官能師
20年以上前に、友人宅のパソコンで3人で相性診断や性格診断をして遊んでいた。
パソコンで、というのは単に当時スマホがなかったからである。
「あなたに向いている職業」という診断をやってみたら、ほかの2人にかなりピッタリな職業が出てきたので、私も期待してやってみると、サービス業、評論家などに交じって、前の2人には決して出てこなかった職業がヒットした。
「官能小説家、エロマンガ家」
友人ふたりが「向いてるよ!」と言いながら笑い転げる。
書けるかとか描けるかという問題以前に、向いている気が自分でもした。
特に官能小説というのは、はっきり言って純文学より読みたいし推理小説の次に興味がある。
そして、官能的なストーリーを書く人はかならずしも経験豊富ではなく、むしろ経験以上に妄想力が豊富な人が多いと聞いた。
私にピッタリではないか。
今の仕事を一生やろうとは思っていないし、書こう。
そして20余年が過ぎた。
私はまだ、官能的な作品をひとつも仕上げていない。
幼馴染は今年、絵本を出版した。
彼女も官能小説家を書いてみたいらしい。その行動力と文章力があればやってのけるかもしれない。
あせってきた。
人生には限りがある。
しかし今日も私は、Xでクスっと笑える程度の下ネタをつぶやくばかり。
そんな中、料理のレシピを官能的にしたら面白そう、と言うとフォロワーさんがあっという間に官能化されたレシピをつぶやきだした。めちゃくちゃ上手だ。
あせってきた。
笑えないほど直接的なエロスは逆に萎える。ギリギリのラインで、ギリギリ美しく、だけどクスっと笑えるような、官能…身近なものに官能を与えたい。エロティックなものを排除して知的ぶった顔したドライな連中を、ねっとりさせてやりたい。
官能師、か。
ふと、言葉が降りてきた。
納棺師のような静謐な響きと、
地面師のような毒々しい響きを併せ持つ、なんとも魅力的なワードではないか。
官能師になりたい。
官能小説家より先に、官能師になろう。
で、官能師って何?
ていうか、そういうAVとか既にありそうだけど。
いや、気にしないで進もう。
人生には限りがあるのだから。
(どこかへつづく)