【読書】荻原浩「海の見える理髪店」
小説、「海の見える理髪店」を読んだ。短編集。以下、若干のネタバレを含みます。
表題作は文字通り海の見える理髪店で髪の毛を切ってもらうだけの話なのだが、穏やかな雰囲気の中、緊張感ある会話が繰り広げられる。理髪店といえばリラックス空間という側面ももちろん持っているが、美容師はハサミやカミソリを持っている。そのため、血と隣り合わせの空間である。そうしたギャップをうまく活かした一作であるように思われた。
その他、「成人式」という話では、わけあって成人式を迎える子どもの親が成人式に参加する。そのわけとは、子どもを亡くしたこと。いつまでも悲しみに沈んでいるわけにはいかないから、切り替えのために成人式に参加するという。
我が子をなくすということは、その子のありえた未来、そして家族としてありえたはずの空間、さらには生まれていたかもしれない孫について、思いがけないタイミングで頭によぎるということなんだろうと思う。
区切りをつけるということは自分の人生を生きる上で大切であるが、一方で忘れてしまいたくないという思いも間違いなく存在する。両者のバランス、非常に難しい問題であると思った。