中国映画撮影の記録① 1st AD
私を取り戻そう!
日本に戻ってきて、最初こそ日本ー中国間を行き来しつつ仕事を・・・などと考えてやっていましたが、まさかのパンデミック。ステイホームしている間に気がついたら娘の小学校受験に突入・・・。そして、光陰矢の如し。いつの間にか数年が経っていました。
そして2023年12月まで必死で伴走し、娘は晴れて思いもしなかった素敵な学校から合格をいただきました。が、気付けば母は疲弊していたようです。
終わってみると小学校受験とは何だったのだろうか・・・なんて・・・ぼんやりしてしまったり。
これからの自分を考えてはため息が出そうになり慌てて飲み込んだり。
脱力感と同時に、母はもう一度仕事をやるしかない!と思っています。
何しろどう考えても私は子育てより仕事の方が得意なのです。これまでいろんな仕事をしましたが、子育てほど「向いてないな・・・」と、思わず角っこを見つけて身を委ね、遠くを眺めたくなるようなプロジェクトには出会ったことはなかった。それがものすごく熾烈を極めた足の引っ張り合いの撮影現場に居合わせた時であっても。(いずれ書くかもです・・・)
今後同じ仕事をすることは物理的に難しいだろうけど最高に楽しかった1st ADの仕事について書かせていただこうと思います。
日本人ですが中国で映画を作っていました。
初めて私の投稿を読む方もいらっしゃると思うので、軽くご紹介すると、私は俳優出身です。それも「日本ではなく中国で」です。「アメリカで」だったらどれ程かっこ良かったでしょうw ”ハリウッド”帰りなんて言われたのでしょうね、素敵です。ですが、私は”横店影視城”帰り。それ、どこ?ですよねw
影視城は中国各地にありますが、横店は別格。街自体が映画村のような場所です。ほら、ハリウッドじゃないですか??
俳優で監督?ではなく、俳優も監督も!
では、なぜ俳優が1st ADに?と思われるでしょう。
答えは案外簡単です。中国ではチャンスはあちこちに転がっていました。若いリーダーが多く、女性も当たり前に働くのが中国です(その分新陳代謝も速い=競争が激しいという一面もあります)。この人に頼めばやれるのでは?と思ってもらえたり、もしくはリーダーが自分のチームを作る際に役に立つと思ってもらえる人材であれば色々なチャンスが与えられました。
実際、私は俳優業以外にも脚本家、プロデューサー、ディレクターなどの経験があり、大作映画であればグローバルチームを組むのが当たり前なので「外国人+中国語ネイティブレベル」はチャンスが広がります。
頑張れば引き上げてもらえるのが中国、という印象です。
アメリカンドリームではなくチャイニーズドリームです。ほら、だから横店はやっぱりハリウッド♡
1st. ADとは?
中国エンタメはアメリカスタイルだなと思います。全てはビジネスであるという感覚です。例えば映画制作においては、プロデューサーが資金、脚本家やプランナーを集め、ライターズルーム方式を取ります。プランナーは作品の大まかな組み立てをする担当。そこにはマーケティングの能力も必要です。マーケットを把握した上で脚本作りをできるようプランニングする、という方がわかりやすいですね。脚本家も混ざって会議することが多く、大体の場合において、マーケット価値+作品のクオリティというバランスが重視されます。
脚本が仕上がると、監督やカメラマンなどが集められます。そこから今度は監督が脚本の手直しをすることもあれば、そのままスタッフ・キャストの招集が始まることもあります。日を追うごとに少しずつチームが大きくなってくるのですが、クランクインの日程が決まっている場合はロケハンなどがドタバタと始まります。
”Rolling! Action!!”と叫ぶだけではない・・・。
1st. ADのお仕事は実はこの辺からスタートしています。撮影チームによってそれぞれやり方が微妙に違うのですが、私の経験していた範囲のことを書いておきます。
まず、ロケハンに行くのはプロデューサー、監督、カメラマン、タイムキーパー、1st. AD。何度も行くので、最後の方は美術さんが行くこともあります。
ロケハン中、やることはたっくさんあります。クランクイン前までの時期のお話をすると・・・
①ストーリーを深く理解する:
やらない1st. ADさんもいるかもしれませんが、私のミッションの1つが俳優さんとのコミュニケーションでした。それぞれのキャラクターをしっかり理解すること、キャストの考えや演じ方をそれまでの作品などから感じ取っておく。
②監督の想像している画面を理解する:
監督が見たいと思う絵をどれだけ早く理解するかはとても大事。「そうそう、そういう絵が撮りたい!」と監督が思う絵を知ること。たとえば↓
もちろん、美術&カメラマンのアイディアも聞きつつ、皆で練り上げました。
③それぞれのロケ現場での撮影時間を計算する:
ロケ現場が固まり出したら、脚本に書かれている内容やカット割などからシーン毎の撮影時間を計算します。例えば、脚本に「朝日が降り注ぐ海辺」と書かれていれば、現場の日の出時間を調べ、大体何時頃までに撮影を終わらせるべきか、ということを計算するのです。スケジュールを専門に組むスタッフと一緒にやりますが、山場となるようなシーンの場合は自分でも覚えていました。
④宿泊予定のホテルからの距離を把握:
これは俳優陣の移動ため、次のロケ現場までの距離を理解するためなど。特に俳優陣は1日のワーキングタイムが契約で決まっています。しかもそのワーキングタイムも俳優さんごとにバラバラ(8時間の人、10時間の人、12時間、14時間くらいまで)なので、撮影日によってはどのタイミングでどの俳優さんに出発してもらうかなどのパズルをする必要があります。時間を超えてしまうとかなり痛い(出費!)ので、とても重要。
⑤次にそこに必要になるエキストラさんや運ぶべき道具類をチェック:
エキストラさんの人数、特殊な道具を運ぶ必要があるかなど。監督の意向を元にキャスティングディレクターと相談。大・小道具は美術チームと相談。
⑥俳優さんのキャスティング:
私が俳優出身ということもあり、キャスティングにも参加していました。主演クラスの俳優さんたちは監督が直接決定していましたが、それ以外の俳優陣はキャスティングディレクターの送ってくれる資料や動画を見ながら役に合うか合わないか、合いそうであればオーディションに進んでいただけるか、など。ある程度揃った時点で監督へ確認をお願いしました。
⑦脚本読み合わせ:
主演クラスの方は最初は個人でいらっしゃるので監督と私、俳優さんの三人で。雑談から始めて次第に役の話へ。それから読み合わせ、という流れが多かったです。時間はないので内心焦りはしますが、その過程がとても大事でした。
⑧2nd. ADさん達との打ち合わせ:
2nd. ADさんはそれぞれ美術担当、衣装担当など細分化していました。それぞれのデザインを確認し、進捗もチェック、衣装合わせなどの日程を組み立てます。美術に関しても同じくロケ日までに間に合うかどうかなど。横の繋がりがとても大事で、ディレクターチーム全員でタッグを組んでいるチームはとても強いのです。
そうそう、美術は特に気候に影響されることも多かったです。上海の夏は猛暑&高湿度で壁塗りをしたのに乾かず剥がれる・・・という事も起こりました。そうなるとスケジュール合わず!となりかねないので度々チェック。
ちょっと長いので一旦公開します・・・w