【読書】村田沙耶香「生命式」

村田沙耶香の「生命式」を読んだ。短編集。村田沙耶香は狂った社会をさも当たり前であるかのように描く力がある。「生命式」はお葬式では誰かが亡くなってしまいそのままでは人口の減少が進んでしまうので、同時に受精を通じて子どもを産んでいこうという発想に立った上での一作である。狂っているとしか言いようのない設定であるが、産む機械発言が問題となったり女性活用という言葉が用いられたりする世の中の延長線上にあってもおかしくないのではと思わされた。

もう1つ面白かったのが「孵化」である。中学校・高校・バイト先・サークル・職場など場面場面に応じて、アホキャラ・しっかり者キャラ・姫キャラ・男勝りキャラを演じている主人公。そのキャラクターがあまりにはっきりと分かれているので、別のコミュニティでの顔を知った友人から二重人格と言われてしまう。そんな彼女がいよいよ結婚をすることとなるが、結婚式でどのキャラを演じようか迷う。夫の前で色々なキャラの自分を演じると、夫は困惑してしまうが…といった物語である。これもキャラがあまりにも異なっているので狂っている世界観であったが、誰といるかによって自分を変えることは不思議なことではない。当たり前の生活の延長線上にありながら、このような狂った世界を描けるのが村田沙耶香の力であるなと思った。

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