【読書】金原ひとみ「アンソーシャルディスタンス」

「アンソーシャルディスタンス」という本を読んだ。繊細で人よりちょっとした違いに敏感であるが故に自分に自信を持てず逸脱してしまう人たちは、時に単なる逸脱者で逸脱者であるが故に弱い立場に置かれているのだと誤解されることもある。本作では、生きづらさを感じているような人々に焦点をあてた物語がいくつか編まれていた。

例えば、10才も年下の男性と付き合うこととなり満足とともに戸惑いを隠せない、むしろ戸惑いのほうが大きい女性。この女性はどうしても10才年下の男性と自分を比べ、流行ったゲームが違っていたり、お肌のコンディションやみずみずしさが違っていたりすることに気がつき、劣等感を抱く。結果、彼女は美容整形を行うこととなるが、10才若返るなんてことは難しく、自分の顔の中の完璧ではない部分に目が行き整形し、整形するたびにこの整形が失敗するかどうか不安になったり、整形していることを彼氏に悟られまいと会うのを控えたりする。さらには道端での「おばさん」という発言も自分に言われているのでないかと錯覚してしまう。10才下の人からも言い寄られるのはその魅力故であると思っていたが、逆に10才下の人と付き合うが故に自信をなくすということもありえるというのは気がつかなかった。興味深かった。

また、日頃つらい社会人としての生活を行う中で唯一の安らぎがライブであったという人も描かれていた。ライブに行くことを楽しみに頑張ってきたのに、そのライブが中止となり、結果として生きる意味を見失ってしまうという物語。エンタメ業界に携わる人も1つの仕事をしているのにもかかわらずエンタメ業界は不要不急のしごとであるとみなされるやりきれなさを、エンタメがないと生きていけない消費者の観点から救う1作であった。小説を書くという仕事も1種のエンタメであるせいか、この問題を直球で扱う小説を自分はまだ読んだことがないので、意外性のあるテーマではないと思われるのに新鮮であった。

総じて読みやすかった。

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