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脚本家が能面師になろうと思ったワケ。
脚本家と能面師、2つの顔を持っています。
「脚本家で能面師です」と自己紹介すると、
「脚本家で能面師?」
「なんでまた能面を始めようと思ったの!?」
とよく聞かれます。
私が「能面師」という職業を知ったのは、脚本の新しい企画を考えていた時のこと。
主人公に何か面白い職業はないかしら。
ありがちではなく、ちょっと目新しいものがいいな。その職業が主人公の個性や能力に結びつくような。その職業の裏側を知りたくなるようなものであればなおよし。
職業というのは、登場人物の顔を描き出す要素のひとつとして使える。いわゆる「職業もの」と呼ばれる、その職業を主軸に据えた物語もいいかもしれない。そんな風に思い、いろいろな職業を検索していたときだ。
ん? 能面師???
そんな職業あるんだ!? 能面というものがあるというのは知っているが、漫画や映画の中に出てきたのを見たことがある程度。その作り手がいるなんて考えたことすらなかった。
職人。匠の技。日本の伝統文化。それに、この生きている人間のような「顔」というモチーフもいい。何か物語が生まれそうな予感。いいかも!
さっそく都内にある教室を訪れ、作業風景を見学させてもらい、話を聞かせてもらうことに。
か細い声で「ようこそ~」と出迎えてくれたのは、小柄で白髪ボブヘア、猫のワンポイントがついたエプロン姿の女性。この華奢な70代と思しき女性が能面師さんだ。
「お邪魔します」と、教室に一歩足を踏み入れた途端、目が釘付け。
壁一面に顔、顔、顔。
天井から下まで能面がずらりと飾られている。
おぉ! 圧巻!
これを見られただけでもなんだか得した気分。
見学しながら一通りの作業工程を説明してもらう。教室の中には数名の生徒さんらがいるが、静かな時が流れていく。
作業風景を見せてもらい話を聞かせてもらっているうちに、ちょっとずつ何かが引っかかった。それが私の中にある一つの疑問として膨らんでいく。
あれ? 能面師って、「どっち」なんだろう?
何がどうとは言えないが、職人仕事の中におさまりきれない何かがあるように思えてきたからだ。これは聞いておかないと。
「あの、能面師は職人ですか? アーティストですか?」
脈絡もなく唐突にした質問に、
「両方です」
何の迷いもなく、さらりと返ってきた答え。
あぁ、やっぱりそうか。そうなんだ!
能面師は、職人の顔を持ち、アーティストの顔も持っているんだ。
「私、やります!」
「え? やるの?」
「はい!」
職人でありアーティスト。
そんな生き方が出来たら最高じゃん!
職人の顔とアーティストの顔。
この2つの顔を持てるなんてカッコよすぎです。
子どもの頃から何かをつくることが好きだった私は、そして何かをつくることで生きていきたいという野望を密かに抱いていた私は、「両方です」という小柄な女性能面師の言葉にやられてしまったのである。
「ほな、やりますか?」
「はい!」
能面師という2つの顔をもつ生き方に心を撃ち抜かれ、午前中に取材にきた私は午後には木槌とノミをふるって面をつくり始めた、というワケです。
人生、何が転機になるかわかりませんね。面白い。