ジャンボフェリー「あおい」に乗ろう!(7)高松14:00発神戸行き3便
乗船ガイド
最もお手頃な便
※この項目は2023年5月現在の情報です
高松発神戸行き3便は「あおい」就航便の中で最も乗りやすく使いでがある便です。午後明るい時間帯の瀬戸内海を航行する、文字通りのフラッグシップです。
ダイヤは平日と土休日でほぼ同じです。
(平日ダイヤ)高松14:00発→坂手15:15着→神戸18:45着
(土休日ダイヤ)高松14:00発→坂手15:15着→神戸18:40着
連絡バスは高松駅バスターミナル13:30発ですが、昼間なので琴電志度線沖松島駅からの徒歩など他の方法も使えます。朝から昼のうどん店を楽しんでから、腹ごなしも兼ねて高松の市街地をゆっくり歩くのもよいでしょう。県内他都市や四国の他県からも余裕を持ってアクセスできます。
土日はのびのび席ANNEXを開放
アプローチが楽ということは、それだけ乗客が多いということ。会社では土日ダイヤ運航日に、普段は団体客用としている3階の広間タイプ「のびのび席ANNEX」を個人客にも開放しています。この方針について若干思うところはありますが、ここでは触れません。2階の自由席や通常ののびのび席よりも空いていて、お勧めです。
客室内の写真は撮影できないので文章での説明になりますが、棚田とオリーブをイメージした濃淡のグリーン畳の上で横になれます。毛布などのサービスはないので、バスタオル持参がよろしいでしょう。壁には枕代わりのクッションと充電用コンセントが取り付けられています。天井には球形のペンダント照明。
畳の上にはスーツケースなど傷むもとになるものは持ち込まず、近くの収納スペースに置くように指導されています。
関東方面へのお帰り
3便は午後7時前神戸に到着します。下船後京阪神地区の主要都市に鉄道やバスで移動できる時間です。
東京方面へもその日のうちに到着できます。
・飛行機 神戸発羽田行きANA416便
月によってダイヤが異なりますが、神戸空港を21時すぎに出て22時30分前後羽田に着くフライトです。晴天の日に窓側の座席を取れたら京都洛中や琵琶湖、伊勢湾、江の島、富津岬から久里浜の夜景が空から見られます。もしもしそこのあなた、地面の上を歩く生活に疲れてはおらぬか。たまには空から…
三宮フェリーターミナルから神戸空港までポートライナーで行く場合、三宮駅からではなく貿易センター駅から乗車すれば50円安くできます。フェリーターミナルから貿易センター駅までは約1km、徒歩15分程度です。
・新幹線 のぞみ54号
新神戸19:30→新大阪19:45→品川22:08→東京22:15
東京行きはこの列車以降も21時すぎまで数本あります。三ノ宮駅から新快速に乗り新大阪乗り換え、始発便乗り継ぎもできます。
・高速バス
せっかくジャンボフェリーを使うのだから最後まで安くあげたい!という場合は夜行バスという選択もあります。神戸・大阪始発便が満席でも、ミント神戸から「名古屋駅行き」というバスが出ていて、名古屋で乗り継ぐ裏技も使えます。
私は3便に3回乗船しました。コンフォートリクライニング席、のびのび席ANNEX、バルコニー個室と様々な部屋を試してみました。ここでは2022年12月にのびのび席ANNEXを使った時を中心とした乗船記を綴っていきます。
観覧車のお見送り
ある冬の日の昼下がり、高松琴平電鉄沖松島駅に下車。ジャンボフェリーの旅をここから始める。
この線は昼間おおむね24分ごとに運転されている。始発の瓦町駅では他線と線路がつながっていない。ホームもやや離れた位置にある。奥ゆかしいと見るか、侘しいと見るか。
駅を出たら目の前の広い通りを左へ。市立体育館脇を歩く。塩田跡の記念碑が道端にひっそりと建てられていた。10分ほどで瀬戸大橋通りの交差点に行きあたる。川向こうに屋島。平たい稜線は何となく函館山を連想させる。2014年に放送されたテレビ番組「空から日本を見てみよう」高松市の回で、山頂へ行くケーブルカーが2004年に廃止され、山上駅はそのまま残されて廃墟化している話を取り上げていた。この頃地方に行くたび、この国は毛細血管から古びはじめていると感じる。
この頃の秋はいつまでもだらだらと暑い。12月に入って街路樹はようやく秋の彩りを見せる。
武骨な倉庫や工場の脇をさらに10分ほど歩くと駅へ向かうジャンボフェリー連絡バスとすれ違い、ほどなく高松東港に着いた。「あおい」にはコンテナが次々運び込まれていく。
