【読書】キャス・サスティーン「ナッジで、人を動かす ――行動経済学の時代に政策はどうあるべきか」
「ナッジで、人を動かす」という本を読んだ。サスティーンのナッジに対する考えが記されている1冊で、他の本(例えばセイラーらの「実践行動経済学」)と比べて真新しい主張がされているようには思えない。
ただし、1点気になるポイントがあった。それは選択に伴うコストである。従来の議論では、ナッジには人々が自由に意思決定をする自由を認めているという点で、ある特定の行動を強制する施策とは違いがあると主張がされていた。ここでは意思決定者から選択の自由を奪わないことが重要なポイントとして描かれている。
それに対して、本作では選択のコストという観点が述べられていた点は新鮮であった。たしかに、グーグルマップなどでどこかへのルートを調べる時に、その都度タクシーは使うか、特急は使うか、バスは使うかなどの選択を求められていたら面倒である。だからこそ、例えばタクシーだけ使わなくて他は全部利用することをデフォルトにすることで、こうした意思決定のコストを下げることができる。この点は当たり前であるが新鮮に思えた。
しかし、こうした議論が行き過ぎると、だったら全部決めてもらえば良い、全部の意思決定にデフォルトを用意すればじゃないかという議論にもなりかねない。この点について著者はデフォルトに対する一般市民の意識であったり、何をデフォルトとするべきであるかについての議論をしていて、うまくかわしているように思われる。こうした慎重な姿勢が見えるからこそ、意思決定のコストという点に言及していたのは新鮮であった。