予備試験実務基礎(民事)の事実認定問題の書き方
※2023年8月5日加筆
Twitter上で質問がありましたので,実務基礎民事の問題のうち,いわゆる事実認定に関する問題の書きか方について,ちょっと私見がありますので紹介します。書き方というか問題文の読み方にいてという側面が大きいです。
今回の記事の内容は,直近(令和3年7月10日11日実施)の予備試験論文式試験に向けての個別指導に際して,再度私自身が問題を徹底分析したうえで,これまでの実際の弁護士としての仕事の経験や,司法研修所での指導の動向などの情報を収集し,まとめたものになります。
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1 実務基礎(民事)の問題構造
実務基礎(民事)の設問は,おおむね一貫しており大きな変化がありません。多少の差異は年度ごとにありますが,おおむね以下の通りの設問の組まれ方です。
設問1
依頼者からの相談をもとに原告代理人弁護士として訴状を作成する場面です。それに際して,①訴訟物の検討、②請求の趣旨の記載、③請求原因事実(要件事実)の具体的事実を検討し記載、④要件事実の整理理由を記載させる、設問です。
年度によっては別設問で保全の問題を書くケース等もあります。
設問2
相手方(被告)が訴状を受け弁護士に相談し,被告代理人弁護士として答弁書を作成する場面です。答弁書作成の過程で、抗弁になる要件事実の検討や認否(主に積極否認)について具体的に書かされます。また,理由を付してなぜそれが抗弁事実になるのかという整理理由を答えさせる問題が出題されます。
設問3
原告側として再抗弁を聞く問題が出題されたり,保全の手段を書く問題だったり,法曹倫理だったり,実務基礎のその他の論点が出題されます。
設問4
以上の書面のやり取りを経て口頭弁論及び弁論準備手続が終了したうえで,証拠調べとして証人尋問・当事者尋問を経て,準備書面で事実認定について論述させる問題が出題されます。
以上です。
設問の順番の前後は変わったりしますが,大体こんな感じで平成26年以降は固定されている印象です。それ以前は,要件事実の比重が高く事実認定はせいぜい二段の推定を軽く問う程度,保全に至っては問われていない状況でした。
保全は口述試験で聞くのでそこですみ分けている印象でした。
2 民事裁判手続きの流れを意識すること
上記の説明の通り,設問は裁判の実際の手続きに沿って進んでいきます。具体的には,訴状の提出→答弁書の提出→準備書面の提出…という形になっています。
これは民事裁判でいえば,第1回口頭弁論,第2回口頭弁論,第3回口頭弁論という流れで進んでいることになります。ちなみに,第1回口頭弁論の後に弁論準備手続きに付されている年度もあります。
実際の争点がある民事裁判でも上記のような流れで事件が進行します。実務では,あくまで私の経験に基づく一般論ですが,第1回期日は原告代理人弁護士出頭の上で訴状の陳述,答弁書は通常3行答弁(気になったらググってみてください)で被告欠席になり擬制陳述になります(たまに出頭してくる代理人弁護士もいますが…)。
そして,第2回口頭弁論では当事者双方代理人の出席のもと,被告より訴状に対する具体的な認否反論を記載した準備書面が陳述されます。第2回から弁論準備ということもよくあります。
争点があるケースでは多くの場合,裁判官(合議事件の場合は裁判所)が弁論準備手続きに付します。その後は,数回(場合によっては10回以上)の弁論準備手続(これは法廷ではなく書記官室で非公開で行われます)を経て,第3回口頭弁論で弁論準備手続きでの争点整理の結果が陳述(何条が根拠か確認してみてください)されます。
その結果を踏まえて認証の証拠調べ,具体的には証人尋問・当事者尋問が行われます。
それを経て,第4回口頭弁論があります。そして,尋問を経て最後に提出されれる準備書面,いわゆる最終準備書面を双方代理人が陳述して,弁論が終結します。そして,判決期日が決まります。
なお,この間に随時和解のやり取りが進むこともありますが,和解に関しては出題がないので割愛します。
3 準備書面問題の意義
さて,この流れでわかる通り,設問4の準備書面とは,証拠調べ等が終わり最後に提出する準備書面(最終準備書面)を指すといって間違いないと思います。これは,作問者たる司法試験予備試験考査委員が,法曹である司法研修所の教官でもあること,司法研修所の導入修習のカリキュラムの内容などから考えても合理的です。
つまり,設問4で聞かれる準備書面の作成とは,最終準備書面の起案のうち,一部の争点についての起案内容を論述させる問題だということがわかります。
ここで,あらためて準備書面の意義について説明します。準備書面とは,当事者の主張する具体的事実を記載する書面です。つまり,弁論主義の第1テーゼの現れたる書面です。そこでは,具体的な事実関係の主張をメインに証拠の評価に関するなどがなされます。
なお,準備書面において法律上の主張についてもされることも当然ありますが,少ないです。なぜなら、法的判断は裁判所の専権事項です。ですので,法律上の主張は特段の事情(個別法や条例など普段裁判官が見ないような法律や,解釈が定まっていない条文について等)がなければ記載しないことが通常です。