コンテナを積んだ大型車の間を歩きフェリーターミナルに入る。広いロビーにほとんど人影はなく、初冬のやわらかな日差しに包まれている。東京湾フェリー金谷港のようなみやげ物販売スペースもレストランも見当たらない。乗船カウンターも出港時刻が近づくまで閉めている。まだ時間に余裕があるのでお散歩。近づくとさすがにジャンボ。
乗船券QRコードのプリントを持参しているので、カウンターに立ち寄る必要もない。乗船口への通路には椅子が並べられている。多客期の賑わいに思いを寄せる。
13時40分ごろ係の人が「お待たせしました、どうぞご乗船ください。」と声をかける。この時点で待っていた人は10人ほど。車で乗船する人が多いのだろうか。
3階にあがり荷物を置く。のびのび席ANNEXまで来た人は私の他にひとり旅とおぼしき人、年輩3人連れグループの5名だけだったが、入口近くを指定したためドアの開閉音が若干煩わしかった。
早速甲板に出る。中富良野のパウダースノーを思わせる純白。
出港待ちで最も目を引くのは観覧車。当地の大手書店「宮脇書店」のもので、総本店に隣接して設置されている。前述の「空から日本を見てみよう」によれば、観覧車好きの先代社長のアイデアだとか。ゴンドラごとに文庫名がつけられていたという。
しかしこの観覧車、現在は稼働していない。先代社長没後の2018年に台風の被害を受けて運休、翌年正式に廃止された。撤去予定ということになっているが、2023年現在でも残されている。宮脇書店は近年東京にも出店している。打倒ジュンク堂、打倒リブロ、打倒三省堂…なのかはわからないが、書店そのものが急速に数を減らしていく時代にあって、故人の遊び心にはもう構っていられないのだろう。
「あおい」は高松東西の廃墟に見守られながら出港する形になる。そう考えるとジャンボフェリー新船投入の意気込みはすこぶる貴重である。
醤のロビー
出港時刻が来たが何の気配もしない。と思いきや、いつのまにか岸壁から離れはじめていた。他に目立った船舶がいないせいか、汽笛も鳴らさない。静かな船室に「二人を結ぶジャンボフェリー」の歌がかかる。
港を出てすぐ、虹色に塗られた船とすれ違った。高松~小豆島池田港を結ぶ両備小豆島フェリー「こくさい丸」。よく見たら動物らしきものを乗せている。「しまぞう」というらしい。他にパンダバージョンもあるとのこと。
「あおい」3階ロビーは「醤(ひしお)のロビー」と名付けられている。小豆島名産の醤油樽をモチーフとした茶色の円形が壁面にあしらわれている。大きな円形には腰かけることもでき、会社もここでの乗船記念撮影を勧めている。
早速足湯へ。シュワシュワの泡がいい感じ。午後の陽射しはうららかで、上がりたくなくなる。「海のテラス」では足湯の隣にガラス張りの床面が設けられていて、足元に海面を見られる。
知らない人は驚き足がすくむだろうが、私は幼稚園の時の東京タワー展望台に始まり、舞子海上プロムナードなどで慣れているので何ということもない。
気合いとともにわが脚を冷たい海風に引き上げてタオルで拭くと、小豆島はもう目の前だった。
小豆島は2010年前後二度訪れている。漁業に醤油醸造と、昔ながらの日本調が続く中、オリーブ公園近隣だけいきなり地中海風というコントラストが印象的だった。レモングラスのハーブティーを思い出す。
風のテラス
足湯から上がりジェラートを注文。醤油味やチョコレート味は常備されているようだが、フルーツ系は月替わりなのか、最初に乗船した時に目星をつけながらお腹いっぱいでパスしたイチゴソルベの代わりにみかんシャーベットだった。
よいお天気、船室から外に出よう。ロビー中央の階段を4階まで上がると左右に扉があり、甲板に出られる。知り合いからいただいた、12月1日からクリスマスイブまで毎日飲むティーバッグの当日分とお湯を家から持参してきたので、ベンチに座って飲む。お湯はふねピッピのカウンターにも常備されているが、私物に使ってよいのかどうかは判然としない。
甲板の進行方向には小豆島の各町から就航記念に贈られたオリーブの苗木?が置かれている。
後方には円形に人工芝が敷かれていて、子供を遊ばせることもできる。
芝生脇の白い階段を上ると「あおい」の最上部、空のテラスにたどり着く。
海のトワイライトエクスプレス
上り3便最大の見どころは夕暮れに向かっていく海と空。夏至の頃は日没前に神戸港に着いてしまうが、他の季節は航行中に夕暮れを迎える。10月から12月初旬および2月から4月初旬くらいが特にお勧めだろう。
