特許重要判例を読もう!(7)エアロゾル事件
大阪高裁平成14年11月22日
1.意義
被疑侵害製剤が本件発明の構成要件を充足していても,本件発明の作用効果を有しないという場合において、侵害と認められるか?認めるために何が必要かが判示されました。
2.事件概要
本件は,後記特許権(特許第2769925号)の特許権者である被控訴人が,控訴人に対し,被控訴人の特許発明の技術的範囲に属するとして,原判決添付別紙物件目録記載の製剤の輸入,販売の差止め及びその廃棄を求めた事案である。
原審は,被控訴人の請求を認容し,控訴人が本件控訴を提起した。
争いの中で問題となったのは、作用不奏効(被疑侵害製剤が本件発明の構成要件を充足していても,本件発明の作用効果を有しない)ため,本件発明の技術的範囲に属しないといえるかどうかが問題になりました。
3.判決趣旨
対象製品が特許発明の技術的範囲に属しないことの理由として明細書に記載された作用効果を生じないことを主張するだけでは不十分
その結果,当該作用効果と結びつけられた特許発明の特定の構成要件の一部又は全部を備えないこと,又は,特許発明の構成要件の一部又は全部を構成として有しながら同時に当該作用効果の発生を阻害する別個の構成要素を有することを主張する必要がある。
また,化学や医薬等の発明の分野においては,特許発明の構成要件の全部又は一部に包含される構成を有しながら,当該特許発明の作用効果を奏せず,従前開示されていない別途の作用効果を奏するものがあり,このようなものは,当該特許発明の技術的範囲に属しない新規なものといえる。したがって,このようなものについては,対象製品が特許発明の構成要件を備えていても,作用効果に関するその旨の主張により,特許発明の技術的範囲に属することを否定しうる。
4.検討
作用効果重視説:作用効果を「発明の詳細な説明」「意見書」「審判請求書」等において特記しているときは、その技術的事項は発明王正常の必須要件であるべきだから、これを具備していないものは技術的範囲に属しないとする説です。
この作用効果重視説を基礎に原審では、作用が不奏効の事実から技術的範囲に含まれないとしました。しかし、控訴審においては、それだけでは不十分だとしました。では何が必要かというと、、下記のとおりです。
①当該作用効果と結び付けられた特許発明の特定の構成要件の一部または全部を備えない
②特許発明の構成要件の一部または全部を構成として有しながら同時に当該作用効果の発生を阻害する別個の構成要素を有するという主張
③(化学、医薬の分野で)特許発明の構成要件の全部または一部に包含される構成を有しながら、当該特許発明の作用効果を奏せず、従前開示されていない別途の作用効果を奏するものであるという主張
①はそもそも作用不奏効を主張する必要がないのですし、③は化学医薬の文や特有とすると、実質的に②の阻害要因があることを主張するというのが一般的な方法と言えそうです。
また、作用不奏効の抗弁よりもサポート要件違反の無効理由抗弁の方が最近のトレンドかもしれません。
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