【映画】7月22日
まず、背景を説明する必要があるかな。2011年7月22日、極右思想を持つノルウェーのテロリストが首都オスロで政府庁舎を爆破、その後ウトヤ島で69名の若者を殺害した事件がありました。ウトヤ島にいたのは「ノルウェー労働党」の党員主催イベントに参加していた若者たちです。当時のニュース記事がこちら。
同じテーマを作品にした「ウトヤ島、7月22日」という作品も視聴しておりまして、実は当時もレビュー書きかけたんですが、あまりにヘヴィで感情を言語化出来なかったんですよね。まあ、これもいずれ書きます。
2作品の違いは、今回紹介する「7月22日」がオスロ爆破からウトヤ島、犯人が逮捕されて裁判に至るまでの、割と経緯を丹念に追ったものであるのに対して、「ウトヤ島、7月22日」はピンポイントでウトヤ島の出来事にクローズアップした感じ。併せて観ると理解が深まっていいかもです。
物語
フィクションではなく史実に基づくものなので、ネタバレ的な要素はあまり考えず書いていきます。まあ、映画的な脚色などはあるでしょうけどね。
2011年7月11日、ノルウェーの首都オスロの17階建ての首相府および法務・警察省庁舎付近でブレイビクが仕掛けた爆弾が爆発。パニックになる市内の様子はウトヤ島に集まっていたノルウェー労働党の集まりに参加していた若者にも瞬く間に伝わります。が、犯人は警官の服を着てウトヤ島に上陸、逃げ惑う若者を次々に射殺していきます。
この映画はここまではスピーディに描かれますが、ここからが重い。144分のうち7割くらいの比重がこちら。
捕まるものの自己中心的な発言を繰り返す犯人、相手がクズでも弁護をしないといけない弁護士、自分の息子の犯行だと知られたくない母親、負傷するも生き延びてハンディキャップを負ったまま裁判に挑む若者の「それぞれの生き方と決断」が丁寧に丁寧に描かれていきます。
感想
考えるポイントが沢山あったんですよね。実際の事件の映画化なので、フィクションやファンタジーの世界観考察なんかとは違う、もっと生々しい、現実に即した施行を余儀なくされたというか。ノルウェーは世界幸福度ランキングで7位の、比較的「幸せな国民が多い国」なのですよ。第二次大戦後、この事件が「一番大きな事件」だったと読んだ事がありますが、そんな国民に降って湧いたかのように降りかかる災厄。日本で言うと地下鉄サリン事件に近いんじゃないかな。犯罪の動機はともかく、無辜の民にテロが襲い掛かる感じがですね。
犯人の犯行動機が極右的排外主義的な思想。愛国心の先鋭化なのかもです。移民問題は欧州は軒並み抱えている問題でもあります。日本も移民は避けるべく進めているし(外国人労働者と移民は違うからね)、入管法や出入国管理は厳しくなっています。が、反対派の中には「目的のためには手段を択ばない」は一定数いるでしょうし、それが彼らの中では正義だったりする訳でして。あと、「数百万、数千万の人口の中には、一般市民に紛れて危険思想の人物が潜んでいる」も意識させられたなぁ。
きついのが「悪意を持ち、卑劣な犯行を行った犯人が五体満足、被害者は身体に大きなダメージを与えられている」という点。加被害者の青年が裁判に向けて「あいつに弱いところは絶対に見せたくない」と吐露するシーンは必見。おそらく監督が描きたかったのはここじゃないかな、と思いました。
犯人は21年の刑期を言い渡されます。ノルウェーは「死刑、無期懲役がない国」です。日本の刑務所と違って「犯罪者でも一定の人権がある」と考える国で(そこが保障されている安心感も幸福度が高い事に寄与しているのかもですが)ゲーム機があったりジムがあったり、至ってアンフェアなのを知っておくと犯人に対するもやもやも増します…
ともあれ、これは観ておくべき。知識も増えるし、役者さんの演技もうまいし、映画的にも長尺を意識させない作りになっているけど、それよりも何よりも「人の在り方、フェアなジャッジ、目的と手段、善意と悪意などを現実に即して考えるきっかけ」になる。
エンタメ作品のように「何度も観返して楽しむ」性質ではないけど、人生で「一度は観ておくといいよ」という作品でした。