摂食障害について

ここでは摂食障害の概要をまとめています。治療はまた別でまとめようと思っています。



摂食障害とは

摂食または摂食に関連した行動の持続的な障害によって特徴づけられる疾患。結果として身体的健康・心理社会的機能にも障害を引き起こす。

一般的なイメージとしては、痩せすぎているのに病識がなかったり、痩せるために食べたものを全て吐いたりする、というものが多い。

苦悩や葛藤を内面で感じない/感じられず、「食べない」「吐く」「過度に運動する」などの行動・行為によってあらわす「行動の病」。(例えば、うつ病などは行動<葛藤)


歴史

19世紀、女性は道徳的に抑圧される時代。成績優秀・品行方正が求められる良家の子女が発症することが多かった。
摂食障害についての良書「ゴールデンケージ」が記されたのもこの時代。
(とても古いですが良書。おすすめです。)

第二次世界大戦後ころからは女性の自由と痩せの礼賛の広がりに伴って摂食障害が増加。上記の時期とはまた違った病理のものとなっていった。

治療についても、親との隔離が必須という時代から、家族が重要な役割を担うという家族療法などの治療がメインとなっていった。

分類

高宮静男「摂食障害の子どもたち」

おそらく一番一般的なイメージしやすいのがAN。見た目に分かりやすくガリガリに痩せている一群。その中でも食べないことによってのみ痩せているAN-Rと、過食・嘔吐などの代償行動も伴うAN-BPに分けられる。


診断

精神科の診断基準は大きく分けて2種類あります。
ICD分類とDSM分類です。
ICDは精神疾患に限らずWHOの定めている疾患の診断基準になります。
DSMはアメリカの精神医学会の定めた精神科の診断基準になります。どちらも影響し合いながら診断名が変わっていきます。
現在最新はICD-11とDSM-5になりますが、ICDについてはまだ11に慣れていないのでICD10で書かせてください。

ICD-10 F50摂食障害
F50.0 神経性無食欲症(AN)
F50.2 神経性大食症(BN)

DSM-5食行動障害および摂食障害群
神経性やせ症(AN)
神経性過食症(BN)
回避制限性食物摂取障害
過食性障害

診断基準 AN
低体重:ICD-10では標準体重の85%以下と記載がある。
低体重が故意に行われている。
肥満恐怖
ボディイメージの障害

診断基準 BN
過食エピソード
体重増加を防ぐための代償行為(事故誘発性嘔吐など)
自己評価が体重および体型の影響を過度に受けている。

回避制限性食物摂取症 ARFID
摂食の障害で体重減少や栄養障害を起こしている
文化的な慣習ではない
肥満恐怖を認めない

他の診断区分け法:Great Ormond Street Criteria(GOSC)

食物回避性情緒障害(food avoidance emo tional disorder:FAED):背景に不安、抑うつ、強迫などが存在
選択的摂食(selective eating:SE):2年以上の偏食、新規の食物を摂ろうとしない。自閉性との関連
機能的嚥下障害(functional dysphagia:FD) と他の恐怖状態:嚥下、窒息、嘔吐への恐怖体験をきっかけに回避としての拒食が始まる
広汎性拒絶症候群(pervasive refusal syn drome):食行動含め身辺自立の徹底した拒絶
制限摂食(restrictive eating:RE):年齢相応の摂食量より明らかに少ない食事
食物拒否(food refusal:FR):状況依存的に食物拒否
うつ状態による食欲低下(appetite loss secondary to depression)

疫学

アメリカでの調査:生涯有病率は女性で0.9%、男性で0.3%(Smink FRE, et al. Curr Psychiatry Rep 14: 406-414, 2012.)

発症のピークはANで女性14-15歳、男性12-13歳。AN以外だと女性16-17歳、男性14-15歳と若年。

予後は発症4年以内で回復:部分回復:不良が1:1:1くらい。
10年間で見ると約10%が死亡するため要注意。
(Steinhausen HC : The outcome of anorexia nervosa in the 20th century. Am J Psychiatry 159 : 1289-1293, 2002)

併存疾患

摂食障害は行動の病ですが、内面には不安やうつなどの併存疾患も見られます。
摂食障害のみを治そうとするのではなくこういった併存疾患にも目を向けることが大切です。

神経生物学的モデル

ANの神経生物学的モデル

(Kaye WH, et al:Nat Rev Neurosci, 10:573-584, 2009)

神経性やせ症をおこす要因、環境、そして維持させる要因がまとまっています。まずはこの悪循環を止めることが大切になりますが、同時にどういった背景がこの病を起こしたのかにも目を向ける必要があります。

BNの神経生物学的モデル

(高倉修 医学と薬学 77(9): 1249-1257, 2020.)

神経性過食症にはさらに代償行為が嗜癖的となるという視点も大切です。
進行してくると依存症に似た状態を呈していることに気付かされます。

飢餓症候群

Minnesota study(1950)という(今では倫理的にアウトな)実験。
健康な男性に24週間の厳しい食事制限を行ったところ、

・食べ物への執着、異常な食習慣などの食べ物に対する態度の変化
・抑うつ、不安、易怒性、情緒不安定、不眠、強迫症状の悪化、集中力低下、無気力などの情緒面の変化

がみられました。
摂食障害の症状もしくは併存疾患の症状のように見えて、飢餓によってもたらされた症状であることもあります。
摂食障害の治療で栄養を取らせることが最も大切であるのはこのためです。

精神症状

精神症状は多彩ですが、以下の症状が見られることが多いです。
これらは摂食障害によっておこったものである可能性もあれば、上記のように飢餓の為に起こったかもしれないし、併存疾患のためである可能性もあります。

抑うつ気分
食べものの事が四六時中頭を離れなくなる
過食の強い衝動が起こる
対人関係への興味, 新しい友人を作る能力が消失する
集中力の低下
思考力の低下
イライラする
強迫神経症のような症状が出る

死亡する場合の死因

摂食障害は精神疾患の中で最も死亡率の高い疾患です。
死亡率:5~10%程度

死因は以下のようなものが挙げられます。

自殺(約半数)
不整脈→心停止
心不全
肺炎(呼吸筋の筋力低下による喀痰の排出困難)
低血糖
肝不全
感染症
橋中心髄鞘崩壊(低ナトリウムの急激な補正)


ここまで読んでいただきありがとうございます。
適宜追記していく予定です。

おすすめ図書

以下当事者の方におすすめの本です。

治療者の方にお勧めの本です。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?