前の記事で、明石海峡大橋開通までジャンボフェリーは「海の新幹線」をキャッチコピーにしていたと書いたが、それにならえば上り3便は「海のトワイライトエクスプレス」。本家よりはるかに安く、楽に予約できる。本家の1号車1番個室には最も展望のよい日本海側の窓辺になぜか無駄に大きい液晶ディスプレイ(もちろんテレビ放送は映らない。車内設備案内ビデオと用意された映画のみ)が設置されていたが、「あおい」は遮るものが何もない。本家のように高級ディナーとはいかないが、むしろそのほうが気楽。もう少し乗っていたいと思うくらいでちょうどよいのだろう。個人的には、本家に乗った日はずっと雨だったので、そのリベンジにもなる。
空のテラスに上り、船後部と航跡を一望できる半円形のデッキから西の空を眺める。最初の乗船時はやや雲が多かったが、やがてミルクティーのような空が晴れて、大きな鳥を思わせる雲が見渡せた。
2度目の乗船時は雲が少なく、金色に輝く海をずっと眺めていた。
太陽は水面に近づくと急速に光を減じていく。水平線にはいつしか雲が現れて、宝石箱の天鵞絨のように夕陽を包んでいった。
寒くなってきたし、これで終わりと踵を返そうとした時気配がして振り向くと
雲間を押しのけるように現れた赤く大きな玉に息を飲んだ。陸上ではなかなか見られないだろう。
月は東に日は西に
3度目の乗船では小豆島坂手港を出て30分ほど過ぎた頃、左舷側に白い山が見えてきた。
ミニ利尻富士?と一瞬思ったが、もちろん雪のはずはない。姫路沖の家島で、採石の跡が白く見えている。
淡路島が近づくと、島の上に月が浮かんでいると気づいた。まさしく「月もろともに出汐の」。
橋が近づくにつれて月は正面に動いてくる。少しずつ光が増していく。先を行く小船の航跡に導かれるように進む。
明石海峡大橋くぐりの船内放送が流れる頃、月は正面に来て吊り橋とトライアングルを成した。
振り向くと夕陽が今まさに、淡路島の向こうに隠れようとしていた。
雲にしても太陽や月にしても、再度の乗船で同じ場面は決して見られない。まさに一期一会である。
3便は神戸着の1時間少し前、17時20分ごろに明石海峡大橋に達する。2月初旬から中旬にかけては舞子の海岸から夕陽を背に航行する「あおい」の姿が見られる。
日が暮れるとコンフォートリクライニング席では、航行作業に影響を及ぼさないようスタッフがカーテンを閉めに来る。鉄道車両のブラインドと同じ。カーテンをくぐってキャプテンシートのベンチに座り夜景を眺める分には差し支えない。
この時間になるとさすがにくたびれてくるし、下船後の行動予定にも思いを巡らさなければならないしで、もったいないが夜景どころではなくなる。
神戸入港
「二人を結ぶジャンボフェリー」は到着間近の和田岬沖、神戸港の第一関門を通過する時に流される。連絡バスの案内に始まり延々と注意事項が放送されるが、「今日は新船あおいにご乗船いただきありがとうございました。どうぞこの先もよい旅をお続けください。」の締めくくりは印象に残る。大概は「またのご乗車(ご乗船)をお待ち申し上げます。」なのだから。
船は余韻を残しつつ、港の灯りに迎えられて三宮フェリーターミナルに接岸する。向かいには宮崎カーフェリーが出港準備に入っている。連絡バスはすぐに出発するが、三ノ宮駅まで歩いて旅の終わりをかみしめるのも悪くはない。
バルコニー個室
最後に「あおい」の最上級室「のびのびバルコニー個室」について言及する。3階左舷側に4室あり、308室が最も広い。用意したQRコードをドア脇の読み取り機にかざして開ける。中に入るとカウンターキッチンのような水道栓がある。もちろん手洗いもしくは簡単なうがい用である。
※個室の内部は撮影可能
2階ロビーのピアノにわりと近く、自動演奏の音が聞こえてくることもある。
窓を開けてバルコニーに出られる。バルコニーには椅子が2つ設置されている。風が強いので固定されている。上り3便では本州側に面していて明石や須磨の夕景を存分に眺められるが、北向きにあたるので意外と翳りやすく、季節によっては風が冷たく感じられるかもしれない。
室内には大きなクッションのようなものが3個置かれていて、そこに頭を乗せて休める。コンセントは多数設置されている。中距離航路なので本格的な宿泊設備はなく、マンションモデルルームのリビング部分だけが海の上を動いていくような感じ。