したがって,準備書面の問題では,設問に記載されている通り,一定の争点に関する具体的な事実の存否に関して,代理人弁護士としての見解を述べる問題,と解釈できます。そして,この書面は最終準備書面であることから,裁判官がこれを見て,そのまま判決文に使いたいような書面,つまるところ裁判官を説得できる書面である必要があります。
研修所の民事弁護起案のようなすべてを記載する問題であれば、前提となる法律構成をしっかり指摘しないと、評価が下がる(二回試験なら落ちる)こともありますが、実務基礎(民事)の設問と制限時間では法律上の争点を指摘させる問題は出題されにくいのではと思います。もし法律的な話を出すと、民法とか民事訴訟法となってしまいますし…
4 具体的な書きか方
それでは,これまでの問題文の分析を踏まえて,実際に答案作成する際の具体的な注意点を示します。
(1) 法律上の主張は最低限しか記載しない
まず,準備書面問題であるにもかかわらず法律論を大展開する答案を見かけますが,これはナンセンスです。前述の通り,準備書面では大きく法律論を展開しません。また,問題文の指定的にも1枚程度で納めるようにとされていることから,法律論を大展開すると,実際に得点となるような供述や証拠の評価,それを前提とした事実関係の評価・説明が十分にできないわけです。
具体的には,二段の推定の法律論の論証なども当然の前提として扱ってよいわけです。ですから,二段の推定の論証をフルスケールで論述するのではなく,どの部分が問題になっているのか,端的に指摘したうえで具体的事実関係の評価・説明に重点を置くべきです。
(2) 事実関係の羅列だけで評価がない
次に,これもよくある話ですが,事実関係をただ羅列するだけの答案をよく見ます。準備書面は裁判官を説得するために提出するものです。事実関係はこれまでの手続きで明らかになっているわけですから,その総まとめ的な評価を経験則に従って記載しなければ説得的ではありません。そのため,事実関係を羅列しただけでは,評価が入っていませんので裁判官を説得するような文章にはなりません。
そこで重要なのが経験則です。
裁判官は、自由心証に従って事実の存否を確定させます。その際には,経験則を用いて事実関係の有無を検討します。経験則とは,事実関係はこうであるから,通常はこうなるはず。にもかかわらずこうした事実関係はない。といったようなものです。
もっとも,経験則といってもそこまで難しいものが出題されているわけではありません。少なくとも試験で出るようなレベルの経験則は,過去問分析すればある程度分かるはずです。通常ならこうした場合は契約書あるよね,こういう人物関係なら印鑑を盗めるよねとか,,その程度です。
ちなみに経験則には常に例外が付きまとうことになりますが,試験のレベルにおいてはそこまで経験則の例外にフォーカスしたような問題は紙面の関係もあるので出題されないだろうと私は思っています。
(3) 判断構造を意識しない答案はダメ
最後に事実認定問題でよくある誤解ですが,自分の感想を書けばいい!と思っているというか,型がないと誤解しているのか,事実認定起案の型が守られていない答案が相当数にのぼります。
ここが最重要ですが,事実認定の型を一から説明すると長文になりますので割愛しますが,この点の勉強がおろそかな人が多いです。
事実認定起案の型には第1~第4類型まであること,争いのない事実関係を確定させ,動かしがたい事実を整理すること,争点に関する直接証拠の信用性を検討するなどなど,一定の型が存在します。
そうした内容は,以下の教材を使用して学ぶことをお勧めします。これは司法研修所のテキストですので有効です。ロースクールの事実認定や民事実務のカリキュラムでも使用している学校は多いと聞きます。この本は少し読みにくいですが,予備校のテキストや教材などではそこまで重視して教えているものをあまり見かけないので,これが市販のものとして一番良いと考えます。
もっとも,しっかり事実認定を勉強したい方はこちらの教材もおすすめです。
※とはいえ、ここまでは使うかは人による。。
また,事実認定起案の参考例が載っていますので以下の書籍もおすすめです。
また,予備校の講義で言えばこちらがおすすめです。
前者は直近の合格者の視点が学べる点,後者は実務基礎科目全般が学べる点でおすすめです。
その他,各予備校の実務基礎講義などにも記載はあると思いますので自身のテキストを振り返って確認してみてください。
5 まとめ
以上になりますが,①手続きにおける書面の意義を理解する②設問で問われいることの真の意味を理解する③事実認定の型を意識し,無駄のない答案作成を心がける,ということになります。
具体的な事実認定の書き方に関しては別途記事を作成しようかと思いますのでその時はぜひ読んでください。
今後こんな記事読んでみたいなどの感想をくれるとうれしいです。
よろしくお願いします。
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