドーシスのため、ケトアシドーシスということもある。
身近なアシドーシス、アルカローシス
酸塩基平衡について理解できたところで、これが乱れてしまうことが実は日常の身近なところにもあることを理解する必要がある。
特にセラピストやヨガティーチャー、トレーナーなど人の体に関わる方はぜひおさえておく必要がある。リスク管理として重要であり、理解できれば慌てずに対応できるはずである。
嘔吐⇨胃液が排出⇨代謝性アルカローシス
下痢⇨腸液(アルカリ性)が排出⇨代謝性アシドーシス
過呼吸⇨CO2の過剰排出⇨呼吸性アルカローシス
睡眠時無呼吸症候群⇨CO2が溜まる⇨呼吸性アシドーシス
人の体は本当によくできているなあ。
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