【映画感想】小津安二郎「お早う」を観て
いつか見ないといけないと思っていた小津安二郎作品。
娘の方が先に見るとは露も思わず。
学校の映画鑑賞会で見てきたらしいので調べてみるとコメディとカテゴリーされてあったので、TSUTAYAディスカスでレンタルすることにした。
閑静な住宅街(と言っていたのでそうなのであろう)で繰り広げられる他愛もない会話。
ロケ地がどこかは分からないけれど空き地が多く、新興住宅地のようで戸建てではあるが区画売りっぽい同じ作りの住宅が並んだコミュニティでのお話。
高度成長期にありがちな、空気がよどんで、黄ばんだようなレトロな昭和の風景がたまらなく良い。
今では冗長だと言われそうな会話やテンポ、独特の間を大事にした作品は見ていて安心感すら覚える。
冒頭は子供たちのおでこを押しておならを出すというおバカな登校時のやり取りから始まり、家の一切を取り仕切るご婦人たちのご近所づきあいなど、まるでその家の住人になったかのような臨場感を味わえる。
カメラワークが独特で二人での会話シーンであっても役者はカメラ目線でセリフごとに一回ずつ話者へと切り替わるキャッチボールな演出だ。
何かで見たが、昔の西部劇もそうであったとリー・ヴァン・クリーフだったかDVDのインタビューで語っていたような気がした。
常にそうというわけではないのだけれど、時々印象づけるためかそういったシーンが挿入される。
おもに子供が主体となってストーリーは進んでいくのだが、大人の世界では自治会の会費が行方不明になり疑心暗鬼になったりするドロドロ展開もあったり、その原因となった義母に「耄碌しやがって…姥捨て山に行くか?!」といったような発言も見られてひどいもんだが、とても面白い。
キャラクターもとても個性的で特筆すべきは、メインで繰り広げられる家庭の林家の次男、いさむ。演じているのは島津雅彦さんというお方。
扉絵になっている少年なのだが、とても愛くるしいのだ。
兄のミノルとは6歳くらいは年が離れていそうなのだけど、とてもませているというか早熟。生意気でさえあったりするのだけれどそこがまた印象的。
演技もどっしりと落ち着いている印象があって俳優としては20歳くらいで引退してしまったようだが、それまでにもたくさんの作品に出演されている。
娘いわく鑑賞会でも子供たちの爆笑をかっさらったシーンがいさむの「アイラブユー」という挨拶だ。
近所の色香漂うお姉さんの家から帰るときなどに「アイラブユー」と目も合わさずに言い残して去っていく。それを年端も行かぬ少年がさらっといってのけるのだから、あっけにとられるのだがだんだん癖になっていく。
どうやら「じゃ、またね」という意味合いで言っているだけなのだけれど、『なるほど、いいな』と思わされた。
わたしも使って行こうかなと思う。
去り際の軽い「アイラブユー」。なんかいいよね。ちょい残し。
【追記】
終盤のシーンでドラクエ1の「ラダトーム城」と同じメロディが流れてきて「ファッ?!」となりました。
最初の20秒くらい同じで、そのあとの構成もなんだか城っぽい高貴でフォーマルな感じがあったのがうれしいというかなんというか。
音楽を担当するのは「題名のない音楽会」でもお馴染み、黛敏郎氏。
すぎやまこういち氏のドラクエ曲を批判するような発言をしている事からそのあたりの確執を伺わせるような瞬間でもあります。ここから始まったのではないか?
ときに一方通行にならなくもない軽いコミュニケーション。
天気の話や社交辞令など、アイスブレイクとまではいかなくても
円滑に関係を深めていくための知恵であった他愛もない会話。
そんな古き良き泥臭い昭和がそこには残されていた。
ラストも微笑ましく暖かい気持ちになれる素敵な映画だった。