K2滑落続報。平出和也、中島健朗の救助活動打ち切り。
深夜に衝撃的な続報。
K2の7000m付近から滑落した世界のトップクライマー、平出和也、中島健朗ペアの救助活動が打ち切られたことが、所属会社である「石井スポーツ」から発表された。
同社のHPは現在アクセスが集中しており、閲覧ができなくなっていて、詳細な経緯はまだ分からないが、恐らくはかなり前から、救助が不可能だという見通しは立っていたように思う。
なぜなら、K2は世界でも最高難度の山であり、しかも西壁は、近年まで登頂が成されていなかった程のシロモノ。更に言えば、2人がいるのは、ソレの未踏ルート《まだ誰も登っていないルート》の線上、7000m地点付近である。
ヘリが降りられないような垂直の壁、7000m地点に、歩いて救助隊が向かうのは、まず不可能だ。
なぜなら恐らくそのルートは、世界最高レベルのあの2人だからこそ登れるルートであり、そして世界最高レベルのあの2人だからこそ、7000m地点まで到達できたのだから。
2018年、K2を下見した際、平出は、
《今の実力なら半分までしか登れない》
的な発言していたが、その時点で2人は、誰もが認める世界最高水準の、トップオブトップのクライマーだったわけである。
にも関わらず、半分・・・?
《無論、確立されたまだ安全《といっても安全じゃないが》とされているルートであれば、いくらK2といえど、2人ならまず登頂は間違いないと思う》
《誰かの足跡がついていない線を引き、登る》
それが2人の共通の目的であり、認識である。
よって恐らく、彼らがK2に引いた今回の線《登山ルート》は、とてつもない難易度だったはずだ。
だからこそ下見以降、2人は来るべきK2に備え、
2019年にラカポシ《7788m/パキスタン》
2022年にカールンコー《6977m/パキスタン》
と、相次いで登頂を果たしてきた。
※ラカポシ登頂はピオレドール賞受賞!
更に平出に関しては、2021年、サミサール《初登頂した平出が名付け主/6032m》も異なるパートナーと登頂しており、それら全ての経験と実績は、このK2挑戦へ向けてのステップ、リハーサルであったのは、想像に難しくない。
要は今回のこのK2挑戦は、偉大な登山家である2人にとっても、いわば集大成だったわけである。
そんな超絶高難度の線を、あの2人以外の誰が辿れるというのだ?
今現在世界を見渡しても、彼らと同レベルのクライマーは、恐らくは数えるほどしかいないだろう。
野口健氏に対する批判はおかしい。
今回のこの《救助打ち切り》という判断は《筆舌に尽くしがたいが》二次的な被害を考慮すれば、至極妥当であり、致し方ないと個人的には思う。
ただ、姿は確認できるのに打ち切りを承認したという2人の家族を思うと、胸が張り裂けそうである。
まさか、あの聡明で、生命力に溢れたコンビが、植村直己と同じ運命《亡骸も回収されず、亡くなったと認定されてしまう》を辿るとは、筆者は夢にも思わなかった。
滑落直後から、一部海外のサイトでは希望がないことが断言されていたものの、正直なところ、情報が乏しすぎて、それが逆に
《彼らならあるいは・・・》
という一筋の光になっていた側面は否めない。
《通常、8000m級の高所登山における認識としては、滑落はイコール終わりに近い》
それほど、死の匂いから程遠いコンビであった。
今後、彼らの体が家族の元へ帰ることは、果たしてあるのだろうか?
かなり難しいかもしれないが、そんな日が来ることを心より祈る次第だ。
あと、今回の滑落の報道に際して。
様々な方が《覚悟はしていただろう》と書いていたが、筆者は、それは大きな勘違いだと思う。
平出和也にとっての登山は、
《生還すること》
であり、彼には事実、登頂を目の前にしての撤退の経験もあるのだから。
彼は死を覚悟して、一か八かで山に登るタイプのクライマーではない。
無論、そういうこともあり得ることは重々認識はしていただろうが、死を強く意識するような山なら、平出は登らないことを選ぶだろう。
つまり、十分な準備と自信を経て、しかも状況によっては撤退する強い意思も持ちながらの挑戦の中で起きた、これは不慮、不意打ちの事故なのだ。
自然を相手にするということの難しさを痛感させられる今回の滑落だったが、決して、ダメ元の挑戦ではないし、彼らはそんなレベルの2人ではない。
ただ少しだけ、追記をするなら。
今回は待機が長びき、 滑落に繋がった山頂へのアタックは、悪天候の切れ間、まさにラストチャンスだった模様だ。
《これを逃したら》という焦燥感が、2人の判断に狂いを生じさせた可能性は0ではないかもしれない。
とはいえ、待機をして悪天候をやり過ごしていたのは、慎重な2人が、常に見せる姿である。
それだけは、ここに明記したいと思った。
あと、著名なアルピニストの野口健氏が、平出らを案じる呟きをして、なぜか叩かれているようだが、それはやめた方が良い。
確かに野口氏は、クライマーとして、山の専門家として著名ではあるが、高名ではない人だ。
メディアプロとしてヒマラヤを舐め、散々な目にあいながら全く懲りず、最後は亡くなってしまった栗城氏と、今回、平出らを同一線上に並べるような発言があったことを見れば、おのずと分かるだろう。
彼は、教育部門の《尾木ママ》のような、要は象徴的な人であり、お偉方の素人達にとって《山の窓口的》な方なのだ。
無論、高所登山の経験も多いのだろうが、おのずと平出や中島とは、見ている景色もレベルも、山に対する認識や感覚も、異なるように、筆者は思う。
それに、平出と野口氏には面識もある。
つまり、他人には解らない平出に対しての感情が、彼にもあるということ。
この《救助打ち切り》の報を受けて、更なる炎上が起きないことを、切に祈る。
平出和也と中島健朗を想い、一献。
今回、この滑落事故で、時の人になってしまったことを、2人は忸怩たる想いで眺めているだろう。
でも、夢の過程で、憧れの山で眠るのだ。
平出ファンの筆者は、そう自分に言い聞かせ、今日もまた仕事に行く次第である。
山男である彼らは、体をK2に委ねた。
きっと魂は、家族の元に帰っているだろう。
今夜は、飲んじゃうな、こりゃ。。。