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「空間と作品」展@アーティゾン美術館、の巻

ここのところ急激に、山田五郎さんのYouTubeチャンネル「オトナの教養講座」にはまりまして。
美術史は昔取った杵柄なので、さびた知識を掘り起こし、かつ「○ン十年もたつと研究って進むものだなぁ!」とか「わー、展示場所が変わってるよ!」とか、新しい発見もあったりして、大変日々楽しく過ごしております。
で、大学生だった当時はやはり専攻範囲が西アジア~中欧州くらいだったので日本の美術史、特に近現代は取りこぼしが多く、最近になって芸大美術館の「日本美術をひも解く―皇室、美の玉手箱」展やら他出光美術館、都立美術館、東博、サントリー美術館やら・・・ちまちまと通って知識を積重ねているわけです。
そんなときに、山田五郎さんの解説動画はちょうど良かったんですね。
中でも、明治~昭和初期くらいの日本の洋画の黎明期に現れた天才たち(それがそろいもそろって若くして亡くなっている)の話は大変興味深く、ちょうど青木繁の回を見終わったときに偶然、アーティゾン美術館の「空間と作品」展に青木繁の作品が出ていることを知ったわけです。
で、行ってみました。
なんやかんやで結局最終日になってしまったのですが、これ、もっと早くに行っておけば良かったなぁ。


「空間と作品」展のコンセプト

美術品とはそもそも、教会などの宗教施設を飾る物から始まって、個人の邸宅、部屋などを飾る為に制作されてきました。
今回の企画展は、従って、「どのような空間・環境で飾られることを目的としていたか」を再現、もしくは提案することを目的としていました。
だから例えば、円山応挙の襖絵も・・・

円山応挙「竹に狗子波に鴨図襖」

こんな感じで、畳敷きの部屋を再現して展示していました。
凝ってる。

空間を飾る絵画、家具、調度品

次の部屋からは、実際に絵と家具、調度品を組み合わせてみたり。
空間を見せることが主目的なので、このコーナーはキャプションがありませんでした。あとから出展リストをみて、この作者だったのか!と納得する感じ。
最初に、「あ、この部屋、この絵がなんだかすごくセンスがいい!」と思ったのが・・・

佐伯祐三「テラスの広告」

佐伯祐三の作品でした。
誰の絵だろう?と見てみて佐伯祐三だったときには、ちょっと内心にやりとしたり。なんかかっこいいですよね。

ザオ・ウーキー「無題」、三彩万年壺、ヘンリー・ムア「母と子(ルーベンス風)」

この部屋も雰囲気がいい。

そして、青木繁まつり

最初に6階に上がってから、一階ずつ下って鑑賞していくのですが、5階に行くと早速頭から青木繁まつりとなっておりました。

青木繁「自画像」

山田五郎さんが「どや顔」といっていた作品w
ほんと、どや顔。
でも、私がなんだか心打たれてしまったのは・・・

青木繁「光明皇后」

1906年の作品なので、青木繁が得意とした構想画の初期の作品に当たるのでしょうか。
水彩画で、人物の顔の造形も描いていないラフな作品なので、もしかしたら習作だったのかもしれません。
なのに、妙に心に残る。
世界が明るくて、穏やかで、素朴な光に満ちている。青木繁の「どうだ、みたか!」という我の強い作品群とは少し毛色の違う、幸せを感じる画風に、足が止まりました。

青木繁「わだつみのいろこの宮」

アーティゾン美術館で青木繁といえばこれも出てきますよね。重要文化財。
思っていたより、だいぶ緑でした。
あと、山幸彦がすごくなまめかしい。なんだったら、左側に立っている海神の娘・豊玉姫より色っぽい。体つきとか、少年ぽい。
青木はなぜ、山幸彦をこういう姿で書こうと思ったんでしょうねぇ。私にはそれが一番不思議でした。

切り取られ、調度品となった絵画

最初に書いたとおり、今回の展覧会は「その絵画がどのような空間に、どのような状態で置かれたか」が主眼になっているので、今までとはちょっと違った視点からの展示物も多かったです。
例えば、これ。

