見出し画像

むすめの手のひら

どこが臭いんだろう?

生後2か月になる娘の身体に鼻を寄せる。

たぷたぷの首? 違う。

湿疹ができていた耳の裏? 違う。

ん? ここだ。

手の平だ。

ぎゅうっと握られた手。

最近、こぶしを口に入れているし

汗もかいているし。

ちょっとしっとりしている。

その手をゆっくり開いていく。


あ。指と指の間に糸くずが挟まっている。

娘の下に敷いているタオルの糸くずだ。

手をバタバタと動かしていたり

うつ伏せにさせたときに、タオルをつかんでいたりするから

指に絡んだのだろう。

水分と糸くずで、まるで洗濯物の生乾きの匂いがする。


指と指のあいだを開いてやって、糸くずをとっていく。

ふと、母の言葉を思い出す。

「赤ちゃんって指と指のあいだに糸くずが挟まってるんや。

だからお母さん、ずーっとリコの指のあいだの糸、取っとってん。」

そうか、母も今の私と同じことをしてたんだな。

**

「二人目はやっぱり女の子がいい?」

妊娠したことをまわりに告げると、よくこう聞かれた。

一人目が男の子だったから。

「どっちでもいいと思ってます」

私はいつもこう答えていた。

半分ほんとで、半分うそ。

少しだけ、男の子のほうがいいかもって思っていた。

同性ってなかなか難しいのかも、と思っていたからだ。

娘に対して嫉妬したらどうしよう?とか

"お母さんみたいになりなくない"とか言われたらどうしよう?とか。

妊娠中はそんな心配をしていた。

だから健診で先生に、「女の子だね」って言われたときも

素直に喜べなかった。

**

でもね。

人って本当に単純だと思うんだけど

産院で、ピンクの洋服に身を包んだ娘を見たとたんに

「可愛いいい!!!」

となった。

髪の毛が薄いから、可愛いリボンを買おう。

長男の使っていたスタイは男の子用だから、

女の子用の可愛いものを買おう。

そんなことを思っていた。

**

赤ちゃんってこんなに可愛かったっけ?

というくらい、娘は可愛い。

長男のときは、一人目ということがあり

お世話に明け暮れていたので

6か月ごろになるまで「可愛い」と思えなかった。

しかし、娘は退院してからずっと可愛い。

現金なものだと思う。

誰に似たのか色白で、2か月過ぎたころから

ぷくぷくしてきた娘。

最近は、「あー、うー」とお話ししたり

にっこり笑ったりするから

もう、たまらない。

同性だったら難しいかも…なんて

心配していた私はどこかへ行ってしまった。

**

いつか、娘が母親になる日がきたら。

私も話してあげようと思う。

「赤ちゃんの指には糸が絡むのよ。

お母さんも、あなたの指のあいだの糸、よく取ってたんだよ」

って。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?