【読書】あさのあつこ「ハリネズミは月を見上げる」

「ハリネズミは月を見上げる」という本を読んだ。面白かった。事なかれ主義で自分の意見を主張して波風を立てるぐらいだったら黙って我慢しておこうという主人公(女の子)が、自分の意見を主張せずにはいられない同級生と出会い、成長していく物語。

黙ったり謝ったりしたほうが楽な瞬間が人生にはたくさんあるだろうけど、そこで抵抗しなければナメられてしまう。自分がナメられるだけではなく、自分の所属する集団全体がナメられてしまう可能性さえある。痴漢されたら声をあげるという行いをすれば痴漢が減ると思われるが、このことは黙っているのを良いことに痴漢を繰り返す人間がいることの裏返しだ。我慢しないことは我儘とは違うということが本書の後半で述べられていたが、この小説はつい黙ってしまう人へのエールだと思った。

本作で一番気に入ったフレーズは「逃げるのは恥じゃない。罪でもない。」というフレーズである(197ページ)。このフレーズは確実に「逃げるは恥だが役に立つ」を意識していると思う。逃げ恥も逃げることを役に立つと言ってポジティブに捉えることわざだと思うが、本作では恥でさえないと言ってしまうところに強さを感じた。我慢して現実に潰されてしまうぐらいなら逃げてしまった方が良いのである。

全体を通して声を上げようというメッセージが一貫していると思われたが、それを政治的な色を帯びた運動的に描いていない所が良いなと思った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?