平治物語絵巻「六波羅合戦巻断簡」

もとは絵巻物だったのに、その一部を誰かが、何かの意図を持って断ち切り、そして軸装にしたてたもの。

しかも、真ん中に意図的に大きな空間をとっている。

絵画的にはこの構図で切り取って大正解なのだけれど、明らかに、物語としてより「一枚の絵として」いい部分を切り取ってるんですよねえ。

前田青邨「風神雷神」

「もの、物を呼ぶ」展に続いて、風神雷神図。
みんな俵屋宗達の風神雷神にとりつかれてるのよw
かっこいいもんね、あれ。仕方がない。

藤田嗣治「猫のいる静物」

こちらも「ラ・ボエーム」からのシンクロニシティでレオナール藤田。

レオナール藤田なので、当然猫もいます。かわいい。

額縁も注目してみよう

「調度品としての絵画」を構成する要素として欠かせないのが、額縁でもあります。

額縁へのこだわりを見せるコーナーの冒頭キャプション

うん、額縁にこだわるんだね、わかるわかる。
でもさ・・・

ベルト・モリゾ「バルコニーの女とその子供」

相変わらず、モリゾが描く子供はかわいい。
いいなあ、これ、どういう風景なのかな・・・とキャプションに目をやれば。

絵の解説してないし!!

なんなら、額縁の説明しかしてないし!!!ww
この徹底ぶり。嫌いじゃないぜ(にやり)

んで、青木繁といえばこれ。「海の幸」なんですが、これも当然飾られておりまして・・・

青木繁「海の幸」

なんと額縁のコーナーに!
じゃあ、額縁を見ろと。

「海の幸」額縁
なるほど、魚がいるんだ、額縁に。
これは凝ってる。

で、そのキャプション。

「海の幸」の額縁にミステリーが!!!
これは気になるじゃないですか。

気になったので、椅子に腰掛けてwじっくり読みました。
ちなみに、QRコードで飛ぶとこんな感じになっています。

なんと全部で6ページ!
しかも字が細かい!

多分著作権などに引っかかると思うので全てのページをUPすることはしませんが、すごく凝ってる。
こんな風に、QRコードで飛ぶ解説が、ものすごく興味深くて面白くて、これは面白い展示の試みだな、と思いました。

QRコードのおまけ解説付きで面白かったといえば、これも。

岸田劉生「麗子坐像」

はい、おなじみの岸田劉生の麗子像シリーズですね。
で、キャプション。

額を外して紙の裏を見ると、麗子の素描があるのだそうです。
QRコードで飛ぶと、そのスケッチ写真を見ることができました。
ジョルジュ・ルオー「ピエロ」

ピエロの素顔は、このように悲しげで寂しげだ・・・といいたいのでしょうか。
タイトルと絵の内容のギャップに驚いてキャプションを見たのですが、やっぱり額縁のことしか描いてないんだよなー!
でも・・・

「キリストを題材とするルオーの絵には
重厚感ある額が用いられることが多いようです」

だとすればこの「ピエロ」はキリストのことなのでしょうか・・・
額縁ひとつで、色々な想像が巡ります。
まさに、額縁は語る。

額縁の面白かったのはこちらも。

ポール・セザンヌ「帽子を被った自画像」
作品保存のためのガラスを入れようとすると
額の強度が足りないから
レプリカにする・・・という配慮もあるんですね

この「額縁」への熱意にほだされ、額縁ばかりを見るようになってしまったのですがw
私が一番好きだった額縁はこれでした。

牛島憲之「タンクの道」
もちろん、額縁を触ることはしませんでしたが、
磁器のようななめらかな質感の
それはそれは美しい額縁でした

その他気になった作品

古賀春江「華やかな月空」

「日本のシュルレアリズムの代表的な作家」なのだそう。
絵本を見ているのか、夢を見ているのか。
タロットカードのようでもあり、確かに「華やかな月空」です。
ひたすら、綺麗。

伝 俵屋宗達「伊勢物語図色紙 彦星」
かな文字の書き方は
確かに俵屋宗達風・・・ではあるかな
因陀羅「禅機図断簡丹霞焼仏図」
国宝です。
これ、下書きなしで一発で描いたとしか思えないのですが、
だとしたらこの計算し尽くされた構図といい
画賛といい、完璧すぎて鳥肌が立ちます・・・

元々は青木繁めあてで見に行ったのですが、アーティゾン美術館の収蔵品の奥深さと、そしてユニークな視点に驚かされっぱなしの、充実した企画展でした。
もっと早く見に行けば良かった!


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