【読書】川端裕人「『色のふしぎ』と不思議な社会 ――2020年代の『色覚』原論」

「『色のふしぎ』と不思議な社会」という本を読んだ。素晴らしい本だと思う。この本は色がどう見えるかについて扱った本。なので、桿体細胞や錐体細胞といった視覚の基盤となる科学的な話も扱う。けれども、話はそれだけにとどまらない。「ふしぎな社会」とあるように、「色覚異常」を社会がどう扱ってきたかという社会的なことも扱う。

そもそも正常・異常というのがおかしな話。大学入試では合格・不合格と2分されるけれども、実際は80点の人もいれば81点の人もいる。連続的な数字を無理やり合格・不合格の2値に変換しているので、惜しくも不合格の人にも不合格だったという結果しか残らない。

色覚についてもこれと同じ話。「色覚異常」の程度が「正常の人」とほぼ変わらないのに、少しの値の違いによって「異常」とみなされて「異常者」と自覚して生きて行くのは大変なことだと思う。もちろん正常だと思ってパイロットを目指してきたのに、直前の段階で色覚異常であることに気がついて諦めざるを得なかったみたいなケースは避けたいところ。しかし、だからといって、「異常者」というレッテルを無制限に貼っても良いということにはならない。

またたちの悪いことに、正常・異常を見極めるテストも絶対見極めることができるとは限らない。正常な人が100人いたら、1人は異常として判断してしまうなんてこともあるかもしれない。もし正常:異常の比率が1000:1だったら、異常でそのまま異常と判断されるのが1人、正常で異常と判断されるのが10人ということになる。なので、試験で異常と出ても、実際に異常とは限らないのが困った所。

生命に関する話と社会に関する話がバランスよく描かれていて、これぞライターの仕事であると思った。

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