見出し画像

特許重要判例を読もう!(5)端面加工装置事件

東京地裁平成25年10月31日

1.意義

機能的クレームの技術範囲を判示した。

2.事件概要

本件は,発明の名称を「端面加工装置」とする特許権(特許第4354006号)を有する原告が,被告が業として製造及び貸渡しをする別紙物件目録記載の製品(以下「被告製品」という。)が上記特許権に係る発明の技術的範囲に属し,その製造等が上記特許権の侵害に当たると主張して,被告に対し,特許法100条1項及び2項に基づき,被告製品の製造,貸渡し等の差止め及び廃棄を求める事案である。原告特許には機能的クレーム(「金属粉収集機」という概念的な定義)が含まれていたため、クレームの範囲がどこまでなのか?被告製品がクレームを充足するか?が争われた。特許の請求項1は下記の通り。

【請求項1】母材(Mf)のボルト取付孔(Mh)を貫通し,そしてナット(2)で固定されたトルシアボルト(1)の破断面(1c)に生じたバリ(1d)を除去するための端面加工装置において,バリ除去用工具(10,10CA~10CK)と,そのバリ除去用工具(10,10CA~10CK)を回転する回転機構(R,14,70)と,円筒状のフード部(12,12A,12B)とを備え,その円筒状のフード部(12,12A,12B)は金属粉収集機構(12H,16,19A,19B)を有しており,バリ除去用工具(10,10CA~10CK)は破断面(1c)のコーナー部(E)にエッジを形成しないように,破断面(1c)のコーナー部(E)を加工する部分(102C,103C,104C,41a,42a,43)は,コーナー部(E)以外の破断面(1c)を加工する部分(101C,104C,41b,42b,43)よりも,母材(Mf)に近い側に位置していることを特徴とする端面加工装置。

3.判決趣旨

特許請求の範囲の「金属粉収集機構」という上記文言は,発明の構成をそれが果たすべき機能によって特定したものであり,いわゆる機能的クレームに当たるから,上記の機能を有するものであればすべて技術的範囲に属するとみるのは必ずしも相当でなく,本件明細書の発明の詳細な説明に開示された具体的構成を参酌しながらその技術的範囲を解釈すべきものである。

まず、クレーム内に「金属粉収集機構」という文言がありますが、この文言は金属の粉を収集する構造ではなく機能を指しているだけで、具体的にこれがどんなものかを明示していません。しかも、言葉の定義も広くとらえることが出来たり狭い意味でとらえたりすることができます。
これに対して裁判所は、明細書に書かれている範囲からその範囲を解釈すべきとしています。その上で、技術範囲を実施形態から2パターンで認定している。

〔1〕空気侵入系統及び空気排出系統を設け,空気流を発生させて金属粉を連行するようにした構成(第7及び第8実施形態)や,永久磁石又は電磁石を設け,磁力を発生させて金属粉を収集するようにした構成(第9及び第10実施形態)が開示され,これらの構成が好ましいと記載されているものの(【0014】,【0053】~【0066】,図13~16),これらに加え,
〔2〕フード部の半径外方に膨らむようにフード部の円周方向全周にわたって凹部を設けた構成も記載されている(第1実施形態。【0025】,図1及び2)。

被告製品については〔2〕を充足するとして、結局侵害を認めた。

4.検討

(1)クレーム中の符号について
どうでも良い部分ですが、クレームの中にこれほどまでに図表番号を引用した書き方は、あまり目にしません。(私の分野の問題かも)でも、あることはあるので、入れること自体は問題ありません。では、この図表番号は解釈に影響を与えるのか?という問題ですが、裁判所でも判断されています。

特許請求の範囲の括弧内に符号を記載することに関しては,特許法施行規則24条の4及び様式29の2の〔備考〕14のロに「請求項の記載の内容を理解するために必要があるときは,当該願書に添付した図面において使用した符号を括弧をして用いる。」と規定されているところであり,これによれば,特許請求の範囲中に括弧をして符号が用いられた場合には,特段の事情のない限り,記載内容を理解するための補助的機能を有するにとどまり,符号によって特許請求の範囲に記載された内容を限定する機能は有しないものと解される。

(2)機能的クレームの判断について
裁判所の判断が全てですが、従前のクレーム解釈方法と何ら変わらないという点は驚きがありませんが、その手法として明確になった点は大きな進歩です。

特許発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められ,その用語の意義は明細書の記載及び図面を考慮して解釈すべきものであるから(特許法70条1項,2項),技術的範囲を判断するに際しては,出願人の主観的認識ではなく,特許請求の範囲及び明細書の記載によって定めるべきである。

5.まとめ

クレームの解釈は技術的範囲の理解、権利範囲とイコールですから、侵害が問題になった際には、細かく争われます。その分、色々な考え方が積み重ねられてきています。PBPと機能的クレーム、その他の解釈において基本的に同じ考え方で判断すればよいという意味では一貫性がある判決だと感じます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?