たった7文字で自己紹介!?本当の言葉の力とは?外資系企業での研修ストーリー
たかしは、都心の高層ビルを見上げた。
外資系企業。初めての場所だ。
これまで企業研修の講師は何度か経験してきたが、外資は勝手が違う気がしていた。
「まぁ、やることは変わらないか。」
スーツ姿のビジネスパーソンが忙しなく行き交うロビーを抜け、案内された会議室に入る。
無機質なガラス張りの空間に、最新型のモニターと洗練されたデザインの椅子。
たかしは普段のカジュアルなスタイルにジャケットを羽織ってきたが、場の空気はピリッとしていた。
「たかしさんですね?人事部の佐藤です。本日はよろしくお願いします。」
案内してくれた人事担当の佐藤は、名刺交換のときも笑顔を崩さない。
だが、その裏には「成果を求める」外資系企業特有の空気があった。
研修テーマ:「言葉の力でプレゼンスを高める」
参加者は20代後半から30代前半の若手社員たち。
グローバルな業務に関わるメンバーも多く、皆プレゼンス(存在感)を高めたいという思いがある。
たかしはホワイトボードの前に立ち、軽く息を吐いた。
「皆さん、初めまして。吉免たかしと申します。コピーライターです。
今日は“言葉の力でプレゼンスを高める”というテーマでお話しします。」
少しの沈黙。
その静けさの中で、たかしは言葉を選ぶ。
「突然ですが、“自己紹介”をお願いできますか?30秒で。」
ざわめく参加者たち。
たかしは、あえて何の指示もなく言った。
「ルールは特にありません。ただ、“印象に残るように”。」
しばらくして、数人が自己紹介を始めた。
だが、ほとんどが形式的だった。
たかしは静かに頷き、ホワイトボードに一言を書いた。
「何者か?」
「皆さん、何者として覚えてもらいたいですか?職業や役職を並べるだけでは、印象は残りません。」
社員たちが息を呑む。
たかしの自己紹介
「例えば、僕が自己紹介するなら——」
たかしはゆっくりと口を開いた。
『言葉で、人の心を動かす仕事をしています。』
静けさが会場を包む。
「僕が“コピーライターです”と言うより、ずっと印象に残るでしょう?
“何をしているか”より、“どう人の役に立つか”を伝える。
これが、言葉の力です。」
社員たちの顔つきが変わった。
事例:シンプルな言葉が生む影響力
たかしは過去の仕事の事例を紹介した。
「ある化粧品ブランドの広告で、機能性ばかりを伝える案が並んでいたんです。
でも、僕はこう提案しました。」
『鏡の前で出会う、いちばん好きな自分』
「“潤い”や“美白効果”は説明しなくても伝わる。これは、体験を想像させる言葉です。商品そのものじゃなく、得られる未来を伝える。」
社員たちはノートに何かを書き留め始めた。
実践ワーク:短い言葉で伝える
たかしは参加者たちに課題を出した。
「これから3分間で、自分の仕事を7文字以内で表現してください。」
ざわつく会場。
「7文字?短すぎませんか?」
たかしはにやりと笑った。
「短いほど、想像の余地がある。伝えるんじゃなく、伝わる言葉を。」
社員たちは真剣に考え始めた。
3分後——
「未来をつくる。」
「挑戦を形に。」
「壁を壊す。」
どの言葉にも、社員たちの想いが込められていた。
たかしは満足げに頷いた。
「いいですね。言葉には、人を動かす力がある。短い言葉でも、しっかり届くんです。」
研修の終わりに
たかしは最後にこう締めくくった。
「今日覚えておいてほしいのは、“言葉は使い方で力が変わる”ということ。長く説明するより、短く本質を突く言葉のほうが、ずっと強い。ぜひ、皆さんの仕事でも試してみてください。」
社員たちは静かに頷き、拍手が自然と起きた。
研修後
帰り際、先ほどの人事担当の佐藤が声をかけてきた。
「たかしさん、さすがですね。社員たち、かなり刺激を受けていました。」
たかしは軽く肩をすくめた。
「言葉は、どこでも通じますよ。たとえ外資系でもね。」
たかしはビルを出て、冷たい空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
自分の言葉が誰かの背中を押せたなら、それで十分だ。
スマホが震える。
次の依頼かもしれない。
でも、たかしはそのままポケットに手を入れた。
——言葉の力は、どこにいても変わらない。