【読書】高橋ユキ「つけびの村  噂が5人を殺したのか?」

「つけびの村  噂が5人を殺したのか?」という本を読んだ。限界集落で起こった殺人事件について、その真相を解明しようと試みる1冊であった。集落まで何度も足を運び多くの時間的・金銭的コストを払っているという点ではこちらもお金を払いたいという気持ちが生まれるものの、何度も繰り返し読みたいと言うほど深い内容ではないというのも正直な感想である。結論が出しにくいという性質であるが故の難しさであるが、読んで面白かったという感想はここに記しておきたい。

興味深い点は2つ。1つはプライドがもたらす負の結果である。殺人を犯した人物は集落で育って東京にて働き、40歳ごろのタイミングで地元に戻ってくる。地元の人間はずっとその地で過ごしたのに対し彼は東京で様々な経験を積んできているので、その経験を活かして地域貢献をしようとする。それがうまくいけばよいのだが、地元の人間からすると急にやって来た新参者が何か張り切っている…という状態でありちょっと距離をおいてしまう。郷に入りては郷に従えではないが、そこで一旦東京から戻ってきたというプライドを捨てて、地元に合わせれば少しは状況が変わったかもしれない。当初は全くの善意から行った行動であるが、それがきっかけとなって近隣の人との距離ができてしまったとすればそれは皮肉なことである。

2つ目は、コープの寄り合いである。私の地元でも生協から商品が届いた頃にはそのユーザー同士で何らかの会話を行っていたが、その様子ははたから見てちょっと不気味なところがないとも言えない。もちろん多くの場合は世間話をしているのであろうが、ここで悪口を言われたら本当に居づらいだろうな…という気持ちを持ちながら、軽く会釈をしつつ寄り合いからすたすたと去っていった記憶がある。本書によると犯人には妄想を過大に行う傾向があるようなので、そんな犯人の近くでコープの寄り合いが行われている状況であれば、自分の悪口を言われているという錯覚をしてもおかしくないと思われた。

犯人は何が現実で何が妄想であるかをしっかりと認識できなくなってしまったようなので、真相解明は困難を極めそうである。遺族としてはやりきれない思いだろうと思う。重い一作である。

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